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トランプ嫌いとトランプ支持派のいびつな”同床異夢”、フェイスブック・グーグル分割論

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領支持の保守派と、トランプ嫌いのリベラル派の、いびつな”同床異夢”が起きている。その向かう先は、フェイスブック、グーグルなどの巨大IT企業「GAFA」に対する規制強化。

それぞれの主張はかけ離れているものの、その向かう先の結論は「フェイスブック、グーグルの分割」で一致しているのだ。

リベラル派には、トランプ支援のロシアによる2016年米大統領選介入の舞台となったフェイスブック、グーグルなどに対する責任論が根強い。一方、トランプ支持の保守派の主張は、これらプラットフォームによる「保守言論の排除」による「表現の自由の阻害」だ。

そこに、巨大プラットフォームによる「市場独占」の議論が加わり、分割論がクローズアップされる。

16日には米下院が公聴会を開き、GAFAの幹部が出席。議員らから集中砲火を浴びた。また同日、上院でも公聴会が開かれ、ここではフェイスブックが予定している仮想通貨「リブラ」への集中砲火となった。

だが、分割後の具体的なビジョンが共有されているわけではなく、2020年の大統領選を控え、「GAFA支配批判と分割論」だけが前のめりに広がりを見せているようだ。

●GAFAへの集中砲火

米下院司法委員会の反トラスト小委員会は16日、「オンライン・プラットフォームとマーケットパワー:イノベーションとアントレプレナーシップ」と題した公聴会を開催。

グーグルの経済政策ディレクター、アダム・コーエン氏、フェイスブックのグローバルポリシー開発責任者、マット・ペロー氏、アマゾンの競争担当副法務顧問、ネイト・サットン氏、アップルの法務担当副社長、カイル・アンディ氏が証言に立った。

公聴会で小委員長のデビッド・シシリン氏(民主)は、インターネットが「集中化が進み、オープンさが失われ、イノベーションとアントレプレナーシップを損なうものになりつつある」と指摘。巨大プラットフォームが市場への新規参入を阻害しているとの懸念を表明した。

超党派によるこの小委員会の調査は6月に発足。この時の声明ではこう述べている

少数の支配的なプラットフォームが、規制を受けない状態で、オンラインのコマース、コミュニケーション、情報において絶大な力を持っている。

有望ベンチャーの相次ぐ買収から、利用規約の目まぐるしい改訂まで、議員からのGAFAへの集中砲火の論点は、多岐にわたった。

同日午前、上院銀行委員会でも公聴会が開かれていた。

上院で証言に立ったのは、フェイスブック傘下で仮想通貨「リブラ」を担当する「カリブラ」CEOのデビッド・マーカス氏。

こちらでも、「妄想的」(シャロッド・ブラウン氏[民主])「信用できない」(マーサ・マクサリー氏[共和])と批判が相次いだ

●トランプ支持のキャスターとリベラル派の分割論者の一致

この日の下院公聴会は2部に分かれており、後半では競争政策に関する6人の専門家が証言に立った。

フェイスブック、グーグルの分割論を唱えるコロンビア大学ロースクール教授、ティム・ウー氏も、その一人だった。

ウー氏は、オバマ政権が推進したネットの競争政策「ネットワーク中立性」の提唱者であり、同政権下で連邦取引委員会(FTC)のシニアアドバイザーや国家経済評議会(NEC)のメンバーにも就任。さらにニューヨーク・タイムズのオピニオンライターも務めるリベラルの論客だ。

