Yahoo!ニュース

【試し読み充実】「笑ゥせぇるすまん」「ハットリくん」 藤子不二雄Aさんの名作マンガの“魔力”

河村鳴紘サブカル専門ライター
「藤子不二雄Aデジタルセレクション」

 マンガ家の藤子不二雄Aさんが亡くなったことが報じられました。既に四半世紀前(1996年)に亡くなった藤子・F・不二雄さんとの共同ペンネーム「藤子不二雄」の時代から数多くの作品を描き、マンガだけでなくエンタメにも大きな影響を与えました。

 藤子不二雄Aさんの訃報は、ネットニュースだけではなく、テレビやラジオでも大きく報じられました。朝日新聞の天声人語や、毎日新聞の余録にも採用されたように、社会的な評価の高さがうかがえます。そして、相棒の藤子・F・不二雄さんがストレートに子供の心をつかんだ作品を生み出したのに対して、藤子不二雄Aさんは人情の機微に触れる深みのある作品を送り出しました。

 多くの記事でも、そうした二人の才能の違いにフォーカスしていましたが、せっかくならそこで終わらず、ダイレクトに名作の数々を読んでほしいところです。

 ヤフーの「みんなの意見」での「藤子不二雄Aさんの作品、どれが好き?」というアンケートで人気を集めた「笑ゥせぇるすまん」や「忍者ハットリくん」。しかし「実は原作マンガは読んでない」「昔読んだけれど覚えてない」というのは「あるある」なのではないでしょうか。

 インターネットのおかげで今や作品に触れやすい時代です。「藤子不二雄Aデジタルセレクション」には41作品もあり、場合によっては300ページを超える試し読みができます。

【参考】「藤子不二雄Aデジタルセレクション」

 藤子不二雄Aさんの看板作品になった「笑ゥせぇるすまん」ですが、アニメとマンガでは、受け取る印象が人によってはかなり変わるのではないでしょうか。

 「魔太郎がくる!!」は、いじめられっ子がいじめっ子に魔術で復讐(ふくしゅう)する内容ですが、半世紀前に生み出された作品とは思えません。最初に読んだときは「何と同じ作者のマンガなのか」とうなったものです。当時の直感は、正しかったわけですが。

 「怪物くん」も今読み返すと、主人公の怪物くんのむちゃぶりに振り回されるオオカミ男やドラキュラなどに同情してしまうかもしれません。個人的には、怪物たちに驚かされっぱなしの警察官のおじさんが印象に残っています。

 マンガ原作のアニメについて、一部から「アニメはマンガの上位互換」という考え方があります。アニメは無料で放送され、画は動き、声も出て分かりやすいからで、アニメとマンガは「同じようなもの」ととらえているのですね。

 しかしアニメとマンガは、当然ながら表現方法が違うのです。マンガは、作者の裁量が大きい分、思想や哲学がストレートに出やすく、アニメやゲーム以上に作家性が強く出る傾向もあります。それこそがマンガの魅力の一つであり、藤子不二雄Aさんが生み出す作品の“魔力”だったと思うのです。

 藤子不二雄Aさんのご冥福をお祈りいたします。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事