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J1後半戦で勝利の鍵を握る戦術マスター7(優勝争い編)

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロスポーツ)

ついに折り返しを迎えた2022年のJ1リーグ。ここから注目するべきチームの”戦術マスター”は誰なのか。「優勝争い」と「残留争い」をテーマに筆者の視点で7人を厳選します。まずは「優勝争い」から。

大島僚太(川崎フロンターレ)

中盤で時間を作り、アクセントにもなる。中盤のどこのポジションで出ても効果的なプレーができる選手だが、4ー3ー3のアンカーに入ると、相手はそこになかなかプレッシャーをかけることができず、後手の守備に回らざるを得なくなる。彼がいることで、チームの攻撃は川の流れのように滑らかになるのだ。そして見た目より守備の強度が高く、相手に中央からチャンスの起点を作らせない。何より遠目からでも前方に決定的なパスが出せる。度重なる怪我がなければ、現在でも日本代表の主軸にいておかしくないタレントであり、本来ここで取り上げる必要もないだろう。しかし、中断前のリーグ戦は3試合しかでていない事実も考えると、改めて三連覇のキーマンとして推しておきたい。

水沼宏太(横浜F・マリノス)

マリノスの頼れるキャプテンといえば喜田拓也だが、試合の流れを臨機応変に読みながら効果的なプレーを注入する水沼は攻撃面の戦術マスターであり、常に得点の鍵を握る選手だ。正確な右足のキックは流れでもセットプレーでも相手の脅威となるが、それも崩しのプロセスの延長線上にある。いやらしい立ち位置で相手のディフェンスを惑わせて、状況に応じて大外のスペースを突き、インサイドのギャップに潜って行く。そうした水沼の動きがあるからこそ、得点を量産中の西村拓真や逆サイドのエウベルが効いてくるのだ。昨シーズンはスーパーサブ的な存在だったが、今シーズンはすでに9試合で先発している。どちらにしても相手にとって危険極まりない存在だ。

和泉竜司(鹿島アントラーズ)

バイプレーヤーという表現が適切かは分からないが、個性的なタレントが多い鹿島で、彼がピッチにいるのといないとでは輝きが変わってくる。しかも、現在の鹿島で大きな課題になっているリスク管理も彼の存在が最小限に止めているのは間違いないだろう。ボランチであれば中盤やサイドバックの危険なスペースをケアし、攻撃的なポジションなら相手にカウンターの縦パスを入れさせない。それでいて3アシストを記録するなど、決定的なシーンにもしっかりと絡んでいる。レネ・ヴァイラー監督の1年目から厚い信頼を得ている和泉。まだチーム作りの途上にある鹿島だが、そのプロセスでもちろん、チームの完成度が上がってくるほど重要度は増して行くかもしれない。

野津田岳人(サンフレッチェ広島)

スキッベ監督のもとで躍動する広島は前回王者の川崎や復権を狙うマリノスにとっても非常に不気味な存在だろう。その広島でキーマンと言ったら正直、誰か一人をあげるのは難しい。ただ、戦術的な中心は野津田だと断言できる。アンダー代表に選ばれていた頃はファンタジスタ的な色が強かったが、ある種のひ弱さも見られた。しかし、新潟、清水、仙台、甲府と期限付き移籍を繰り返し、現在は攻守両面に強度をもたらしている。特にトランジションでの切り替えが素早く、しかも的確にファーストプレーができることで、周囲の選手も迷いなく上下動できる。シーズン途中からは1ボランチを任されたことで、よりオーガナイザーとしての才能が開花した感もある。名古屋戦の直接FKや福岡戦のスーパーミドルなど、決定的なプレーは目を見張るが、中盤から攻守を支える役割こそが彼のベースだ。

戸嶋祥郎(柏レイソル)

非凡なテクニックを備えながら、気の利いた動きでチームのためにつなぎ役やサポート役を買って出る。ゴールやアシストを量産するタイプではないが、ボールに触るか触らないかにかかわらず、大半のゴールシーンに絡んでいる。中盤でボールを奪う場合も直接カットするだけでなく、コースを限定して味方に拾わせるなど、よく観ていないと分からない貢献が多い。DAZNなど映像であっても目の肥えたファンなら彼の効果的な動きはある程度分かるはずだが、やはりスタジアムで生観戦した時の方が良く見える象徴的な選手の一人だ。

奥埜博亮(セレッソ大阪)

誰が監督でもパフォーマンスがほとんど落ちず、戦術的にフィットしてしまう。複数のポジションをこなすマルチロールでありながら、どこでもスペシャリストさながらのプレーができる。その意味ではユーティリティーというよりオールマイティという表現の方が適しているかもしれない。さらにすごいのは、試合の流れに応じて黒子にも主役にもなれること。現在セレッソの中心は間違いなく清武弘嗣だが、時に影のように支え、また時に清武にも勝るとも劣らず輝く奥埜の働きは上位躍進の鍵というより生命線かもしれない。

朴一圭(サガン鳥栖)

まさしく後方の”戦術マスター”であり、後方からチーム全体を統率しながら幅広くカバーしている。攻撃でもほとんどリベロのようなポジショニングでビルドアップに参加し、ボールを触っていない時でも後から指示を出している。試合中のアウトオブプレーで川井健太監督から声をかけられるのはほぼ決まって朴一圭であり、ピッチ上のゲームコントロールでいかに信頼されているかが分かる。2019年にマリノスで経験したJ1優勝の基準を大事にしており、チームが成長するためには嫌われ役になることも全く厭わない。財政的な事情もあり、選手の入れ替わりが激しいチームではあるが、彼がいる限り軸がブレることはないだろう。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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