ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の新型ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」のプレオーダー(仮予約)が米国で始まり、話題になっています。「転売対策」の面もあることからネットで評価されているようですが、そもそもビジネス的な施策として考え抜かれています。

◇ゲームの履歴活用

 PS5は、8Kの映像が楽しめ、コントローラーの振動で多彩な触感表現を再現、ロード時間を飛躍的に短縮した新型ゲーム機です。PS4用ソフトとの互換性も持たせる予定で、「ディスクドライブあり」と「ディスクドライブなし」の2種類のモデルがあります。2020年の年末商戦期に発売予定ですが、発売日と価格は今も発表されていません。そして、普通に売り出せば、転売のターゲットになる可能性の極めて高い商品でした。

 今回のプレオーダーは、一般の人たちには普通のネット通販に見えますが、ゲームユーザーがざわついているように実態は別物です。ポイントは、同社が提供する登録無料のネットワークサービス「プレイステーションネットワーク(PSN)」の蓄積した情報を活用し、優良顧客を選別できることです。

 PS4は実質的に、ネットに接続して遊ぶことが前提になっています。PSNの登録は無料ですが、有料サービスの利用者が多いのです。PSNのサービスは、ゲームや映像を購入できる「PlayStation Store」、世界で4000万人以上が利用するサブスク「PlayStation Plus」などがあります。これらのネットワーク事業だけで、SIEは年に3000億円以上を稼いでいます。そしてPSNには、利用者がどんなゲームをどれぐらい遊び、クリアしたのかなどの情報が記録されていてます。

◇IDにひもづけて1台予約

 プレオーダーは米国向けの話で、その仕組みを簡単に説明します。ホームページから申し込むには、PSNのIDが必要で、PS5本体を1台だけ予約できます。なお受取先を米国外の住所にするとキャンセルされます。

【参考】PS5のプレオーダーのサイト(英語)

 そしてプレーオーダーの申し込みを受けて審査があり、後日改めて審査を通った人に対して予約の手続きができる「招待状」が発送されます。その「招待状」は購入の保証ではなく、先着で申し込めるようになっています。

 面白いのは、審査時に、ゲームを遊んだ履歴などが参考にされると言及していることです。つまり、PS4でゲームを遊んだ人ほど優先して「招待状」が送られる可能性が高いことが予想されます。ネットワークと連動したゲーム機だからこそできる審査といえます。

◇優良顧客を優先する利点は

 この話が出たとき、「転売対策になっている」という書き込みを見かけました。確かに今回の仕組みであれば、PS5の転売をたくらむ転売ヤーがPSNの新規IDを大量に作っても、ゲームのプレー履歴を見れば、ゲームファンでないことが即座に見抜けます。SIEが審査の仕組みをあいまいにしているのも、公開すれば対策をされる可能性があるからではないでしょうか。

 ただしビジネスの視点で言えば、「転売封じ」はあくまで結果論、副次的なものではないでしょうか。具体的なSIEの狙い(最優先事項)は、ゲームを熱心に遊ぶロイヤリティー(忠誠心)の高い優良顧客に、PS5を確実に優先して届けることでしょう。その方法を追求した結果として、転売の対策になっているのは素晴らしいところです。

 もう少し細かい狙いを言えば、PS5をプレーした初期のユーザーの感想・評価です。そもそも新型ゲーム機を売り出したときの売れ行きと評判は、その後の普及に大きな影響を与えます。そのためにはPS5を遊ぶ人の絶対数を増やす必要があります。転売ヤーでなくても、PS5を買って、遊ばずに満足しているようでは困るのです。

 普段からゲームを熱心に遊ぶユーザーであれば、PS5を手に入れたらゲームを遊びますし、その様子をうれしそうにネットで書き込む確率はアップします。ユーザーの興奮の声(ネットのユーザーの評判)は、広告と違って金で買えないものです。もちろん、酷評が書かれる可能性もあるわけでして、そうなれば逆効果ですが、製品の出来に自信があれば、気にする必要はないでしょう。

 そもそも、発売日に新規商品を買うような「アーリーアダプター」は、値段はさほど気にしていません。そして価格に関係なく購入するのであれば、予約を取るのに値段の発表を待つ必要はありません。嫌ならプレオーダーに申し込まなければ良いだけで、申し込んで当選しても「招待状」が届いた段階で無視すればキャンセルできます。とはいえ、商品の価格を明かさないでプレオーダーを取るのは、他の業種ではちょっと考えられないことではありますから、PS5の自信のほどがうかがえます。

 この手法について「PS4を持ってない人のことを考えてない」「コアユーザーをひいきしている」という不満の声は、当然あるでしょう。ですが、デパートの外商、得意先との取り引き、大量販売顧客への値引きなどを考えれば分かりますが、優良顧客は優遇することは珍しくありません。

 繰り返しますが、PS5は売り切れ必至の商品です。PS5の発売日当日、「PS4を持っていないけれどPS5を欲しがるユーザー」と「PS4を所持して遊んでいるユーザー」の2パターンがあり、どちらの数が多く、大事な顧客か?ということです。全員が満足する方法があればベストですが、現状の問題点と、ビジネスをする上で何を優先するべきかを考えれば、答えは出てくるのではないでしょうか。

 もちろん、一部のユーザーがPS5を転売することはありえます。とはいえ、転売の数を相当に抑え込める可能性が高いのは間違いなく、他に有効な対策もない以上、挑戦する価値があるのは確かです。

◇転売対策しないとイメージダウンも

 今回の施策の弱点を挙げるとすれば、本来商品(ゲーム機)を扱う小売業をスルーしていることでしょうか。しかし小売業も、転売目的の購入者に手を焼いており、さらに有効な手が打てていません。新型コロナウイルスの感染防止対策も含めて、メーカーからの直接販売をしやすいタイミングと言えます。

 もちろん、PS5の普及が進んで転売の心配がなくなれば、新規顧客を取り込むためにも、販売店に商品を並べてもらうのは必要になるでしょう。将来はさておき、今の段階で小売業を敵に回すのは得策とはいえませんから、すぐ直販がトレンドになることはないのはそうです。しかし、今回のような個人情報を利用した直販は、不良顧客をはじく意味では極めて有効です。他業界も注目するでしょうし、今後のビジネスモデルを変える可能性があります。

 とはいえ、今回の方法がいつも転売防止に有効というわけでもありません。任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」が転売に苦しんだように、ある程度普及した商品が転売のターゲットとなった場合は、新規顧客と転売ヤーの違いを見分けるのは難しいことは変わりません。それでも、一時的とはいえ有効な転売対策になりそうな方法があること自体が一歩前進といえます。

 PS5に限らずですが、これからの人気商品は、今まで以上に転売対策を考えざるを得ません。購入者を容易に探せるフリマアプリの広がりもあり、誰もが転売相手を探しやすく、手を染めやすくなったからです。そして転売を放置すれば、企業やブランドのイメージは確実に悪化します。

 今回のプレオーダーは、米国の話であり、まだ結果が出たわけではありません。しかしよく練られた仕組みで、成功すれば他国・他地域でも導入の流れになるのは、容易に推察できます。そういう意味でも、PS5の日本での販売方法に注目したいところです。