黒田投手が提示した日本人メジャー投手の成功の秘訣とは?
引退会見で求められたアドバイス
11月4日に改めて行われた黒田博樹投手の現役引退会見を、動画サイトでチェックし、その金言に思わず感嘆してしまった。会見終盤で日米で成功するアドバイスについて問われ、黒田投手は以下のように応えてくれた。
「一番はその環境にいけば、その環境を受け入れないといけないというか、当然アメリカと日本というのは野球に対する考え方からして違うと思いますし、先発ピッチャーに対する考え方にしても違うと思うので、それを柔軟に受け入れて、そこから自分で何をつくっていくのかを考えてやれば、日本にもたくさんの素晴らしい選手がいるので、そういう考え方を少し持てば、必ず成功できる選手がたくさん出てくると思います」
発言の内容からもわかるように、どうやら先発投手に向けたものであるようだが、これまで長年MLBの取材を続けてきた中で、日本人投手がMLBで活躍する秘訣が黒田投手の言葉にすべて凝縮されているのではと、激しく同意させられた。
すべての日本人投手が成功できない訳
これまで多くの超一流と言われる日本人投手たちが海を渡ってきた。しかしそのすべての選手たちが、日本同様の活躍ができていないのは明白な事実だ。その成功できる投手、挫折してしまう投手の差こそが、MLBというこれまでと違った環境で新しい自分(投球)を生み出していけるかどうかなのだ。
MLBで成功する秘訣として新しい環境への順応はずっと言われ続けてきたことで、何ら目新しいものではない。中4日の登板間隔、滑るボール、固いマウンド、過酷な移動等々、日米間での環境の違いはすでに誰でも知っていることだろう。
重要なのは発想の転換
だが黒田投手が言わんとしていることは表面的な部分だけに留まっていない。黒田投手がMLB時代にそうであったように、環境の違いのため日本でやっていた投球ができないという現実を受け入れ、さらに野球に対する考え方の違いから、同じ投球でも評価のされ方も違ってくることを理解し、MLBで評価される投球を突き詰めていく。つまりは日本でやってきたものを土台にして新たなものを生み出していくという、発想の転換こそが最も重要になってくるのだ。
成功した日本時代の投球を理想としそれを追い求めた結果、「日本の時のように~できない」は完全なる思考停止状態に陥り、それ以上前に進むことはできない。
成績以上の評価を受けた黒田投手
黒田投手がドジャースと結んだ最初の3年契約を終えた成績をみてほしい。2年目に打球を頭部にぶつけるアクシデントもあったが、28勝33敗、防御率3.60、完投数2と、広島時代からは明らかに見劣りする数字だ。
しかしこの3年間で黒田投手は評価を上げ、1年契約を続けながらその後4年間もチームの主軸投手として投げ続けているのだ。それはMLBでしっかり評価を受けるため、年間を通してローテーションを守り、クォリティー・スタート(6イニング以上3失点以下の登板)を量産し、常にチームに勝つチャンスを与える投球に徹したからに他ならない。
日本人投手の実力は引けを取らない
黒田投手の指摘する通り、MLBでも通用するような投球ができる投手は日本にもたくさんいる。先発投手ではないが、昨年ロッテから戦力外通告を受けた中後悠平投手が今年ダイヤモンドバックス傘下のマイナーで、メジャー昇格一歩手前までのチャンスを掴む活躍をみせたように、日本人投手の実力が劣っているわけではない。
まさに黒田投手の思考法、発想の転換が成功のカギを握っている。