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「となりのトトロ」 名作中の名作なのに企画段階ではプロが“ダメ出し”したの?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「となりのトトロ」 (C)1988 Studio Ghibli

 宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」が19日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放送されます。老若男女問わず安心して楽しめる「名作中の名作」であることに異存はないでしょう。しかし、企画段階では、プロたちが難色を示したことはご存じでしょうか。

 「となりのトトロ」は、田舎に引っ越してきた姉妹が、森にすむ不思議な生き物・トトロと出会う……というファンタジーです。昭和三十年代の日本の原風景が描かれており、「癒される」という表現がピッタリです。ド田舎出身の私としては「半袖で森に入ると虫に刺されて大変だよ」と言いたくなるのですが、そう思うぐらい、現実世界よりも自然の描写がされているのです。

 しかし、宮崎監督の作品は当時、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」という、動きのある冒険活劇モノという特色がありました。そこに、何気ない日常を切り取った「となりのトトロ」は企画段階で、映像制作のプロたちが、難色を示したのです。要するに、スペクタクルな冒険モノでないと観客が喜ばない……というわけですね。

 映画プロデューサーの鈴木敏夫さんの著書「天才の思考」(文春新書)でも触れられているのですが、宮崎監督が乗り気だったものの、徳間書店の経営陣が難色を示します。そこで、新潮社を巻き込んで「火垂るの墓」とワンセットにするなど策を講じて乗り切ります。ところが、東映と東宝から最初は断られたそうです。それも意外な人が強引な方法でクリアして公開にこぎつけ、「となりのトトロ」は日の目を見るのです。気になる人は同書を手に取ってみてください。

 なぜプロが、これだけの名作を“ダメ出し”したのか。これは「となりのトトロ」に限ったことではありません。映画だけでなく、ゲームなど巨額のコストがかかるエンタメコンテンツは、売り上げと利益を計算しないと経営が成り立たないからで、同時に受けやすい色の作品があります。無視すると会社の存続にかかわるわけで、ヒット作の続編を作りたがるのも、数字が計算できるからです。

 そしてコンテンツが当たるかは究極のところ、出してみないと分かりません。予想できないという意味では、アニメ映画「鬼滅の刃」を制作段階で「『千と千尋の神隠し』の興行収入を抜ける!」と予想できないのと同じです。そして、「鬼滅の刃」のように良い方向に外れるのであれば誰も困りませんが、残念ながら悪い方向に外れることが少なくありません。

 そして「火垂るの墓」と同時上映された「となりのトトロ」の興行収入は約12億円で、赤字だったそうです。「千と千尋の神隠し」の約317億円を筆頭に、他のジブリ作品とは興行収入では比べようもありません。しかし、テレビ放送やキャラクターグッズ販売を考えると、「となりのトトロ」の貢献は大。スタジオジブリのマークは、トトロになるほどなのですから。当然作るときに、そこまでの成功は予想していないわけで、赤字覚悟で作ったからこそ捕まえた幸運なのです。新規分野に挑戦すると“金脈”に突き当たるのも「あるある」なのです。

 「となりのトトロ」は、名作の扱いの難しさを示してくれる作品なのですね。同時に名作は、メディアや時期を変えると、人気が爆発するのも興味深いところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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