ウー氏は、フェイスブックが競争阻害の目的でインスタグラムの買収などを行ってきたことは違法だとし、インスタグラム、ワッツアップの分離を主張している。

下院小委員会の公聴会でもウー氏は、過去の買収に関して改めて反トラスト法の疑いを検討することや、競争促進のための立法や規制などを提言した。

そのウー氏が2018年12月、トランプ支持が色濃い保守派のFOXニュースに出演している。

英国のキャメロン政権で首相の戦略ストラテジストを務めた、トランプ支持の保守派のコメンテーター、スティーブ・ヒルトン氏の番組「ザ・ネクスト・レボリューション」だ。

政治的な立場には大きな開きのあるこの2人が、「フェイスブック分割」では意見が一致したのだという。

ニューヨーク・タイムズの取材に、「我々は同じ考えだ」(ヒルトン氏)「奇妙な議論の場が生まれているということだ」(ウー氏)と、いずれもその一致点を認めている。

●2020年大統領選に向けて

GAFAをめぐる反トラスト法の議論の中でも、特にフェイスブックの分割論は注目を集める。

2019年5月には、フェイスブックの共同創業者であるクリス・ヒューズ氏が、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、ウー氏の主張などを引きながら、フェイスブック分割論を掲げ、話題となった。

さらに2020年の大統領選を控えて、民主共和両党とも、GAFA規制のトーンを強めている。

前回に引き続き大統領選出馬を表明している民主党左派の代表格、上院議員のバーニー・サンダース氏は、下院で公聴会が開かれた2019年7月16日、ワシントン・ポストのイベントでフェイスブック、グーグル、アマゾンの分割について問われ、「絶対にやる」と明言している。

特に、フェイスブックについては、「経済、そしてこの国の政治活動に対し、驚くべき影響力を持っており、それは極めて危険なことだ」と述べたという。

民主党の大統領選候補では、このほかに上院議員のエリザベス・ウォーレン氏も、フェイスブック、グーグル、アマゾンの分割論者として、広く知られている。

対する共和党のフェイスブック、グーグル批判の急先鋒は、トランプ大統領だ。

フェイスブックに対する「保守派言論排除」の批判は、2016年大統領選の期間中からくすぶっていた。

※参照:フェイスブックの情報選別:"偏向"しているのは人間かアルゴリズムか(05/22/2016

それが、フェイクニュース排除の強化によって、その発信源となっていたトランプ支持派の右派サイトの排除につながり、トランプ氏のフェイスブック、グーグル批判も勢いを増す結果となった。

トランプ氏は2019年6月末には、FOXビジネスのインタビューで、市場支配の問題をめぐって、こう述べている。

我々はグーグル、フェイスブックなどを訴追するべきだ。おそらく実際にそうするだろう。

さらに、「保守派言論排除」をめぐっても、こう話している。

これらの企業は私のメッセージの発信をとてもやりづらくしている。みんな民主党員で、完全に民主党へのバイアスがあるのだ。明日、私がリベラルな民主党員になるといえば、5倍のフォロワーがつくのだろう。

●分割論の行く先

ただ、左右一致した”同床異夢”の分割論を懸念する声もある。

下院の公聴会でも、共和党の有力議員、ジム・センセンブレナー氏が分割論の合唱に異を唱えた。

ビジネスが大きいということは、それがすなわち悪いということではない。反トラスト法が扱っているのは、企業の行為であり、その行為が悪いかどうかだ。企業が大きいという理由だけで罰するためにこの法律があるのではない。

反トラスト法に加えて「表現の自由」まで取り沙汰される規制論。

だが、熱狂とは裏腹に具体的な分割論の行き先は、曖昧模糊としている。

表現の自由に関する人権団体、ナイト・ファースト・アメンドメント(修正憲法1条)研究所のリサーチディレクター、ケイティ・グレン・バス氏はニューヨーク・タイムズの取材に、こんな懸念を示している。

この議論にかかわっている大半の人々は、その意味がきちんとわかっていないのだ。

そもそも、フェイスブックなどによるフェイクニュース規制をめぐっても、真逆の立場にある保守とリベラル。そこに市場支配の規制論議がオーバーラップし、フェイスブック、グーグルなど分割という一点で足並みがそろうという奇妙な図式だ。

この”同床異夢”には、どんな着地点が用意されているのだろうか。

(※2019年7月18日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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