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ソニーのゲーム事業は好調維持も…気になる重い課題 PS5に質問集中

河村鳴紘サブカル専門ライター
ソニー本社(写真:ロイター/アフロ)

 ソニーグループの2024年3月期第2四半期決算が発表され、7~9月の売上高は前年同期比で8%増の約2兆8286億円、本業のもうけを示す営業利益は、金融分野の大幅減益が響いて同29%減の約2630億円でした。うちゲーム事業は、売上高が約9541億円、営業利益が約489億円と概ね好調です。そして決算のオンライン会見では、PS5の動向について、メディアとアナリストの質問が集中しました。

 ソニーのゲーム事業ですが、通期売上高予想を1900億円アップの4兆3600億円に上方修正しました。10年前のゲーム事業の売上高は約1兆円でしたので、その成長ぶりが分かります。

 第2四半期(7~9月)の売上高のうち、ゲーム機は約2900億円、ソフトは約4800億円でした。欲を言えば、もっとソフトの金額が伸びてほしいところ。そして第3四半期に計上されるゲーム「スパイダーマン2」は世界出荷数が500万本を突破しており、他のソフトもそれに続けるかでしょう。

 そして今回の注目は、PS5の今期の年間出荷計画を2500万台に据え置いたことです。PS5の出荷数は半年で820万台なので、最大商戦期(年末)があるとはいえ残りの半年で1680万台も売れるのか……と疑問の声が出るわけです。昨年度の下半期に1300万台以上を売った実績はあるにしても、年間2500万台という数そのものが高いハードルです。そのためかオンライン会見でも、PS5について質問が多く出たのでしょう。

 出荷計画についてですが、ソニーも「2500万台は高い目標」と認めており、頑張って数字を追いかけていきつつも、あくまで収益性とのバランスを取る……としています。つまり「何が何でも達成!」というトーンではないのです。

 その背景は二つのことが考えられます。一つはゲーム事業で説明されていますが、業績のマイナス要因の一つに「ハードウェア(PS5)の損失拡大」が挙げられていることです。PS5が昨年と今年に実質的な「値上げ」に踏み切っていますが、もともとPS5は高品質だけにコストが高く、利幅の極めて薄い商材です。売上高はアップしても肝心の利益が……となります。

 さらに報道で、傘下のゲーム開発会社の人員削減をしているとありましたが、これも事実と認めました。買収したバンジーの人員削減だけにざわつくでしょうし、既にイケイケモードではない……というのは明確です。

 そしてネットでのプレーヤー同士の関係性を重視するライブゲームに力を入れるとしていましたが、それも含めてゲームタイトルの精査を行っていると説明。時期通りの発売に固執せず、ゲームソフトの質の重視を図るということでした。要するに計画通りに開発が進んでいないとも言えますし、逆に言えば発売を延期できるだけの余裕がある……とも読み取れますから、判断が難しいところです。

 もう一つは、今後の方針を決める方が重要であり、それに比べると2500万台の話は優先順位が下がるのではないか……ということです。

 要するに、ゲーム事業の今後の戦略で、誰がゲーム事業のビジネスプランを描くのかということ。ゲーム事業のトップだったSIEのジム・ライアン社長が来年3月で退任し、その後はソニーグループの十時裕樹社長が暫定的(最大1年間)に兼務します。

 これは現時点で、本命の後任社長を選べなかった……という意味になります。そうであれば暫定での社長は必要ないからです。何せ売上高4兆円の事業のかじ取りを任されるわけでして、そしてPS5のセルイン(出荷数)は今年度がピークと見ていることもあります。となれば今後は売上高が鈍化し、ゲームのビジネスサイクルを考えるとダウントレンドに向かうわけです。ライブゲームの先行きもやや不透明で、要するに誰が指揮をとっても相当大変ということは分かるわけです。

 現状だけの数字を言えば大成功したソニーのゲーム事業ですが、それは今後の成功を保証するわけではありません。ソニーグループの要石といえる4兆円超の巨大事業を、今後誰が指揮をして、中長期にかけてどのような絵図を描くのか。今後の重い課題と言えるでしょう。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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