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東京ゲームショウ 来場者数半減もコロナ禍で「再評価」の声 メタバースとインディーゲームの悩み

河村鳴紘サブカル専門ライター
「東京ゲームショウ2022」の様子=筆者撮影

 国内最大のゲーム展示会「東京ゲームショウ2022」(主催・コンピュータエンターテインメント協会)が15~18日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催されました。新型コロナウイルスの感染対策のために入場制限があり、4日間の来場者数は、コロナ前の2019年と比べて半分の14万人弱でしたが、取材する限りでは、関係者の評価は総じて高かったといえます。

◇来場者数半減も想定内

 ゲームショウは、発売前のゲーム機やソフトが試遊できるのが特徴。近年はビジネス面にも力を入れ、海外からの出展も増えています。今年は、コロナ前の2019年と比べて1割減の605社(37カ国・地域)で、出展スペースの総面積も2割減でした。

 ただし来場者数の半減も、想定来場者数を15万人と事前に発表していた通り、ほぼ想定内と言えます。人数制限だけでなく、多くの人でにぎわう“名物”のコスプレ撮影エリアもなく、ステージイベントの声出し声援もダメで、握手などの接触も禁止。それでも久々の“ゲームの祭典”を楽しむ人がいたわけです。午後2時以降になると、疲れて壁沿いの床に座って休息を取る人たちの姿が目立ちました。

◇リアルイベント「再評価」の背景

 コロナ前は、ゲームの大型イベントの開催に対して、費用対効果の面から懐疑的な意見がありました。発売前ソフトの先行プレーも、最新情報の発信も、ネットで完結できる時代。実際、リアル出展をしない任天堂とソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ゲームショウの直前にネットで映像を配信し、それが恒例となりつつあります。ゲームのネタは元々バズる傾向にあるため、ネットのみで十分……という考えも成り立つわけです。

 しかし、3年ぶりの“顔合わせ”となる今回、以前のようにゲームショウに対して、コストパフォーマンスへの言及が激減しました。取材をすると「オンラインと違って特別感がある」「他社やメディアとの情報交換は大事」「予想しなかった企業や商品に会える」などと肯定的。大手ゲーム会社は在宅勤務をしている背景も、ゲームショウの「再評価」につながっているといえそうです。

 皮肉ですが、コロナ禍がゲームショウ……リアルイベントを実施する意味を再認識させた……と言えるのかもしれません。なお、ゲームショウは、バーチャルでの開催も並行しており、現地へ行けない人も楽しめたようです。リアルとバーチャルの“両輪”だったのも、ゲームファンから喜ばれたのではないでしょうか。

◇メタバースとインディーゲームの悩み

 今回のゲームショウは、「見どころ」が多彩でした。意地悪に言うと、突出した“目玉”がなく、大手新聞社の記事も視点がバラバラでした。

 主催者講演の一つは、インターネットの仮想空間「メタバース」で、メタのVR機器「メタクエスト2」のブースもありました。メディア受けするメタバースですが、前年とテーマがかぶり気味で、従来のVRとの違いも分かりづらく、本格化はまだ先になりそう。ゲーム会社の多くは、様子見といったところで、取り上げたくとも材料がまだ少なく、悩ましいところでしょう。

 最もゲームらしい展示と言えば、米バルブ社のPC用携帯ゲーム機「Steam Deck(スチームデック)」でした。もちろん関係者の間で話題になりましたが、最安値モデルでも5万9800円で、PS5並み(通常版6万478円)。ゲーミングPCと思うと安価ですが、携帯ゲーム機としては、価格面や大きさはネックになります。携帯ゲーム機というより、PCプラットフォーム「Steam」の延長線として考えているようでした。

 むしろ関係者が期待を寄せているのは、ユニークな作品を小規模で開発する「インディーゲーム」でしょうか。任天堂は自社で熱心にサポートしており、ソニーやマイクロソフトなども以前から支援を続けています。

 ゲームショウには、インディーゲームのコーナーがありました。しかし、インディーゲームの取材は、ゲームの「目利き」的な能力が必要で、かつ一般層の興味を引くとは言いづらく、したがって影響力のある一般メディアが触りづらいのも確かです。メディアが取り上げたいものと、ゲーム業界が取り上げてほしいものの“需要と供給”が合致しない悩みがあります。

 しかし現在、インディーゲーム開発者向けの無償プログラム「iGi(イギ)」の支援を受け、賞を取るなどした「NeverAwake」のような期待の作品もあります。

◇後々で変わる評価

 現在、日本・世界を問わずゲームコンテンツ市場で最も巨大なのは、圧倒的にスマホゲームです。しかしスマホゲームが登場したときの評価は、決して高くありませんでした。最初は評価されずとも、後に評価が劇的に変わる……というのは、ファミコン、初代プレイステーション、ニンテンドーDSなども同じで、ゲームビジネスでは繰り返されてきた歴史です。新しい枠組みからスター的な作品が誕生すれば、業界の仕組みや流れが変わる可能性もあるわけです。

 そして10月からTBSの人気ドラマ枠「日曜劇場」で、ゲーム業界を題材にしたドラマ「アトムの童(こ)」が放送予定です。そこからインディーゲームが世間に認知され、躍進のきっかけになるかもしれません。

 もちろん、花形の家庭用ゲーム機や、スマホゲームも健在です。他にもeスポーツやブロックチェーンゲームなどもあります。メタバースとワンセットになっているVRも含めて、どこに“金脈”があるかは誰にもわかりません。だからどのメーカーも手広くベット(賭け)をしていると言えます。

 そう考えると、今回のゲームショウは、今の業界を反映していたと言えそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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