「進撃の巨人」11年半の連載完結を惜しむ声 圧倒的“快進撃”の理由

「進撃の巨人」作品公式サイト

 コミックスの累計発行部数が1億部を誇る諫山創(いさやま・はじめ)さんの人気マンガ「進撃の巨人」の連載が、4月9日発売の「別冊少年マガジン」(講談社)5月号で完結することが発表されました。アニメ化前から既に爆発的な人気を博した圧倒的“快進撃”の理由を振り返ります。

◇アニメ化前から火が付く

 「進撃の巨人」は、周囲を壁で囲まれた街に住む人類が、圧倒的な力を持つ巨人たちを相手に戦い、世界の謎を明かしていく……という物語で、諫山さんのデビュー作です。

 同作の魅力は、第1話と2話を読めば理解できます。高さ50メートルの壁に囲まれた街で暮らす主人公・エレンは、外の世界にあこがれを抱きますが、平穏を破るかのように、壁の上から巨人が顔をのぞかせるのが第1話です。巨人が一蹴(け)りで門を破壊し、他の巨人(大きくて約15メートル)が街に侵入、エレンの母らを食べてしまう……という衝撃の内容が第2話ですね。そしてエレンたちは、特殊な訓練を積んで、5年後に巨人と戦うのです。

【参考】「進撃の巨人」第1話(マガポケ)※第2話も無料

 2009年9月の「別冊少年マガジン」(講談社)の創刊時に連載が始まると、コアなマンガファンや書店員から注目され、コミックス1巻(2010年3月発売)で新人としては異例の4万部を発行。そしてネットに「面白いマンガがある」など話題になり、多くのメディアで注目作として取り上げられ、1年半後のコミックス4巻の発行時には、全巻ミリオン(100万部)を達成する怒涛(どとう)の“快進撃”でした。

 その後はアニメもシリーズ化されて、コミックスの累計発行部数(電子書籍込み)は1億部を突破しました。通常マンガのヒットは、アニメ化が火付け役になるのですが、「進撃の巨人」はアニメ化前から火がついていたのです。そして4月の連載終了が発表されると、ネットでは11年半の連載を惜しむ声が多かったように見えました。なぜ「進撃の巨人」はここまで多くのファンを魅了したのでしょうか。

◇謎が次々と明らかに

 ポイントは、「人類が巨人に“支配”された世界」という分かりやすくもオリジナリティーあふれる絶望的な世界観に加え、先の読めないダイナミックな展開、作中の多くの謎が次々と明かされてことでしょう。

 実は、連載誌を追ったり、コミックスの最新刊を既に読んだりした人が1巻から読み返すと、多くの仕掛けが見えます。初見だと巨人の破壊力に圧倒されて終わるのですが、展開を知る人には、見える「景色」がまるで違うのです。

 まず1話のタイトル「二千年後の君へ」ですが、初見だと「なぜこのタイトル?」となるのですが、読み進めれば意味が分かります。他にも、巨人がいるのになぜ強固な壁を造れたのか? そもそも巨人とは何か? いずれも答えが出るのです。さらに2話に掲載された兵団の訓練生の順位も、今見ると非常に意味のある並びになっています。

 謎の答えが惜しげもなく次々と明かされていき、しかも予想を上回る内容なので、読者は「次の展開は?」となるのですね。絶望的な局面をどう打開していくのかも、筋立てて描かれていきます。巨人の正体、世界の仕組みが明かされたときは、相当の衝撃でした。そして新しい謎が明かされると、これまでの流れを再度読み返したくなる……というマンガなのですね。

 マンガに限らず、エンタメコンテンツで序盤の伏線を回収というのは意外に難しく、回収しそこなって後からファンに(愛のある)ツッコミを受けることもあるのですが、「進撃の巨人」は伏線の回収が見事なのも魅力です。

◇多彩なキャラ 難解さの加減も絶妙

 他作品にはないオリジナリティーのある設定に加え、多くのキャラクターが登場し、群像劇にもなっています。熱血で仲間思いのエレン、エレンをいちずに守ろうとするミカサ、気弱ながら頭の切れるアルミンの幼なじみ3人組を中心にした訓練生の同期、最強の戦士(で一番人気)のリヴァイなど顔ぶれは多彩です(他にもたくさんいますが、書いていくとキリもないし、ネタバレになるので差し控えます)。

 そして圧倒的な力を誇る巨人と戦う物語の展開上、注目のキャラクターが急にいなくなったりします。さらに物語の後半になると、構成上また結構な数の新キャラクターが登場します。元々いるキャラクターでも新事実が明かされたり、立ち位置が変わったりする点も面白いところでしょうか。

 また暗躍したり、一計を案じるキャラクターもいたりして、そこに元々多い謎が絡み合うので、ストーリーが進むほど難解になるのですが、その加減も絶妙です。

◇自分の強みを武器に

 「進撃の巨人」が教えてくれるのは、魅力的かつ独創的な物語は読者の心を強く引き付けるということです。もちろんマンガでは、キャラクター立ちが重視されますし、画力がある、分かりやすい見せ方をするなどのテクニックも必要で、総合的なバランスが肝要なのですが、「進撃の巨人」の場合は武器(ストーリー)が非常に強力です。

 「進撃の巨人」の連載初期に「画力が……」と指摘する人は、ネットだけでなく、業界関係者でも少なくありませんでした。インタビューで諫山さんも、絵に課題があったと語っています。しかし同時に自身の強みも理解していました。

――「拙さ」を抱えていたとおっしゃられましたが、具体的にどのような課題があったのでしょうか?

基本全てですが、特に絵ですね。

プロを目指せるレベルではなかったと思います。

でも、絵のレベルを自覚しながらも上手くなろうという気はありませんでした。

今考えると絶対によくない態度ですけどね(笑)。

なぜなら、当時はネームが面白ければそれでいいと思っていたからです。

専門学校生時代も、他の生徒たちが絵の練習をしている中、ずっとネームに時間を費やしていました。

【人気漫画家に聞く】諫山創先生、連載までの軌跡&キャラクター術(イラスト・マンガ描き方ナビ)

 ネームとは、マンガを描くときのコマ割りや構図、セリフなどを大枠で描いた「設計図」ですね。マンガは歴史があって作品数も多いこともあり、新味のある題材が枯渇(こかつ)しています。つまり、何を描いても「〇〇に似ている」と言われる状況なのですが、「進撃の巨人」はそうしたことがなく、登場時に「この作品は何だ?」と思わせるインパクトがありました。そして何より、週刊少年マンガ誌ではない連載でありながら、新人の新作の出来が高く評価されて、マンガファンを動かし、それがメディアの注目を集めることになり、アニメ化前からコミックスが爆発的に売れた軌跡は、まさにシンデレラ・ストーリーといえます。

 人が残酷に食べられたり、欠損表現も多かったりするダークファンタジーなので、万人向けとは言えないかもしれませんが、面白いエンタメは大なり小なり「毒」があるものです。そして、「毒」の塩梅が絶妙なのも確かです。なおアニメは「The Final Season」が放送中ですが、未見の方はサブスクなどでシーズン1から見ることを強くお勧めします。

 そして、外伝マンガも展開、タイアップも積極的で、それも人気を広げることにもなりました。昨年11月には諫山さんの出身地・大分県日田市にある大山ダムにエレンとミカサ、アルミンの少年期の銅像がお目見えしています。ダムを壁に見立てたのが見事ですよね。新型コロナが落ち着いたら、ファンの方は足を運んではいかがでしょうか。

 連載初期からの圧倒的な“快進撃”には理由があるのですね。傑作の完結をぜひ見届けたいと思っています。