Yahoo!ニュース

PS5新モデル 日本の「値上げ」を考える 日米の価格と為替レート

河村鳴紘サブカル専門ライター
「PS5」の新モデル=SIE提供

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、家庭用ゲーム機「PS5」を小型化した新モデルを11月10日に発売します。日本にとっては実質的な「値上げ」となったわけですが、経緯を振り返りながら、経済の視点で考えてみます。

 PS5の新モデルの価格ですが、通常版が6万6980円で、ディスクドライブのない「デジタル・エディション」が5万9980円です。

 そして2020年の発売時は、通常版が4万9980円で、デジタル版が3万9980円。発表当時は税抜き価格でした。

 「税抜き」と「税込み」の商品を比較するのは公平でないので、新モデルの価格を「税抜き」で計算して、2020年発売時の価格と比べます。するとPS5の価格は、通常版が1万1000円弱、デジタル版が約1万4500円アップしていることになります。

 近年は、半導体不足や物流の混乱などを考えると仕方のないことですが、従来は普及してゲーム機の値上げが当たり前でした。ゲームファンから文句が出るのも一理あるのです。

 では、欧米の価格の変遷を見てみます。

 その前に一つ、触れておきたいことがあります。PS5の価格ですが、日本は税込み表示ですが、米国は税抜き表示です。日本のリリースでは気づかない人もいるかもしれませんが、米国のリリースを見ると明確でして日本の価格に「includes tax(税込み)」の文字が入ります。欧米の価格表記には、入っていません。米国は州や自治体ごとに税率が異なるので、日本のような税込みの表記方法には向いていないのです。

プレイステーション・ブログ(米国)のPS5新モデルのリリースから抜粋

U.S.

PS5 with Ultra HD Blu-ray disc drive – 499.99 USD

PS5 Digital Edition – 449.99 USD

Japan

PS5 with Ultra HD Blu-ray disc drive – 66,980 JPY (includes tax)

PS5 Digital Edition – 59,980 JPY (includes tax)

※太字は著者が入れたもの

 米国では通常版は2020年の発売当初から499.99ドルに据え置きのままで、デジタル版は50ドルアップの449.99ドル。欧州も概ね似ており、通常版とデジタル版は、それぞれ発売当初と比べて50ユーロの値上げです。欧州の新モデルの価格は、通常版が549.99ユーロ、デジタル版が449.99ユーロとなります。

 要するに50ドル・50ユーロの値上げになっていて、米国の通常版に至っては値段据え置きとなります。上記で触れた日本の値上げ幅(デジタル版が約1万4500円)を見ると、やはり日本は軽んじられているイメージを抱くのではないでしょうか。

 しかし、為替レートを踏まえると、違う見方になります。PS5が発売された2020年11月、1ドルは約104円でした。そして今は1ドルが150円前後といったところです。

三菱UFJ銀行のホームページにある外国為替相場チャート表(10年)。PS5が発売された2020年11月は1ドル104円。長いスパンで1ドル100円~120円で推移していたのが分かります。
三菱UFJ銀行のホームページにある外国為替相場チャート表(10年)。PS5が発売された2020年11月は1ドル104円。長いスパンで1ドル100円~120円で推移していたのが分かります。

 米国でのPS5の通常版は、2020年の発売時点で499.99ドルで、当時のレート(104円)で換算すると、約5万2000円になります。当時の日本の価格は4万9980円なので、概ね釣り合っています。

 そして2023年、PS5の通常版(新モデル)は、米国で499.99ドルの据え置き。今は1ドル150円なので換算すると、約7万5000円となります。日本で、新モデルの価格は6万6980円(税込み)ですから、税抜き換算で6万1000円弱なので、日本の価格は米国と比べて約1万4000円の差があります。

 今後1ドル140円に戻ると予想したとしても、499.99ドルの商品は約7万円で、まだ9000円以上の差があります。つまるところ日本の「値上げ」を抑えようというメーカーの意思が見えてきます。

 為替レートの視点で見ると、日本は“お得”なのですが、そうであっても日本のゲーマーからすると、実感はゼロでしょう。それよりも、二度にわたって「値上げ」をして、「高い」「ソニーはダメだ」というイメージになってしまうわけです。地域の価格差や為替レートにまで気を配るのは経営側の論理で、消費者には目の前のことがすべてだからです。

 そして今後、1ドルが160円になるなどさらなる円安が進めば、日本のPS5の価格がどうなるかは、言わずとも分かると思います。家庭用ゲーム機は世界的な商品ですから、為替レートの影響を強く受けてしまいます。そしてPS5のような高価格で利益幅の薄い商材は、地域ごとの価格差が開きすぎると苦しくなります。ある国から別の国へ商品を移動させるだけで儲かることになります。

 「たかが為替レート」と考える人もいるかもしれませんが、そんなことはないのです。そして円高になっていたら、また違う流れになっていたでしょうし、判断の難しいところなのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事