27日に誕生35周年を迎えた国民的人気ゲーム「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」シリーズ。同日開かれたオンライン発表会で最新作「12」が正式発表されました。発売時期はおろか、対応ハードも伏せられるなど、ベールに包まれたままですが、それでも同作の狙いが伝わってきました。

◇従来シリーズとは異なる雰囲気

 「ドラクエ」は、世界を脅かす敵を倒すために壮大な冒険を繰り広げるRPGです。同作が社会にインパクトを与えたのは、1988年発売のファミコン用ソフト「3」でしょう。ソフトの購入希望者が数キロにわたる長蛇の列を作り、ソフトを巡るトラブルがテレビや新聞で報じられました。そしてドラクエの本編シリーズは、日本国内だけで数百万本のヒットが見込めるビッグタイトルになっています。

【参考】「ドラゴンクエスト」大ヒット連発なぜ? 30年前の伝説の熱狂

 今回のオンライン発表会で明かされたのは、ロゴとサブタイトル名「選ばれし運命の炎」のみ。ゲーム画面はもちろん、イラスト、ストーリーはおろか、発売時期や対応ハードの質問が出ても、伏せられました。

 シリーズの“生みの親”の堀井雄二さんは、言葉を選びながら以下のように発言しました。

・今回はダークな感じになっている。大人向けのドラゴンクエストという感じ。

・いろいろ選択肢を迫られるシナリオ。自分の生き方を選択する。

・おなじみのコマンドバトルを一新。でもコマンドバトルがなくなるわけではない。試作を作って遊んでいるが面白くなっている。

・発売時期は言えないが世界同時発売。対応ハードは言えない。

 従来シリーズとは、明らかに違う雰囲気、異なる試みなのがありありです。ツイッターでもトレンド入りする一方で、発表自体を喜ぶ声もあれば、不安視する声もありました。とはいえ、ドラクエの賛否両論は前作「11」でも展開されたように毎度のこと。「楽しみ」「ダメだ」という議論自体が楽しいとも言えます。

 なお対応ハードについては未定でも、任天堂とソニーの双方に供給する可能性が高いのは、推察が付きます。「ドラクエは最も売れるハードで出す」というのが、前身のエニックス時代から口にしていることで、実際その通りになってきました。むしろPCやスマートフォンをどうするのかは気になるところです。クラウドなど技術の進歩を考えると、どういう展開をしても不思議ではありませんが……。

◇4カ国語対応のオンライン発表会

 今回のオンライン発表会は、日本語のほかに英語、韓国語、中国語の計4カ国語に対応。具体的なことは避けた抽象的な発言が多い中で、発売時期未定にもかかわらず「世界同時発売」をわざわざ明言しました。つまり「ドラクエ12」を世界展開するという“宣言”とも取れるわけです。ドラクエの従来の発表会で、これだけ「世界展開」を意識させられたのは覚えがありません。

 ドラクエの魅力の一つは、選び抜かれたセンスのあるテキスト(文章)です。「返事はない ただの屍のようだ」や「おお 死んでしまうとは情けない」など独特の言い回し「堀井節」がポイントですから、翻訳にも隅々まで厳しいチェックが入るでしょう。量が膨大なだけに、大きな負担となりますが、それでも「世界同時発売」を決断したわけです。「世界で順次発売すること」と「世界同時発売」には天と地の差があります。ゲーマーなら誰もが、後者の方を求めるのは当然でしょう。

 発表会の後に、ネットでドラクエ12の開発スタッフの募集がありました。その中でもディレクターが「世界中のお客様に~」と世界を意識し、さらに「タイトルの伝統を守りつつ、変革していく」とコメントをしています。世界展開と変革はキーワードなのですね。それにしても現段階で開発者を募集するぐらいなので、「物語はできている」とはいえ、完成には相当な時間がかかりそうです。

 約20年前から、「ドラゴンクエスト」シリーズについて何度も取材をする機会がありました。決算を見るたびに思うのは、海外で数字が思ったほど伸びないこと。世界にドラクエの魅力を伝えることが課題なのです。

 「ドラクエ11」の世界出荷数は600万本以上ですが、比率は国内に偏っているとみられます。「ファミ通」を発行するKADOKAWA Game Linkageによると、「11」の国内販売数(パッケージのみ)はニンテンドー3DS、PS4、ニンテンドースイッチを合算して約376万本。この段階で国内比率は6割に達します。販売数から推定の出荷数を割り出し、ダウンロード販売数を入れると、その比率はさらに高まります。

 ドラクエの日本の偏重ぶりは、他の大ヒット作と比べると浮き上がります。カプコンの人気ゲーム「モンスターハンター:ワールド」は世界出荷数1680万本で、うち約7割が海外です。任天堂の大ヒットゲーム「あつまれ どうぶつの森」も世界出荷数3263万本で、うち日本は900万本強。海外市場に強く、似たような割合です。ドラクエは、日本で売れるのはすごい反面、世界でもある程度売れたら……と思わずにはいられません。

◇ゲームビジネスの呪縛

 「ドラクエ」といえば、じっくり考えられるコマンド入力式の戦闘、正統派ファンタジーの世界観は「核」とも言える部分です。そこに「ダークな世界観」「コマンドバトルを一新」と言われると、不安になるのは確かでしょう。想像できないだけに熱烈なゲームファンであるほど不安を抱くでしょうし、「ドラクエには、古き良きRPGを求める」という声も一理あるのです。

 しかし、伝統を踏襲すれば、売れるとは限りません。伝統を守っているように見えても、時代に合わせての「手入れ」は必要でしょう。ドラクエシリーズのリメークも、出すたびに時代に合わせて手を入れています。

 そもそも、変えることのリスクは、ファン以上に作り手の方が理解しているでしょう。現在のゲームビジネスは、世界を無視するわけにはいきません。ゲームソフトの開発費は10億円はおろかケタがもう一つ増えることもありえます。何より海外を軽視すれば、ワンタイトルで1000万本以上が狙える可能性を摘み取ることになります。ファンあってのゲームですが、同時にビジネスです。スクウェア・エニックス・ホールディングスも利益を追求する株式会社であり、東証一部上場企業である以上、ビジネスの呪縛からは逃れられません。

 取材で感じることですが、堀井さんは、ゲームに不慣れなプレーヤー、初心者へ配慮する発言をします。他のクリエーターが作った便利なゲームシステムも、ライトユーザーが使いこなせないと考えると敬遠するそうです。堀井さんの周囲には優れたクリエーターがいるわけですが、それでも堀井さんの「目利き」がドラクエの“生命線”です。

 ダークな大人向けになっても、従来のコマンドバトルでなくても、初めてドラクエに触れるユーザーが楽しく遊べるのであれば、問題ないのです。何よりファンが増えれば、ドラクエの可能性がさらに広がります。

 安全策を取るなら、従来路線の延長という展開もあったはずですが、違う方向に舵を切っています。リスクを冒して世界展開を意識した姿勢を見せるあたりに、日本を代表する人気ゲームの「誇り」「野心」を感じます。世界のゲームファンに「ドラクエ12」が受け入れられたら、シリーズの流れを変える「伝説」の一作になるかもしれません。