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代表監督も注目?Jリーグ序盤戦のブレイクセブン

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

Jリーグは長い中断期間を挟んでJ1、J2それぞれ7節、6月27日に開幕したJ3が6節を消化しました。ここまで大きく評価を高めたと見られる7人を全カテゴリーから筆者の視点で選出しました。

山根視来(川崎フロンターレ)

再開後に快進撃を続ける川崎フロンターレを右サイドから支えるのが湘南ベルマーレから加入した山根です。もともと運動量と球際の強さには定評がありましたが、川崎の攻撃的なスタイルを柔軟なポジショニングと状況判断で支えながら、パスワークでの効果も高めています。4ー3ー3を導入している中でも右サイドは家長昭博が右ウィングに入る場合と、そのほかの選手ではポジショニングが異なります。

家長の場合は基本的にインサイドでボールを受けることが多く、山根は家長と縦に重ならないよう大外にポジションを取りながら、インサイドハーフの脇坂泰斗などと良い距離感を作ってビルドアップをサポートしながら、タイミングを見て追い越すプレーも見せます。一方で旗手怜央などが右ウィングの場合はワイドに張ったポジションから仕掛けに参加することが多くなるので、山根はインサイドを意識したポジションを取るなど、組み合わせや状況に応じて柔軟に右後方を支えています。

ここまで20得点あげている一方で6失点しかしていないのは”右のハンドル”とも言える山根の攻守にわたるサポートが大きく、またボールを失った直後の守備でもかなり貢献しています。過密日程が進んでいくとハードワークの部分で心配なところはありますが、シーズン継続していければチームの成績はもちろん、年間のベスト11や日本代表も十分可能性のある選手です。

稲垣祥(名古屋グランパス)

昨シーズン途中に就任したフィッカデンティ監督が掲げるハイプレスと素早いサイドアタックを融合したスタイルを中盤からコントロールしているのがサンフレッチェ広島から加入した稲垣祥です。もともとボール奪取能力に定評はありましたが、シンプルにボールを配球しながら同時にリスクを管理するバランスワークにおいて特筆に値する存在感を見せています。

存在感と言っても司令塔の阿部浩之やサイドの仕掛け人である相馬勇紀ほど目立つわけではありませんが、試合を線で見れば稲垣の的確なポジショニング、ボールを失ってもすぐ回収できるカバー範囲の広さが名古屋の選手たちが常に矢印をゴール方向に向けられるベースになっているようです。

広島の時に比べて目を見張るのはボールを持つ時間帯での安定感です。ボールの位置、相手のプレスに応じてポジショニングを変えながらボールを捌いてワイドに展開し、効率よくサイドアタックを引き出すプレーは派手さと無縁であるものの、非常に効果的です。今シーズンの名古屋はどこのポジションも複数の選手がおり、ボランチもジョアン・シミッチと米本拓司という主力級の実力者が代わる代わる稲垣の相棒を務めていますが、もし稲垣を欠くと安定感の部分でかなり難しくなることが想定されるので、適度に負担を軽減しながら、シーズン通して中盤の軸になれるかが名古屋の最終順位にも直結しそうです。

神谷優太(柏レイソル)

J2の愛媛FCから加入した万能アタッカーは2月のリーグ開幕戦で負傷した瀬川祐輔に代わり、精力的な仕掛けや飛び出してアピール。再開後の2試合も途中出場ながら横浜FC戦ではオルンガがキープしたボールをタイミングよく受けて呉屋大翔の同点ゴールをアシストするなど、チームが連敗を喫する中で気を吐きました。

圧巻なパフーマンスを見せたのは4−0で勝利した浦和レッズ戦で、三丸拡の左からのクロスをうまく折り返して仲間隼斗の追加点をアシストすると、さらにカウンターからのドリブル突破でシュートに持ち込むスーパーゴールで勝負を決めました。

セットプレーのキッカーとしても優れる神谷はここまで1得点4アシスト。5ー1と勝利したベガルタ仙台戦で負傷交代を強いられたことは気になりますが、もともとボランチもこなす中盤のスペシャリストが愛媛でFWを経験し、柏ではサイドでも役割を果たすなど、もともと非凡なセンスをうまく組み込めており、もし今年開催ならほぼノーチャンスだった東京五輪も森保一監督の視野に入る選手になってきたと思います。

