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「鬼滅の刃」と「あつ森」 史上最強クラスのヒットの共通点は

河村鳴紘サブカル専門ライター
「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)とマンガ「鬼滅の刃」1巻(集英社)=筆者撮影

 「2020 ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞こそ逃したものの、トップ10入りを果たした「鬼滅の刃」と「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」。前者はコミックスが爆発的に売れただけでなく、アニメ映画の興行成績が史上最高の308億円を狙える位置に来ています。「あつ森」も日本だけで818万本以上、世界では2604万本(9月末時点)を出荷しています。両者とも史上最高峰といえるヒットを飛ばしたわけですが、その共通点を振り返ってみます。

◇テイストが異なる両作品

 「鬼滅の刃」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2016年から今年5月まで連載されたマンガが原作です。人を食う鬼を倒す「鬼殺隊」になった竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を人に戻そうと戦う和風ダークファンタジーです。アニメ映画だけでなく、コミックスもヒットしており、累計発行部数は1~23巻で1億2000万部を超えています。各巻平均で500万部を超えています。

 「どうぶつの森」シリーズは、言葉を話す「どうぶつ」が暮らす場所で釣りや虫捕りなど“スローライフ”を楽しむゲームです。「あつ森」は、無人島に移住したプレーヤーが自身でもの作りを楽しみ、島を発展させていくのがポイントです。

 両作品とも、エンタメの歴史に名を刻むであろう“怪物”コンテンツです。今年は新型コロナウイルスの感染拡大という背景があるので、大賞を逃したのは仕方ありませんが、両作品で大賞を逃したとなれば、次の大賞はいつになるのだろう……という気もします。

 面白いのは、「鬼滅の刃」は死と隣り合わせのダークファンタジーで、「あつ森」の持つ「いやし」「スローライフ」と対極にあることです。

 それでも、四つの共通ポイントがあります。

◇初心者もOK 敷居の低さ

 一つ目は、両作品とも、世代や性別を問わず、広い層に受け入れられる素地があったという敷居の低さです。

 「鬼滅の刃」は、鬼や呼吸など難解な設定もあり理解しづらい面はありますが、アマゾンプライムなどのアニメ配信が入り口になっています。アニメで複雑な設定が分かりやすくなるのは、他の作品でも見られた傾向で、展開が早くすぐ結論が分かる「テンポの良さ」もあります。アニメ映画の「無限列車編」も、「親子の絆(きずな)」「自己犠牲」という心の琴線に触れやすい点があり、アニメに不慣れな人でも理解しやすいこともあるでしょう。

 対する「あつ森」は、ゲームオーバーもなく、やりこみ要素満載でありながら、片手間で気軽に遊べ、何をしてもOKです。特筆するのは直感的に操作しやすいことで、テキストの漢字にもルビを振るなどの配慮もあり、幼児(4歳)も遊べるほどです。CEROレーティングA(全年齢対象)とはいえ、クリエーターの「こだわり」には恐ろしいものを感じます。

◇品切れという枯渇感

 二つ目は「枯渇感」でしょうか。

 「鬼滅の刃」は、一時期コミックスが売り切れました。アニメは見られても、続きはマンガで見るしかありません。「あつ森」は肝心のゲーム機「ニンテンドースイッチ」が慢性的な品不足になり、転売ヤーのターゲットになりました。

 メディアで取り上げられてコンテンツに触れ、「アニメ映画の続きを見よう」「触ってみよう」と思っても、触れないとなれば、余計に欲しくなるのは人間の性(さが)です。

 さらに両作品とも、ネットだけでなく、テレビなども取り上げました。当然、初見の人もいるわけで、それが大きなプロモーションになりました。「鬼滅の刃」は大ヒットというニュースを見た70代の高齢者すら「これ何?」と口にするほどでした。「あつ森」も普段はゲームをしない層が欲しがったわけです。メーカー側も望んで品切れをさせたいはずはなく、したがって予想外の売れ行きだったのが分かります。

◇コロナを“追い風”に

 三つめは“天の時”を得たことです。新型コロナウイルスの感染拡大が“追い風”になっています。

 「鬼滅の刃」は、新型コロナウイルスの外出自粛があった時期にアニメのサブスク配信、マンガの完結で盛り上がり、アニメ映画公開のタイミングは、ライバルの映画が上映されず、スクリーン数を増やしたことが背景にあるのは多くの指摘の通りです。計算したようなタイミングの良さがあるわけです。

 もちろん、アニメ映画の予約が好調だったからこそ、「スクリーン数を増やす」という決断ができたわけですが、それにしても、何かの力が働いているかのようなタイミングであったのは確かです。

 「何かの力が働いている」という意味では、「あつ森」も同様です。同作の発売時期は当初2019年でしたが、発売延期で2020年3月になっています。延期の発表時は不満の声も出たわけですが、結果はみなさんもご存じのとおりです。

 もともと力のある作品なのである程度のヒットは予想できたわけですが、ここまでの社会的ヒットを最初から予想した人はいないでしょう。「神ってる」としか言いようがありません。

◇語れば深く……

 新型コロナの影響下で、前例のないレベルの大ヒットコンテンツが二つも出たのは偶然でしょうか。そして、どちらも間口は浅いのに、「深掘り」ができる点もポイントでしょうか。

 「鬼滅の刃」は、個々のキャラクターはもちろん、鬼、呼吸などさまざまな要素から考察できます。メディアでもコミックスの巻数から考察する記事が目立ったように、いろいろな分析が可能でした。ヒットの要因もそうですし、キャラクター視点でも、ストーリーからも考察ができるでしょう。

 一方の「あつ森」も、島を改造するなど自由に作りこめます。天気はもちろん、年間を通して取れる魚や昆虫が変わり、定期的にバージョンアップをしています。自分だけの島を作って自慢できますし、四季の移り変わりもまた素敵なのですね。

 コンテンツは、クリエーターが先鋭化するほど、世界観や設定が複雑になる傾向にあります。複雑にしないとコア層には飽きられ、複雑にしすぎるとライト層が離れます。さじ加減が難しいのです。

 エンタメコンテンツが増え、消費者の好みも細分化した結果、「以前のような社会的ヒットを生み出すのは難しい」という指摘は、これまでの取材で作り手からはよく聞く話でした。

 そんな中で、史上最強クラスのヒットを生み出した「鬼滅の刃」と「あつ森」は、多くのクリエーターの目標となり、当然研究されるでしょう。そして「鬼滅の刃」と「あつ森」が届かなかった流行語大賞の「大賞」を射止めてくれる、次の社会的ヒット作を待ちたいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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