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気になるマンガ「龍とカメレオン」 体が入れ替わりゼロからのスタート 天才マンガ家の奮闘描く

河村鳴紘サブカル専門ライター
「龍とカメレオン」(C)Ryo Ishiyama/SQUARE ENIX

 コミックスの国内市場規模は約6800億円(2022年、出版科学研究所調べ)と好調ですが、作品の多さゆえに「どれを読めば良い?」と迷う人もいるのでは。そこで、読んで気になった作品を独断で取り上げてみます。今回は、石山諒さんの「龍とカメレオン」(スクウェア・エニックス)です。

 見どころは、人気作を持つ天才マンガ家が、地位も名誉も失ってのゼロからのスタートを切るところ。まっすぐな性格の主人公が、情熱で多くの人達を巻き込んで歩んでいく王道の展開が楽しめます。

 累計発行部数1億5000万部を誇る人気マンガ「ドラゴン・ランド」を連載中の主人公・花神臥龍は、階段からの転落事故で、新人マンガ家・深山忍と体が入れ替わってしまいます。深山は、他人の絵柄を真似るのが得意で、そのまま花神になりすますと宣言(図々しい!)。

 さらに深山は、奪った作品の連載は適当にやっても人気の現状維持は余裕……と言い放ちました。マンガへの愛がない言葉に花神はいらだち、マンガで決着をつけると宣言、深山との対決姿勢を明確にします。タイトル通り「龍」と「(龍に化けた)カメレオン」が激突するのです。

「龍とカメレオン」の1ページ。深山になった花神(右)と、花神になった深山のあおりのセリフも必見 (C)Ryo Ishiyama/SQUARE ENIX
「龍とカメレオン」の1ページ。深山になった花神(右)と、花神になった深山のあおりのセリフも必見 (C)Ryo Ishiyama/SQUARE ENIX

 花神の熱量は、周囲のマンガ家たちにも影響を及ぼすのですが、敵の深山にも伝播します。

 花神になって名声と権力を握った深山ですが、アシスタントや編集者への態度は最低で、マンガの出来も当初は今一つ。そのため、目の肥えた人たちに「あれ?」と思われてしまいます。さらに深山は、無名になった花神の(再)デビューを阻止しようと、編集者に圧力をかけたりします。

 しかし(卑怯な)作戦は失敗し、深山は精神的に追い込まれます。結果として深山のマンガの出来が変化し、花神が認めるほどの完成度に……。つまり、花神は、手抜き宣言をしていた敵(深山)の考えを、結果として変えさせたのです。それは敵に塩を送ることで、主人公の逆転のためのハードルがとても高くなったとも言えます。しかし花神は自身の現時点での敗北を認め、自身の最高傑作に挑戦できると捉えているのですから……。熱い、熱すぎますよ。

 同時に気になるのが敵であるはずの深山です。追い込まれた深山が「死んでも モブ(影の薄い存在)じゃ終わらんぞ」などと言うのですが、図らずも自分の弱さを漏らしています。

 敵(深山)の立場に立って考えると、天才(花神)がひたひたと迫ってくるわけで、嫉妬(しっと)と共に、恐ろしさもあるでしょう。彼の焦りもなんとなく分かる気もします。

 内容はマンガの話ではあるものの、マンガ以外にも生かせそうなネタがあるのも魅力です。

 22日にコミックス2巻が出たばかりの同作。スクウェア・エニックスのマンガアプリ「マンガUP!」でも実質無料で読めます。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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