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開幕戦の敗戦にも横浜F・マリノス松原健が悲観しない理由。”対策されても上回る”を示した1ゴールの重み

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

J1王者の横浜F・マリノスはホームの日産スタジアムで行われた開幕戦で、ガンバ大阪に1−2で敗れました。

「守備もそうですし攻撃もマリノスをどう攻略するのか」と宮本恒靖監督が語るガンバ大阪の”マリノス対策”はJ1王者の攻撃リズムを崩し、”ミス”と”ウィークポイント”を突く形から前半で2点をもぎ取りました。

ハードワークの疲労も出てくる後半はガンバも前から追えなくなり、かなりマリノスが押し込む時間が長くなりましたが、後半29分にマルコス・ジュニオールが鮮やかな左足のシュートで1点を返すも、結局ガンバが最後まで粘り切って勝利を飾りました。

ガンバにとっては前回のホーム開幕戦で敗れた相手に雪辱を果たし、タイトル獲得を目指す今シーズンに自信を持たせる勝利となった一方で、前回王者のマリノスにとってはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)も並行して戦う中で、二連覇が一筋縄ではいかないことを印象付けました。

しかし、マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督はもちろん、選手たちも下を向いている訳ではありません。自分たちのスタイルを継続しながら、いかに相手の対策を上回って行くべきか。そこが1つテーマになるのは分かっていたことであり、逃げずに向き合って行く先に新たな高みが待っているというビジョンは勝利できなかった開幕戦からも感じ取ることができました。

マルコス・ジュニオールのゴールはそれまで集中して守っていたガンバが、長く自陣に押し込まれる状況で、中央にエアポケットを空けてしまったようにも見えますが、マリノス側から見れば、それは偶然ではありませんでした。

この試合、ガンバ大阪はオ・ジェソク、三浦弦太、キム・ヨングォン、藤春廣輝を4バック気味に並べ、できるだけ高い位置からプレッシャーをかけながら、自陣にリトリートする場合は右ウィングの小野瀬康介を最終ラインまで下げて5バックにすることで、アウトサイドを防衛しながら同時にマリノスが得意としているインサイドの”ハーフスペース”を攻略させないディフェンスを敷いていました。

つまり右サイドは可変式である一方で、左サイドは基本的に俊足の藤春が昨年のJリーグMVPである仲川輝人を徹底マークし、前方の倉田秋が松原健の侵入してくるインサイドを警戒しながら、アウトサイドで持たれたらスライドして付くという人を意識したディフェンスをしており、そのサイドからほとんど攻撃を機能させていませんでした。

右のアウトサイドでボールを持った松原から裏に出したボールも「僕自身は仲川選手を止めることに集中していた」と語る藤春が粘り強く対応して、裏抜けを許すことなく封じ込めていました。

そうした状況で前半は明らかに攻めあぐんでいたマリノスの右サイドですが、松原は「一番は自分とテルのところで突破できるとビッグチャンスになりますし、後半にはそれが出た場面もあった」と振り返ります。

「サイドばかり狙っていると、今日の大半を占めるように相手のディフェンスに引っかかるシーンが増えるので、そこはもうちょっと自分とテルだけじゃなくてキー坊(喜田拓也)、マルコス(・ジュニオール)、(オナイウ)阿道だったり距離の近い選手とうまく話し合いながら、バリエーションを増やして行けたら」

そう課題を語る松原でしたが、この試合の中で1つ大きな変化が起きていました。仲川を藤春が、倉田がインサイドの松原をケアする状況をうまく利用するように、右センターバックのチアゴ・マルチンスがアウトサイドからガンバ陣内の高い位置までポジションを上げて攻撃に絡んでいたことです。

万全の準備をして、ほぼ完璧にマリノスを押さえ込んでいたガンバが後半の途中からかなり苦しい状況になった理由は疲労だけではありませんでした。後半29分のゴールも実はこのチアゴ・マルチンスの攻め上がりが大きく関わっていました。

右サイドからのクロスボールが中央で跳ね返され、左サイドのセカンドボールを拾った左サイドバックの高野遼がボランチの扇原貴宏につなぎ、扇原はファーサイドにハイボールを送りますが、再びガンバのディフェンスにはじき返されます。

そのセカンドボールを右サイドの高い位置で拾ったのは松原が空けたスペースに進出していたチアゴ・マルチンスでした。チアゴはそこから斜め右前の仲川にパスを付け、ディフェンスを引き付けた仲川からリターンを受けると、戻り気味にキープして中央の扇原にパスを通します。

バイタルエリアの手前で前を向いた扇原は、ガンバのボランチである井手口陽介と遠藤保仁が扇原に遅れて詰めることで空いたエアポケットに侵入したマルコス・ジュニオールにパス。ペナルティエリア内まで吸収されたディフェンスラインの手前でボールをコントロールすると、鋭いターンでシュートに持ち込みました。

「僕が中に入ることで倉田選手を引きつれば、チアゴがボールを持って上がれるので、結局は数的優位に攻撃できたりとか、相手がそういう対策をした時には自分たちにメリットが働くようにやれるというところも示せたんじゃないかと思います」

そう語る松原。開幕戦でのガンバ大阪の戦い方にヒントを得て、これから先の対戦相手も”マリノス対策”を立てて挑んでくるでしょう。しかし、だからこそ得られるアドバンテージもある。それを得られるかどうかは結局、自分たちが構築してきたサッカーに対する信念と相手を見ながら上回って行くチームのビジョン、その共有に他なりません。

一筋縄ではいかない。しかし、困難はあっても不可能ではない。横浜F・マリノスがリーグ二連覇を果たすのか、残る17クラブからJ1王者が誕生するのか。様々な思いがぶつかるJリーグ2020が幕を開けました。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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