「ヘイト増幅を許した」Facebookはどこで間違えたのか?

ジョージタウン大学でのザッカーバーグ氏の講演が「フェイスブックの転換点となった」(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブック自身が人権問題の専門家に依頼してまとめた、人権に関する外部監査報告書が発表された。フェイスブックの抱える問題を、89ページにのぼる検証作業の中で明らかにしている。

報告書が指摘するのは、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が掲げる「表現の自由」の旗印と、政治家の投稿を規制対象外としたことが、ヘイト氾濫を許容するきっかけになってしまったという点だ。

そして「表現の自由」の旗印が行き着いた先は、トランプ大統領の「略奪が始まれば、銃撃が始まる」などの投稿の扱いをめぐるフェイスブックへの批判の渦だ。

フェイスブックは、そのツールとアルゴリズムによって、ユーザーが過激主義のエコーチェンバーに入り込んでしまうことを全力で阻止する必要がある。もし、それが機能しなければ、危険な(そして命にかかわる)現実世界の結果が待ち受けている。

報告書は、この問題を放置することの危険性を、そう指摘している。

一方で、ブルームバーグは、フェイスブックが11月の米大統領選投開票を前にして、政治広告の禁止を検討していると報じた

フェイスブックは、政治家による政治広告も規制の対象外としており、監査報告書が指摘していた問題点の一つだ。

フェイスブックは、自らの問題に気づき、軌道修正を行えるのだろうか。

●89ページの指摘

報告書は7月8日に発表された。監査にあたったのは、人権擁護の専門家であるローラ・マーフィー氏と、弁護士のミーガン・ケイカス氏を中心とするチームだ。

2018年5月から調査を開始し、同年12月と翌2019年7月に中間報告を公開。今回の公開分が最終報告となる。

調査が始まる2カ月前の2018年3月には、フェイスブックのユーザーデータ8,700万人分が、前回の米大統領選でトランプ陣営のコンサルティングを行った英ケンブリッジ・アナリティカに不正流出していたことが発覚している。

この事件により、同年4月にはザッカーバーグ氏が米上下両院の計10時間におよぶ公聴会で証言。ユーザーのプライバシーをめぐる批判の矢面に立たされていた時期だ。

※参照:「個人情報は売っていない」ザッカーバーグ氏がビジネスモデルを死守する:10時間100人質問の公聴会(04/12/2018 新聞紙学的

全89ページにわたる今回の最終報告書は、AIのバイアスやプライバシーにいたるまでの幅広いテーマについて、フェイスブックの人権に関する取り組みを検証している。

中でも注目されるのは、コンテンツ対策をめぐるこの間のフェイスブックの動きと、現在進行形の批判の渦についての、人権専門家らによる評価だ。

●フェイスブックの転機

マークのジョージタウン大学における講演が、フェイスブックにとっての転換点を意味するものだったようだ。

監査報告書はそう指摘している。

2019年10月17日、ザッカーバーグ氏はジョージタウン大学で、「発言と表現の自由を守る」と題した37分間の講演を行っている。

この中で、ザッカーバーグ氏は24回にわたって「表現の自由」という言葉を繰り返している。

講演の中でザッカーバーグ氏は、こう強調した。

フェイスブックは政治広告のファクトチェックをしない。それは政治家を手助けするためではない。ユーザーが、政治家の発言を自分たちの目で確かめられるべきだと思うからだ。

その上で、こう述べていた。

民主主義において、私企業が政治家やニュースの検閲をすべきではないと思う。

この講演以降、フェイスブックは「表現の自由」の旗印へと大きく舵を切り、政治家の投稿や広告の規制から距離を置く姿勢を強めていく。そのことが、結果的にヘイトスピーチの増幅につながった、とマーフィー氏らは報告書で指摘しているのだ。

2016年の米大統領選におけるフェイクニュース氾濫の舞台となり、その批判の矢面に立たされてきたフェイスブック。

だがザッカーバーグ氏は、有害・不適切なコンテンツへの積極的な対策には、後ろ向きの姿勢を示してきた。

2018年7月のインタビューでは、ナチスによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」否定論者の投稿も、「私たちのプラットフォームがその主張を削除すべきだとは思えない」と発言。大きな批判を浴びている。

※参照:株価暴落とフェイク対策、フェイスブックの迷走はソーシャルメディアの潮目か(07/29/2018 新聞紙学的

●政治家のファクトチェック除外

ザッカーバーグ氏の掲げた「表現の自由」の旗印への傾斜は、それ以前からのフェイスブックの方向性を、より明確に打ち出したものだった。

ザッカーバーグ氏の講演の前月、2019年9月24日には、元英国副首相でフェイスブックの国際問題・コミュニケーション担当副社長のニック・クレッグ氏が、ワシントンで講演を行っている。

