「鬼滅の刃」のアニメ映画「無限列車編」のブルーレイ・ディスク(BD)とDVDが発売され、発売3日間で100万枚以上を販売しました(通常版、限定版を含む)。アニメのBDとDVDは近年売れず、オリコンランキングでアニメのBDの初週販売数が10万枚を超えるのも大変な状況です。にもかかわらず、爆発的な数字を記録した「鬼滅の刃」の快挙が、今一つ伝わってきません。なぜでしょうか。

 一言で言えば「分かりづらいから」です。数字が突出しすぎており、比較対象も挙げづらいなど記事を作るメディア側の悩みもあります。

◇つかみづらい全体

 まず、「鬼滅の刃」はBDとDVDの2種類がある上に、通常版と限定版があり、それぞれが別々にカウントされるため、全体の数がつかみづらかったことです。

 「鬼滅の刃」の初日販売数ですが、当初発表されたのはBDは約26.8万枚、DVDが約21.8万枚で、いずれもBDとDVDのランキング1位です。ですがBDは限定版、DVDは通常版のデータのみ。BD通常版(20.2万枚)とDVD限定版(約11.5万枚)の数字が、当初は入っていなかったのですね。合算すれば80万枚を超えているのに、1位のみなので「50万枚弱」に見えたのです。さらに記事にしたメディアが少なかったこともあります。

 初報の発表から2日後、発売元のアニプレックスが動き、「鬼滅の刃」BDとDVDの3日間の累計販売数が100万枚を突破したと発表。詳細を公開し「初日だけで80万枚超え」の事実が明らかになったのですね。ちなみに後日、初週の販売数(BDとDVD、通常版と限定版を含む)は約131.1万枚だったことも明らかになりましたが、この数字も広まっていません。

◇他作品との比較難しく

 今のネットメディアは、プレスリリースには素早く反応して記事化しますが、そこから調べて、記事の厚みを増やさない傾向にあります。理由は、記事のボリュームを増やすより、掲載するスピードを重視しているからです。

 そして今回の流れで言えば、今回のオリコンのアニメのBDやDVDの販売数データの発表が、近年消極的なこともあります。以前であれば、毎週のように記事が出ていましたが……。

 その空気を感じたのは、オリコンへの問い合わせでした。初日時点の「50万枚弱」の発表を受けて、「鬼滅の刃」の全体の数字なのかを確認するため電話を入れると「付き合いのある媒体以外の問い合わせには応じられない」という回答でした。問い合わせに答える義務がないといえばそうですし、何のデータを公開するかは著作権者にあるわけです。ましてランキングデータは有料販売ですから、仕方ない側面もあるのも確かです。

 またアニプレックスの発表を受けて、各メディアから出た「鬼滅の刃」の100万枚突破の記事は、当該数字のみを伝えるシンプルな内容でした。本来であれば、他作品を比較して、分かりやすく快挙を伝えたいはずですが、それが難しいのです。アニプレックスのリリースには「鬼滅の刃」のデータの詳細(デイリーの販売数)は載っていても、他作品のデータはありませんでした。

 要するに、興収のときのように「『千と千尋の神隠し』を超えた!」などと、リリース以上のことを書くのが難しいわけです。今回の驚異的な販売数を説明する上で、他作品との比較がないと記事が分かりづらくなるのです。

 過去のオリコンランキングの記事を追うと、BDやDVDの年間販売数については有力作の枚数が分かります。2014年時点で、「アナと雪の女王」(2014年、BD)が約226.9万枚、「千と千尋の神隠し」(2002年、DVD)が約203.9万枚でした。

 発売初週のアニメのBDの販売数ですが、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」が約35.7万枚、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」が約31.2万枚、「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」限定版が約12.8万枚となっています。BDとDVDを合算した初週販売数では「君の名は。」の約63.8万枚もありました。

 令和以降のBDの初週販売データもありました。「アナと雪の女王2 MovieNEX コンプリート・ケース付き(数量限定)」が約22.8万枚、「『ウマ箱2』第1コーナー(ウマ娘シーズン2の1巻)」が約11.2万枚、「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow(特装限定版)」が約7.5万枚という具合です。

 ただし、それは「年間」や「初週」などさまざまで、限定版と通常版の合算なのか、単独なのか判別がつきづらく、目安にしかならないのです。ネット検索すると、個人が作ったとみられるランキングもヒットしますが、それを参考にするわけにもいきません。そうなるとリリースの情報に従い、シンプルな記事を書くしかありません。

 この手のデータを強調する記事には、分かりやすくするために比較対象が必要です。映画の興収について「千と千尋の神隠し」の316億円があったからこそ「鬼滅の刃」のすごさが際立ったのです。当たり前ですが、単純に数字だけを見せられても、業界関係者やファン以外はピンとこないのです。

◇重要度薄れるBDの販売数

 テレビの視聴率や映画の興収、ゲームの販売数は一般向けに発表しています。アニメのBDは、メーカーが出荷数などを開示する慣例がなく、今回のアニプレックスの発表も自社データではなく、オリコンデータを使っていました。

 実は、アニメのBDの販売数は、重要度が落ちている実情があります。ある大手アニメ会社の社員は「アニメは無料放送する特性上、BDの販売数はもはやコアユーザーの数に過ぎない。実際のファン数とは乖離(かいり)するから、以前ほど重視されない……というのは確か。今はネット配信の方が重視されている」と話しています。そうした背景も、各社がBDやDVDの出荷データを出さない理由の一つなのでしょう。

 そんな中で、BDやDVDの売れ行きが下火になる中、初週だけで130万枚以上という驚異的な数字をたたきだした「鬼滅の刃」のすごさが際立ちます。関係者からは「続編ものの円盤(BD、DVDのこと)がここまで売れるとは」と驚く声ばかりでした。ただ、その「すごさ」が伝わらないのは、事情があるとはいえ、残念でなりません。