PS5の世界出荷数450万台から考察 日本への配慮とソニーの狙い
「いまだに手に入らない」などとゲームファンが嘆いているソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」の台数が、ソニーの2020年度第3四半期の連結決算で明らかになりました。データを考察すると、日本市場への配慮や、苦しい事情が見え隠れします。
◇PS5 日本に配慮も実感しづらく
ソニーの決算は、多くのメディアが記事にしましたが、三つのポイントがありました。PS5の出荷数(2020年11~12月の2カ月弱)が450万台だったこと。PS5は製造コストが販売額を上回る「逆ザヤ」だったこと。最後は決算の数字(特に最終利益)です。ソニーの決算発表の数字や事実だけを見るだけでなく、もう一歩掘り下げましょう。
一つ目は、PS5の出荷数から導き出される答えとして、ソニーは「日本市場の軽視」はしていないことです。まず「450万台」の数字は、2013年に発売されたPS4の最初の四半期(2カ月弱)の出荷数と同じです。
PS4の年内販売は「米欧」でした。ところがPS5の年内発売は「日米欧」です。同じ出荷数なのに、日本が加わっては、欧米の“取り分”が減るわけです。本来は、日本の出荷分を考えると、PS5の出荷数は、PS4を上回っていないといけないはずです。発売タイミングも含めて「日本市場への配慮」だったわけですね。
「PS5がなかなか手に入らない」のは世界共通の話ですが、他国の品不足は実感しづらいところでもあり、日本だけが極端に品不足になっているように感じるわけです。配慮をされても実感がないと認識できないのは、「あるある」です。
◇PS5「逆ザヤ」なのにゲーム事業は好調
二つ目は、PS5の製造コストが販売価格を上回る「逆ザヤ」にもかかわらず、ゲーム事業が黒字を確保し、ソニーグループの売上高と営業利益の双方に貢献したことです。
第3四半期単体(2020年10~12月)、第1四半期から第3四半期(4~12月)のソフトの売れ行きは、いずれも前年同期を上回っています。さらに4700万人の有料会員を抱えるネットワークサービス「プレイステーションプラス」の安定かつ高収益も、利益をさらに押し上げた構図です。
新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり効果」という“追い風”があったのはその通りです。それでも、グループの売上高の約3割を稼いだゲーム事業のパワーは圧倒的です。「PS5でしか遊べない専用ソフトがヒットした!」という分かりやすい構図ではないのですが、PS4用ソフトと互換性があるためソフトの種類は潤沢です。PS4のソフトを買っても、PS5で使えない……とならないのは大きいでしょう。
◇PS5 来年度計画1480万台以上
最後は、半導体の世界的な不足から、PS5の出荷数が今後「減る」というイメージを持っている人もいるようですが、それはイメージに過ぎないということです。
PS5の今年度(~2021年3月)の出荷計画数は「760万台以上」のままです。また来年度(2021年4月~2022年3月)の出荷計画も、PS4の2年目の「1480万台」より上を目指すことを明言しました。
もちろん「計画」は「未定」に過ぎません。しかし半導体の不足があっても、「760万台以上」の数字を下方修正しなかったこと、さらに来年度の出荷計画を明言した事実は重いのです。言い換えれば、ソニーはPS5の計画達成と部材調達に自信があるわけです。
ただし、PS5の出荷数が「計画通り」に留まるのが、厳しい事情を示しています。PS5は現在、ある分だけ売れる人気商品ですから、本来は出荷数の上方修正があるべきなのです。にもかかわらず「上積み」がないのは、ここに半導体不足の影響が出ているということです。
なお決算は、速やかな情報開示が要求されます。それを怠れば、投資家への信用問題になり、ソニーのブランドに傷が付きます。だからPS5の出荷数が大幅に減れば、業績予想に影響がある以上、下方修正をしてきます。
ソニーの言おうとしているところは「半導体不足の心配はあるから、PS5の急激な大幅増産は大変だけれど、計画分の部材は相応に確保しているし、しっかり出します」となります。一方で「半導体が不足しているから、PS5の品不足はそのため」と単純に考えるかもしれませんが、そうではないのです。仮に半導体があって部材がそろっても、生産能力もありますから、急激に増やせるものではないのです。発表を読み解いて、取材をすると別のものも見えるのですね。