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「桃太郎電鉄」今度の舞台は「世界」 最新作で思うゲームのポテンシャル

河村鳴紘サブカル専門ライター
今年発売予定の「桃太郎電鉄ワールド」

 「桃鉄」の愛称で知られる人気ゲーム「桃太郎電鉄」。シリーズ最新作「桃太郎電鉄ワールド~地球は希望でまわってる!~」が、年内にニンテンドースイッチ向けソフトとして発売されます。同シリーズは、ゲーム業界のイメージアップに貢献するポテンシャル(潜在力)があるのではないでしょうか。

◇前作は350万本売る コロナの追い風も

 「桃太郎電鉄」は、プレーヤーが鉄道会社の社長となり、各地を巡って物件を買い集め、総資産で争うというゲームです。1988年にファミリーコンピュータ向けに第1作目が登場し、正月休みの定番ゲームとして人気でした。家族や友達とワイワイ遊ぶ“接待ゲーム”としての強さがありました。

 ただし、ずっと手元に置けること、新作を出しても劇的な変化が出せない特徴があります。そのため、面白いのに人気が下火になった時期もありました。しかし、2020年に発売された「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』は、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要を追い風に350万本を出荷する大ヒットを飛ばします。ゲームビジネスの爆発力を教えてくれる一例です。

 今回の最新作「ワールド」は、名前の通り、世界が舞台です。プレーすれば、世界の地名や各地域の特産を覚えられるであろうことはもちろん、イベントでは歴史の人物も登場するようで、公開されたゲーム画面には、フランスのジャンヌ・ダルクの姿もあります。

「桃太郎電鉄ワールド」で、ジャンヌ・ダルクが登場するシーン。背景には、プラハやウイーンなどの、欧州の都市があります。
「桃太郎電鉄ワールド」で、ジャンヌ・ダルクが登場するシーン。背景には、プラハやウイーンなどの、欧州の都市があります。

 いまだにコロナの影響はあるものの外出が増える流れにあって、前作のような「巣ごもり」の追い風は難しいかもしれません。しかし、ゲーム内容は日本から世界へ目線が変わること、そして時期的にも良いタイミングと思います。同作が欲しい子供たちは、「桃鉄の新作が出たよ。世界の地名も覚えられるし、勉強になるから、お母さん買って!」という“殺し文句”が使えるわけですね(笑)。

◇無償の教育版も登場

 「桃太郎電鉄」シリーズで思うのは、ゲーム業界のイメージをアップさせたり、ゲームの理解者を作るコンテンツとしてのポテンシャル(潜在力)です。

 ゲームには、子供の勉強を阻害する“親の敵”というイメージがどうしても付きまといます。実際、自分の子供に「できればゲームを遊ばせたくない(遊んでほしくない)」という親は、一定数いるはずです。

 ですが、「桃太郎電鉄」であれば、勉強の役に立つわけです。都市名だけでなく、都市の場所、世界の地形のイメージなどもつかめるはずです。なぜなら、ゲームをスムーズにプレーするには不可欠だからです。暗記が嫌いな人でも、大好きなドラマやアニメの俳優や声優、ストーリーなどはすぐ覚えてしまいます。ついでに言えば、投資の重要性や、お金を増やす経営感覚?も直感的に学べます。そして、ゲームを普段しない人がすぐ遊べるハードルの低さがある上に、単純に面白いので熱中するため、教育効果も高そうです。

 実は「桃太郎電鉄」は、ゲーム感覚で遊べるデジタル教材「桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~」を今月から教育機関向けに無償提供しています。貧乏神がいなかったり、金額での配慮、ランドマークの説明を入れていますね。学生の皆さんは「先生!こういう教材があるよ」とアピールし、せっかくなら、楽しく勉強をすると良さそうですね。

 こうした取り組みは、企業にとって短期的な利益にはつながりません。しかし、長期的にはお金で買えない利益があるのではないでしょうか。子供への影響力が大きく、何かと目の敵にされやすいゲーム業界にとって、業界外の理解者は大切です。コナミグループは以前から、社会課題を解決するためのゲーム「シリアスゲーム」を人道支援機関と協力して制作したり、野球ゲームなどを出す関係からプロ野球のスポンサーになったり、企業イメージアップ、ブランドの向上に気を配っています。

 近年は変化の兆しがありますが、長年ゲーム業界を取材をして感じるのは、ゲーム会社は、潜在的な課題があっても、問題が表層化するまで気にしない傾向にあります。そして、大手ゲーム会社は概ね高利益体質で、社内に蓄積した資金も潤沢です。にもかかわらず、社会貢献をしてアピールすることはあまりないのが残念です。

 「桃太郎電鉄」の教育版のような取り組みを長期的に続ければ、ゲームが何かの形で批判されたときも、教育関係者から「ゲームも良い点はある」と助け船が出ることもあるでしょう。大切なのは、さまざまなゲーム会社が、長期的視点に立って社会に役立つ地道な取り組みをして、実績を積み上げ、業界外から信頼を勝ち取ることです。とはいえ、「桃太郎電鉄」のような、第三者にも分かりやすく役に立つゲームは、そんなに多くありません。それだけに「桃太郎電鉄」には、ポテンシャルがあると思うのです。

 ゲームである以上、面白い、斬新なゲームを作ることがメインであるのは変わらないと思いますが、ゲーム業界のイメージをアップさせるため、さまざまなアプローチがあってよいと思うのです。そこから意外な「引き出し」が見つかって、ゲームビジネスの幅が広がる可能性だってあると思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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