Yahoo!ニュース

A代表初選出の佐野海舟が弟・航大から受ける刺激。兄が見せる背中。

河治良幸スポーツジャーナリスト

「ボールを奪う部分が一番だと思っています」

初招集となったA代表でも、鹿島アントラーズでやってきたことを出していきたいという佐野海舟に特にどこを出したいか聞くと、そう返ってきた。”名は体を表す”と言うが、まさしくボール回収の能力に優れた選手であることは、J2のFC町田ゼルビアにいた頃から示していた。鹿島ではJ1のステージで、さらにバージョンアップされたことが、主力定着につながったと言える。

「自分はどちらかと言えば守備的な選手なので。ボールを奪うだったり、そこから攻撃に繋げるプレーは意識してやってきましたし、その上で、中盤で剥がすドリブルだったりは意識してやってきました」

ボールホルダーから奪い取るタックルはもちろんのこと、鮮やかな読みで縦パスをカットするなど、中盤でマイボールにして行く。そうしたスペシャリティに加えて、鹿島ではボールを奪った先のプレーにも磨きをかけており、岩政大樹監督が掲げる”思考のあるサッカー”の中でも特別な働きを見せてきた。岩政監督はJリーグのシーズンが始まる前後から佐野のポテンシャルを高く評価しており、具体的に代表候補として期待を口にすることもあった。

佐野は岡山県の出身で、地元の街クラブであるFCヴィパルテから、中国地方で屈指のサッカー強豪校である、米子北高校に進む。1年生の頃からレギュラーを掴み、全国高校サッカー選手権にも出場したが、アンダーカテゴリーの代表に選ばれたことは一度もない。ある意味、選手権を目標にする高校生として、のびのびとサッカーをしてきた先に、プロの世界があったようだ。

それでも”幕末の志士”である勝海舟にちなんで名付けられたという佐野にとって、W杯は憧れの舞台だという。「サッカー始めた理由もやっぱりW杯を観てだったり、日本代表というのがあった」という左野。代表の取材現場では「あんまり人のことを意識してないというか。自分のやるべきことをやってきた」と語っていたが、目標にしてきたのはフランス代表のエンゴロ・カンテだという。

現在サウジアラビアのアル・イテハドに所属するが、レスター・シティでは岡崎慎司とともに、プレミアリーグ優勝。その翌シーズンにチェルシーでも優勝。2018年のW杯でフランスの世界制覇を支えた選手だ。176cmの佐野より、はるかに小柄なMFが驚異的なボール奪取で中盤を支配し、派手ではないが素早いパスで攻撃のスイッチを入れる。確かに国内外の日本人選手の誰よりも”カンテっぽい”プレーをしているのが、佐野海舟であることは間違いない。

そんな佐野には刺激しあう弟がいる。今年U-20W杯に出場し、ファジアーノ岡山からオランダのNECナイメヘンに移籍した佐野航大だ。兄・海舟のことを尊敬しているという航大の活躍は海舟も大きな刺激にしているという。これまでアンダーカテゴリーの代表に選ばれ続けてきた弟が大舞台に挑む前に、佐野は「自分ができなかった経験をぜひしてきてほしい」と語っていた。今回A代表に選ばれたことで、兄として背中を見せていくことができるはず。

実は昨シーズン、6月5日の大分トリニータ戦を最後に欠場し、チームを離脱していた佐野海舟。その時点で町田からは「疲労性の腰痛」により実家で静養していることが伝えられていたが、鹿島移籍のリリースに伴うメッセージで、佐野は「腰痛もありましたが、オーバートレーニング症候群という病気になっていました」と告白した。

「このことを公表するかはとても迷いましたが、公表しようと思った理由は、たくさんの人達のおかげで、自分は戻ってくることができたからです」

そのリリースから少し遡る2022年9月4日のJ2第34節、岡山vs町田でゴールを決めた航大が指で「6」を示すパフォーマンスをしたことがあった。それは当時、町田で海舟が付けていた背番号の数字だった。多くの人たちの支えで今があるという佐野だが、その中でも大きな存在が弟だったことは想像に難くない。

「(’航大に)刺激は常にもらってますし、自分も与えないといけないと思ってるんで。本当に将来的に2人で選ばればいいかなと思いますけど。本当に2人ともコツコツと自分のやるべきことっていうのは日々やるだけだと思っています」

兄弟で世界へ。何か、漫画のキャッチフレーズのようだが、まずは兄がA代表の舞台で、しっかりと存在を示して行くことができるか。「誰もが選ばれるわけではないので、選ばれた以上は本当に自分のプレーだったり、存在というのを残していきたい」と語る佐野の”ボール回収”に注目してもらいたい。

写真・筆者撮影

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

河治良幸の最近の記事