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ゲームショウ2019は“記者泣かせ” 5Gならではのゲームなく

河村鳴紘サブカル専門ライター
東京ゲームショウ2019(写真:西村尚己/アフロ)

 日本最大のゲーム展示会「東京ゲームショウ2019」が12日から幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催中です。今回のゲームショウは、“記者泣かせ”というべき内容でした。

 私は今年、諸事情がありまして、約20年ぶりに現地取材を見送りました。ただし昨年まで毎年、全日欠かさず取材をしており、ゲームショウには相応の思い入れがあります。ですから現地には行かずとも、情報収集も兼ねて多数の関係者と接触しました。

 さて今回のゲームショウですが、ある特徴があります。開幕翌日の13日(東京朝刊)に掲載された各新聞の記事の見出しを並べると一目瞭然です。

・5Gでゲーム観戦自在 東京ゲームショウ開幕、ドコモが大型出展(朝日新聞)

・ゲームショウ 注目は5G 速度100倍 eスポーツ普及に弾み(読売新聞)

・東京ゲームショウ:5Gとクラウドで新時代 東京ゲームショウ開幕(毎日新聞)

・「5Gでeスポーツ」に熱視線 東京ゲームショウ開幕(産経新聞)

 来年開始予定の次世代通信規格「5G」が、どの見出しにもついていますね。ただし、関係者に聞くと「5Gの文字を見るのはNTTドコモのブースだけじゃないかな」「うちは関係ないかな。そもそも5Gのタイトルがない」という答えばかりでした。ドコモのブース以外では5Gの名前が出たという話は聞かず(少なくとも目立たず)、一番わかりやすいのはビジネスデーの基調講演ぐらいなものです。そもそも5Gについて現段階で詳細な発表はありません。

 もちろん、ゲームと5Gに詳しい記者からすると、基調講演では5Gへの期待、可能性は感じ取れたそうです。ですが、5Gを知らない読者へ向けて情報を発信する新聞やテレビの記者は、そうはいきません。5Gの高性能を生かした具体的なゲームがなくて本当に困ったでしょう。おまけに5Gは通信規格なので、新型ゲーム機のような一見して分かる写真も撮れません。「今年は(記事にするのが)キツイ」という記者のボヤキは当然ですね。それでもeスポーツなどとの“合わせ技”で対応するのはさすがです。

 そして、各社の記事が5G一色になるなど、こだわったことも当然です。ゲームショウのような巨大なイベントでは、記者は取材のポイントについて事前に当たりをつけます。そうすると「eスポーツ」や「グローバル化」などキーワードがいくつか出るわけですが、それらは既存のネタなので価値が相当に落ちます。その中で最も話題性があり、圧倒的に強いのは5Gなのです。だから5Gが記事になるのです。

 さらに5Gは、来年のゲームショウでは既にサービスインをしている可能性がありますから、今回は“押し”の理想的なタイミングなのですね。ところが5Gの詳細な発表がまだなので、ゲーム会社はどうしようもないのです。

 来場者ならお分かりとは思いますが、今回の見どころは「ファイナルファンタジーVII リメイク」や「新サクラ大戦」、ゲームクリエーターの小島秀夫さんの新作「デス・ストランディング」などで、出展関係者は口をそろえて「コンテンツが充実していた」と振り返っていました。そうなるとテレビ朝日などの見出しが、今回の実態に一番近いと言えるのではないでしょうか。

・東京ゲームショウ2019開幕 注目新作ゲームが目白押し!(テレビ朝日/グッド!モーニング)

 ただし、そう単純ではありません。テレビであれば、最先端ゲームの映像を見せて華やかさをアピールできますから、これはありですよね。しかし、ゲームショウの解説をしたい新聞記事は、映像のパワーは使えないのでどうにもなりません。5Gは、我々の生活を一変させる可能性のある大きな話なのは確かですから、記者がここに取材の当たりをつけるのは当然です。ただ現地に足を運ぶと、(人によっては)5Gの息吹は感じるものの、肝心の5Gならではのゲームが見当たらず、「話が違う」と苦労したのが推察できます。私も、約20年間の取材の記憶をさかのぼっても、ここまで“記者泣かせ”だったゲームショウは心当たりがありません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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