講演の中で、クレッグ氏も「表現の自由」の旗印を掲げながら、政治家の投稿をファクトチェックから除外する、と延べている。

当社は政治家によるスピーチをファクトチェッカーに送ることはない。そして通常ならコンテンツルールに違反する内容であったとしても、フェイスブックへの掲載は容認している。

この方針はすでに、2018年11月の米中間選挙の前に明らかにされており、この適用除外には、政治家による広告も含まれている――クレッグ氏は演説を紹介する公式ブログの中で、そう説明する。

フェイスブックはサードパーティーのファクトチェッカーに委託し、ミームや改ざん写真や動画といった、虚偽のニュースなどの誤情報の拡散を減らす協力をしてもらっている。しかし、フェイスブックが政治的な議論の審判役になったり、政治家の発言が聴衆に届くことの妨げになったりし、社会的な議論や批判の対象になるのは、ふさわしくないと考えている。そのためフェイスブックは、政治家をサードパーティーによるファクトチェックの対象から除外している。当社はこの方針を1年以上前から明記し、当社サイトのガイドラインで公開している。これはつまり、当社は政治家によるコンテンツや広告を、サードパーティーのファクトチェックのパートナーに、調査のために送信はしない、ということだ。

ザッカーバーグ氏が「表現の自由」への傾斜を強めていった背景には、2020年の米大統領選を前にした政治状況が、色濃く影を落とす。

●トランプ政権のキャンペーン

やはり「表現の自由」を主張し、フェイクニュース対策に強い反発を示してきた人物がいる。トランプ大統領だ。

トランプ政権は、ソーシャルメディアによるフェイクニュース対策を、保守言論への抑圧、と位置づけ、2019年5月には、「ソーシャルメディア・プラットフォームは表現の自由を守れ」とのスローガンによるキャンペーンを展開している。

※参照:AIによる有害コンテンツ排除の難しさをフェイスブックCTOが涙目で語る(https://kaztaira.wordpress.com/2019/05/18/facebook-cto-interview/ 新聞紙学的

2016年の米大統領選でのフェイクニュースの氾濫以降、リベラル派はフェイスブックなどのソーシャルメディアに対し、その対策を強く要求し続ける。そして、これに反発する保守派。

そのはざまで、ザッカーバーグ氏が掲げ、ジョージタウン大学で24回も連呼したのが「表現の自由」の旗印だった。

「表現の自由」の旗印とは、すなわち、リベラル・保守両派からの十字砲火の的になる政治コンテンツ規制には、一切手を出さない、という態度表明だった。

その一方で、ザッカーバーグ氏のジョージタウン大学での講演から2週間後の2019年10月30日、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏は、フェイクニュースの氾濫などを理由に、政治広告のグローバルでの全面禁止を打ち出した。

政治コンテンツには触らずそのまま掲載、というフェイスブックの姿勢が、ツイッターとの対比でより一層、鮮明になっていく。

※参照:TwitterとFacebook、政治広告への真逆の対応が民主主義に及ぼす悪影響(11/01/2019 新聞紙学的

※参照:「ザッカーバーグがトランプ大統領再選支持」フェイスブックがフェイク広告を削除しない理由(10/16/2019 新聞紙学的

●「ヘイトを増幅、人権への脅威」

フェイスブックの「表現の自由」への傾斜を決定的にし、現在に至る混乱の起点になるのが、ジョージタウン大学でのザッカーバーグ氏の講演だった――冒頭の監査報告書の指摘は、そんな経緯を踏まえてのものだ。

この「表現の自由」への傾斜が、「ヘイトスピーチを増幅し、人権への脅威」となる言説の許容につながった、というのが監査報告書の指摘だ。

2019年10月、ジョージタウン大学において、マークが表現の自由の擁護について行った講演以来、フェイスブックはそれを忠実に実行している。だがそれは、ヘイトスピーチを増幅し、人権への脅威となる、有害で分断を招く言説を許容することも意味している。監査人はそのことに重大な懸念を表明する。表現の自由を高めるのはよいが、それはすべてのユーザーに適用されなければならない。有力な政治家ならば、誰もが従うルールに縛られる必要がないとすれば、それは言論の序列をつくり出すことになる。ある人の発言は優遇され、権力を持たない人々の発言は冷遇されてしまう。表現の自由を、平等や差別の撤廃といった他のすべての価値よりも優先させてしまうことは、非常に重大な問題だと監査人は考える。

