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気になる書籍「ルポ ゲーム条例」 「事実は小説より奇なり」 3年の取材が語る説得力

河村鳴紘サブカル専門ライター
書籍「ルポ ゲーム条例 なぜゲームが狙われるのか」=著者撮影

 香川県の「ゲーム条例」を覚えていますでしょうか。2020年に成立した全国的な注目を集めた条例で、「ゲームは平日1日60分まで」など18歳未満を対象に具体的な制限が記されています。県や保護者、ゲーム会社などの責務があるものの、罰則はありません。

 話題になった理由は、条例の内容もさることながら、成立過程に疑義があったためで、メディアなどで多くの批判を浴びました。その「ゲーム条例」の成立時や、その後どうなったかを、3年かけて取材・検証をした書籍が「ルポ ゲーム条例 なぜゲームが狙われるのか」(河出書房新社、17日発売、単行本46変形、256ページ)です。香川県と岡山県をエリアとするテレビ朝日系の放送局「KSB瀬戸内海放送」の記者・山下洋平さんが執筆しました。

 同書のポイントは、政治家や一部のメディアなどが積極的に推進、不透明な制定過程のある「ゲーム条例」について、問題点を整理し、丁寧にわかりやすく解説されていることです。多くの取材を通じて当事者の動きや発言が整理されており、かつ多面的に検証を重ねていて、圧倒的な説得力を持っています。資料的な意味での価値も高いのではないでしょうか。

 「ゲーム条例」のように、目立つニュースは瞬間的には話題になるものの、次の大きな話題が来ると忘れ去られてしまう傾向が、特にネットにはあります。それだけに「ゲーム条例」をテーマに、条例の成立とその後の流れを3年も追いかけ、それを書籍として振り返ることによって、改めて多くのものが目に見えてきます。見た目はゲームの話ですが、根底には、民主主義というシステムが、住民の政治に対する無関心のため「監視」のシステムが働かず、危ういバランスの上にあることを教えてくれています。

 ……とまあ、難しいことはさておき、ゲーム条例を巡るこの3年の動きをつづった同書は、並みのドラマや小説よりも面白いかもしれません。ゲーム条例を巡る関係者の攻防は、なかなかドラマチックです。

 パブコメのビックリな“水増し”もそうですし、正当化する際の矛盾した論理もそうです。会議の一部を非公開で行い、反対の声もある中で強引に条例を成立させたこと。自民党系と共産党系の会派が共同してアクションを起こしたことも珍しいでしょう。主導的な政治家が取材を避けて“逃走”したこと、山下さんの直撃取材にも本質をそらそうとしていること。条例にある2年ごとの調査が条例に記されているのに、極めて消極的な姿勢なのです。要するに「本当にこんなことが起きるのか?」ということの連続です。

 ただし、厚生労働省などは「ゲーム条例」のような前のめりの規制に対して、距離を置こうとすることも触れられており、その違いも面白いところです。私も取材をした立場からいうと、うなづいてしまいました。また高校生(当時)が原告になって香川県を相手に訴えたゲーム条例を巡る裁判についても、丁寧に最後まで取材をし、自らの言葉で自省を込めて振り返っています。

 「ゲーム条例は、いろいろあったけれど、小難しくてよくわからない」という人こそ、同書を手に取ってほしいと願います。

 政治家たちの不透明な動きを見ると、政治に何らかの関心を持ち、選挙で一票を投じることの重要性、そして監視役として信頼のできるメディア(記者)の必要性を改めて感じさせてくれます。特に同書のような厚みのある継続した取材は、地元のメディアだからこそできることですね。

 「ゲーム条例」が今後、政治家たちによって恣意的に利用されたときに、同書の価値は大きな意味を持ってくるのではないでしょうか。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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