「鬼滅の刃」劇場版 歴代最高「千と千尋」超えなるか? プロの興収予想は

「劇場版『鬼滅の刃』 無限列車編」公式サイト

 人気アニメ「鬼滅の刃」の劇場版「無限列車編」の興行収入が3日間で46億円を超え、NHKもニュースで報じるなどアニメに興味のない人もタイトルを認知するほどの話題になっています。アニメにかかわってきたアニメ会社や出版社の関係者らプロに片っ端から取材すると、興行収入の予想が割れ、さまざまな分析がありました。

◇好調の理由は「環境」

 鬼滅の刃は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2016年から今年5月まで連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガが原作です。人を食う鬼がいる世界を舞台に、優しい少年・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を人に戻そうと、鬼を倒す「鬼殺隊」になって奮闘する内容です。コミックスの累計発行部数は22巻の段階で1億部を超えており、12月発売の23巻でも大幅な積み増しが確実です。

 「無限列車編」は、多くの人々が行方不明になる無限列車の事件を解決するため、炭治郎が「鬼殺隊」最強の剣士「柱」の一人・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)らと、鬼の関与を疑って乗り込みます。昨年に放送されて人気を博したテレビアニメの続きで、かつ同編は山場の一つです。

 劇場版の3日間の興行収入は46億円を突破し、文字通りの「快進撃」で始まったわけですが、ポイントは「鬼滅の刃」が、業界の“常識”を覆す数字を叩きだしたことです。「魔法少女まどか☆マギカ」や「ラブライブ!」など、これまでもヤフートピックスで取り上げられてきたような深夜アニメの劇場版の興収は20億~30億円でした。

 好調の要因について、関係者はそろって、作品より環境を挙げていました。既にさまざまな記事でも触れられていますが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて洋画の公開が止まっており、空いたスクリーンを埋める形で「鬼滅の刃」に割り当てられ、異例の好成績をたたき出した……というものです。「内容と人気があってだが、あれだけスクリーン数があれば強い」という嫉妬(しっと)のような声もありました。

 ただし、そこからもう一歩進めた分析もありました。ライバルの不在は「鬼滅の刃」への人気集中を意味すること、スクリーン数の増加は後で入る客の「前借り」の要素があること、テレビアニメの放送局とネット配信のチャンネルの多さが深夜アニメの枠にとどまらないファンを獲得して、今回の快進撃の伏線になっている……という意見もありました。

◇分析が難解 メディア泣かせ

 環境ばかりがクローズアップされるのは、ある意味仕方ありません。なぜなら、劇場版大ヒットの理由をコンテンツ自体に求めると、なかなか大変です。原作マンガの連載終了時期に、私も記事で取り上げたのですが、元々のアニメとマンガの爆発的ヒットの理由について、アニメ好きはもちろん、キッズやファミリー層も取り込んだところにあるのですが、なぜ「鬼滅の刃」だけがブレークしたのかと言われると、多くの関係者が「ここまで人気になった理由は、正直分からない」と告白していました。

【参考】「鬼滅の刃」プロも説明に困る人気ぶり 世代間のギャップも(5月17日配信)

 しかし「鬼滅の刃」の大ヒットを報道する以上、理由付けは必要です。その理由を環境ではなく、コンテンツに求めるのであれば「心に訴えるものがある」「アニメの出来が良い」というスタンダードな説明にならざるを得ません。他の劇場版アニメでも、心に訴えて感動させ、かつ出来が良い作品はありますから、整合性はつかないまま……となります。どこかを切り取って「ヒットの理由はズバリこれ!」と言い切れませんからメディア泣かせです。

◇最終興収はどこまで? 予想は二分

 初週の興収だけで最終興収を予想するのは無理があるのですが、それを承知で質問すると、関係者の意見は概ね二つの立場に割れました。「150億円まで」派と「200億円に届く」派です。

 「150億円」派の理由は、「鬼滅の刃」のすごさは認めつつも「内容が難解なのが気になる」「表現的に残虐な面があるから人を選ぶ」などでした。小学生以下が見るには、保護者の助言・指導が必要となる「PG12」で、ダークファンタジー的な要素を考えると「石橋をたたいて慎重に」……というわけです。ただし150億円でも昨年の大ヒット劇場版アニメ「天気の子」(約140億円)を抜くわけですから、非常に高い評価といえますし、「『天気の子』は抜くと思う」と言い切る人も少なくありませんでした。

 「200億円」派の理由は、有力映画の不足の流れは11月も続くこと、ヒットを伝える報道も追い風になるというものでした。中には「250億円、300億円の可能性も否定できない」「(3日間で)興収46億円は、過去のケースに当てはまらない。このレベルだと、どこまで行くか分からない」という声もありましたが、「歴代トップ(千と千尋の神隠し、308億円)はさすがに厳しいのでは……」という意見が大勢でした。それにしても、並みのヒット作であれば「歴代トップ」を口にしただけで、鼻で笑われてしまう話です。可能性を感じさせるだけで、とてつもないと言えます。

 そして多くの関係者が「初週だけでは判断材料が少なく、今週(10月24日・25日)の興収がカギ」とも付け足しています。スタートだけを見ると歴代トップも狙えそうですが、そのためには観客を集め続ける持続力も必要で、判断に迷うのでしょう。いずれにせよ、初週の興収だけでも、映画・アニメ史に残る快挙なのは間違いありませんから、後はどこまで上り詰めるかということになります。

◇映画の救世主 「深夜アニメではない」の声も

 「鬼滅の刃」がコロナで苦しむ映画の救世主という声があったのはその通りでしょう。しかし、その中でもう一つ踏み込んだユニークな指摘がありました。「スマートフォンで無料コンテンツに慣れたキッズに、コミックスと劇場版でコンテンツの課金を教える形になったのは大きい」というものです。

 確かにアニメをテレビ放送や、親の加入したサブスクで無料視聴してファンになり、続きを見るため映画館に足を運び、その続きが気になればコミックスを買う流れになっています。価値あるものに対価を支払うというのは、エンタメコンテンツでは不可欠です。対価はその後の制作費用になるわけで、コンテンツの展開に大きな影響を及ぼします。これだけヒットすれば、「劇場版アニメを定番化するべき」というビジネス的な声がでるのも必然です。

【参考】大ヒットで見えた鬼滅の刃「定番化」の可能性(ヤフートピックス、東洋経済オンライン)

 従来の深夜アニメの劇場版は、ターゲットがアニメ好きの大人でした。しかし「鬼滅の刃」は、キッズ、ファミリーにもリーチしていることから「鬼滅の刃は、キッズも完全に捕まえている。(コア層向けの)深夜アニメ発なのは事実だが、もう一般層向けのアニメとして見るべき」という指摘もありました。

 確かに、フジテレビでの放送時の視聴率も15~16%を稼ぎました。また、興収の上位に来る歴代の劇場版アニメは、キッズもファミリーも足を運べる作品がそろっていますから、これだけの成果を残したコンテンツは「一般層向けだ」と考えるのも一理あります。ともあれ、「鬼滅の刃」がプロを悩ませ続けるのは、マンガ、テレビアニメだけでなく、劇場版でも同じようです。

 そして今週の興収は、先週以上に関係者とファンの注目を集めそうです。