そして問題の中心は、「政治家のファクトチェック除外」だと報告書は述べる。

●「悪しき先例」

それが現実問題となった一例が、トランプ氏の投稿をめぐるフェイスブックの対応と、これをめぐる批判の渦だった、と報告書は位置付けている。

監査人は、最近行われたトランプ大統領の投稿に対するフェイスブックの取り扱い判断が、投票妨害禁止のためのすべてのポリシーの大幅な後退を意味するものとして、深く懸念している。監査人の見解では、トランプ氏の投稿の放置は、他の政治家やそれ以外のユーザーが、合法的な投票方法について虚偽の情報を拡散させることにつながる、悪しき先例となっている。その結果として、フェイスブックが投票妨害のための武器として利用されることを、許容してしまっているのだ。

これはトランプ氏が2020年5月26日、「郵便投票は実質的な詐欺以外の何物でもない」とフェイスブックツイッターに投稿したことを指す。

11月の米大統領選に絡む新型コロナ対策として、カリフォルニア州などは、投票所に行かずに投票できる「郵便投票」を可能にすることを表明している。

トランプ氏の投稿は、この「郵便投票」を強い調子で批判する内容だった。

連続投稿された2つのツイートに対し、ツイッターは「郵便投票についてのファクトはこちら」との警告文を表示。リンク先にはCNN、ワシントン・ポストなどの報道を根拠に、「トランプ氏は、郵便投票は不正投票につながるとの根拠のない主張をしている」との説明書きを表示した。

だが、フェイスブックは同じトランプ氏の投稿をそのまま掲載し続けている。これを報告書は「虚偽情報を拡散させる悪しき先例」と指摘しているのだ。

また、米ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で死亡した事件をきっかけに、人種差別撤廃の大規模デモと暴動が拡大した。

この動きを受けてトランプ氏は5月29日、「ごろつき」という言葉とともに「略奪が始まれば、銃撃が始まる」とフェイスブックツイッターに投稿した。

このトランプ氏の投稿の扱いについても、報告書は指摘している。

この投稿に対して、ツイッターは「暴力を賛美している」と判断。タイムライン上は非表示とした上で、ユーザーが改めてクリックをすれば閲覧できるという対応をした。

これに対してザッカーバーグ氏は、「フェイスブックは真実の裁定者になるべきではない」との立場を堅持。

ツイッターが非表示対応をしたのと同一文面の、トランプ氏による「略奪が始まれば、銃撃が始まる」の書き込みを、そのまま掲載し続けている。

フェイスブックのこの対応は、一連の広告ボイコットの発火点になる。

ボイコット運動を主導する人権団体などのキャンペーンに賛同しているユニリーバやベライゾンなどの広告主は約400に上り、独自判断で広告停止をしているスターバックスやコカ・コーラなどを含めると、企業・個人の数は1,000件を超す。

※参照:スターバックス、ユニリーバ、コカ・コーラが相次ぎ広告ボイコット…Facebookに何が起きている?(06/29/2020 新聞紙学的

このトランプ氏の投稿の扱いについても、監査報告書は懸念を示し、「投稿を削除することを、フェイスブックに強く求める」と指摘している。

人権擁護の専門家たち、そして監査人は、フェイスブックの判断を深く憂慮している。特に権力の座にある人々が、特定の少数派の人種コミュニティを標的にする声明を出すことによって、このコミュニティに対する自警行為を許容し、暴力を正当化することになる。フェイスブックの判断は、そのような声明の持つ意味を無視している、と考える。

●政治広告の行方

このような批判の渦の中で、フェイスブックも軌道修正に向けた議論に動き出しているようだ。

ブルームバーグは7月10日、フェイスブックが11月に予定される米大統領選の前に、政治広告の禁止を打ち出すことを検討している、と関係者の証言を報じている

結論は出ていないというが、批判に対応しようとする動きがあることは確かなようだ。

フェイスブックはすでにこの間、トランプ陣営の政治広告を削除に踏み切る、という動きも見せている。

削除された広告は、ナチスの強制収容所で政治犯を示すマークとして使われた”赤い逆三角形”とともに、反ファシスト運動「アンティファ」を「テロ組織」として批判する内容だった。

フェイスブックは同社の「組織的ヘイト」を禁止するポリシーに違反している、として削除に踏み切ったという。

※参照:フェイスブックが「政治広告」の削除に踏み切った、その事情とは?(06/19/2020 新聞紙学的

監査報告書、はフェイスブックの判断への懸念を表明する一方で、住宅や雇用などの分野での性別、年齢、居住区域に基づくターゲティング広告の禁止、投票妨害禁止ポリシーの拡充などで、人権擁護の取り組みに前進が見られた、との評価点も指摘している。

今回の監査報告書の指摘が、どこまでフェイスブックの運営に反映されるのかが、今後の焦点になる。

(※2020年7月12日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)