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PS5新モデル発表 「値上げ」と騒いだ消費者 触れないメディア

河村鳴紘サブカル専門ライター
PS5の新モデル=SIE提供

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、家庭用ゲーム機「PS5」で、ストレージ(補助の記録装置)の拡張や小型化をした新モデルを11月10日に発売すると発表しました。通常版が6万6980円で、ディスクドライブのない「デジタル・エディション」が5万9980円。いずれも価格は上がっており、発表を受けて、X(旧ツイッター)では「PS5値上げ」がトレンド入りしました。

新モデルの主なポイント

・機能はそのままで小型化(サイズは30%以上減、重さは約20%減)

・ディスクドライブは着脱可

・内蔵のSSDストレージは1TBに増量

・通常版=6万6980円 デジタル・エディション=5万9980円

 新モデルは、ストレージの拡張があるにしても、現行モデルは在庫がなくなり次第終了で、値段がアップする以上「値上げ」です。これまではPS5の通常版が6万478円、デジタル・エディションが4万9478円でした。それぞれ約6500円、約1万円のアップです。

 またPS5の価格は昨秋にも値上げがありましたから、余計に価格アップのイメージがあるでしょう。一方、多くの商品が連日のように値上げされている上、円安の要因も考えて「仕方がない」という声もありました。

 もちろん近年の経済・社会を考えると、値上げは避けようもないわけです。そしてゲームに限らず記事を書くときに、価格の動きに目を光らせています。

 ですが今回の新モデル発表の記事で、メディアの記事は大きく二つのタイプに分かれました。「値上げ」に触れる記事と、「値上げ」に触れない記事です。

 今回の発表は、SIEの公式サイト「プレイステーションブログ」であったものです。そしてブログの発表では「値上げ」や「価格改定」「価格変更」という言葉は、使っていません。今さら指摘するまでもありませんが、企業視点で出すリリースは、マイナスに取られる言葉や要素を避ける傾向にあります。そこは取材側がくみ取るしかありません。

 繰り返しますが、企業は基本的にマイナスの要素には触れませんが、消費者のために記事を書くのであれば、そこは外すべきではありません。価格の変更というのは、ニュースにおける重要項目の一つですし、今は誰もが敏感になるところです。にもかかわらず、PS5の新モデルの価格について、値段の変更に触れない記事が目立ちました。

 新モデルの記事は、ヤフートピックスにも選ばれたものの、このトピックスからは、PS5の現行モデルより価格が上がっていることが分かりません。記事にはPS5の現行機から値上げされたことが触れられていませんから、どうしようもないのですが。

 もちろん、ネットメディアにも事情(言い分)があります。今のネットニュースは、速報性が問われます。記事に分析や説明を入れると、執筆・掲載のスピードは落ちます。「値上げ」のことを書こうとすれば、比較のため値段も入れる必要がありますし、メーカーに問い合わせをすれば、なお時間がかかります。スピードを優先すれば「プレスリリースに沿って書く」「余計なことをしない」ということに落ち着くのです。

 記事を見たゲームファンたちは「PS5値上げ」とざわついて、トレンド入りしましたが、記事を見るとどこにも「値上げ」には触れていません。ゲームに詳しくない人は「?」という状況でした。果たしてそれでよいのでしょうか。

 記事を出すスピードは大切ですが、リリースに沿って書くだけなら、将来的にAIにとって代わられる可能性もあります。長い目で見ると、メディアのブランド力低下にもつながる問題で、甘く見てはいけないと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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