丸橋祐介(セレッソ大阪)

2009年に山口蛍(ヴィッセル神戸)とともにアカデミーから昇格し、在籍11シーズン目になる丸橋祐介は左足の精度に定評があり、これまでも高い実力を示してきましたが、ほとんどタイミング良のい攻撃参加からのクロスによるものでした。しかし、昨シーズンから指揮をとるロティーナ監督のもとで攻守のポジショニングを再構築して、ビルドアップからチャンスメーク、守備へのトランジションなど、まるで別人のように総合的な貢献力を高めています。

右サイドの松田陸が起点になっているシーンでも左側で幅を取りながら相手の守備を引きつけ、二次攻撃にインサイドで絡むなど、プレーの幅を広げており、チームの実質的な司令塔である清武弘嗣との左の連携も見所があります。ここまで1得点2アシストを決めていますが、それ以上に効果的な働きをしていると評価できます。

本間至恩(アルビレックス新潟)

新潟のホンマと言えば生え抜きボランチとして一時代を築いた本間勲と今年6月に閉館となった「ホンマ健康ランド」ですが、アカデミー育ちのテクニシャンが新たな「ホンマ伝説」を新潟の地に築こうとしています。ここまで途中出場がメインになっていますが、左サイドから広範囲で違いを作り出し、2得点1アシスト。水戸ホーリーホック戦ではFWファビオのパスから豪快なスーパーゴールを決めてJ2ファンの話題を集めました。

まだまだビルドアップの関わり方や守備の貢献など、戦術家のアルベルト監督のもとで本当の意味での主力に定着するためにはステップを踏む必要がありそうですが、抜群のセンスに疑いの余地はなく、ここまで4得点3アシストを記録している新外国人ファビオとともに新潟の躍進を牽引していく存在になる期待はかなり高まっていると言えます。

毎熊晟矢(V・ファーレン長崎)

桃山学院大学から加入したルーキーは、ここまで6勝1分でJ2の首位をひた走る長崎において、FW登録ながら再開後の第2節から右サイドバックのスタメンに定着。高い機動力と後半になってもほとんど落ちない攻守のインテンシティーでチームにダイナミズムをもたらしています。競り合いにもめっぽう強く、第5節の琉球戦ではFKからディフェンスを制してプロ初ゴールを決めました。

長崎はベテラン、中堅、若手がうまくミックスされたチームですが、若手の主力として活力を与えながら、戦術的なタスクもしっかりとこなして、接戦に強い長崎をお通ししています。サイドバックとしてはサガン鳥栖のレギュラーに定着している森下龍矢、FC東京で左右のサイドバックをこなす中村帆高と大卒ルーキーのタレントの台頭が目立っていますが、長崎がこのままJ2の首位を走れば世間の注目度も大きく上がるはずです。

千田海人(ブラウブリッツ秋田)

6戦全勝でJ3を独走中の”青い稲妻”ことブラウブリッツ秋田の最終ラインで岩盤のごとく相手アタッカーに立ちはだかっているのがセンターバックの千田海人です。気鋭の吉田謙監督が率いる秋田は多彩な攻撃が目を引きますが、ここまで6試合連続で無失点という驚異的な結果を支えるのは組織的な守備、それを後ろで支えるセンターバックと守護神・田中雄大の存在があるから。

特に千田は空中戦にめっぽう強く、目の前のデュエルにまず負けない安心感が、周囲の積極的なプレーを促しているように見えます。セットプレー時の得点力もあり、昨年の鳥取戦では味方のFKが跳ね返されたボールにファーで豪快にヘッドで合わせ、相手の頭上から決めたゴールがありました。

ベガルタ仙台のアカデミーから神奈川大学を経て秋田に加入。4年目のシーズンとなりますが、持ち前の身体能力に統率力も加わり、J3レベルをはるかに凌駕する能力を示しています。ここから”青い稲妻”の躍進とともに注目してほしい選手の一人です。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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