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ただの連覇はない。プレミアリーグU-18王者の青森山田が全国高校サッカー選手権を制覇する意味

河治良幸スポーツジャーナリスト
プレミアリーグU-18のチャンピオンシップ優勝を喜ぶ青森山田の選手たち

第98回全国高校サッカー選手権は青森山田高等学校と静岡学園高等学校が1月13日に行われる決勝に進んだ。青森山田は前回王者として連覇を目指す形になるが、青森山田が優勝することは選手権の連覇だけではない意味を持つ。

都道府県大会を勝ち上がった全国の代表が一堂に会し、高校の王者を決める大会として「選手権」はJリーグが創設されるよりはるか前から世間の注目を集め、普段サッカーを観ない人でも注目する風物詩として、そしてサッカーに関わる育成年代の選手、指導者にとっての憧れとして日本サッカーに果たして来た貢献は非常に大きい。

そして現在も日本のサッカーファンが注目する大会であり続けるが、育成年代における競技としての意味合いが大きく変わって来ていることも認識されてしかるべきだ。

U-18年代(第二種)から新卒でプロになる選手の割合に関してJリーグの下部組織が主流になって来ている事実もあるが、それ以上に認識が広まって欲しいのはこの年代においてもリーグ戦が整備されており、ほぼ年間を通して行われていることだ。

現在は育成年代に関わる指導者や熱心なサッカーファンには当たり前になっていると思うが、このリーグ戦が整備されるまで多くのハードルがあり、それらを乗り越えて現在がある。

それまで高校もクラブもトーナメント方式か、夏休みや冬休みに短期集中で行われる大会が公式的な実戦強化の場だった。そこからリーグ戦の重要性がさけばれ、一部の地域で有志が非公式のリーグ戦をスタートしたところから、議論やテスト的な取り組みを重ねて、徐々に全国的な規模で整備されていくこととなった。

前身の高円宮杯プリンスリーグから発展的に改革される形で、U-18年代(第二種)の最高峰のリーグ戦として「高円宮杯JFA U-18プレミアリーグ」が正式にスタートしたのが2011年。それに伴い全国を北海道、東北、北信越、関東、東海、関西、四国、中国、九州の9地域に分けたプリンスリーグ、さらに都道府県の1部リーグ、下部リーグといったリーグ戦が整備された。

その最高峰であるプレミアリーグは全国からの参加20チームを東西それぞれ10チームに分けてホーム&アウェーの勝ち点で最終順位を競う。そして東西の王者が日本一を決める舞台がチャンピオンシップだ。今年度はEAST王者の青森山田とWEST王者の名古屋グランパスU-18が12月15日にチャンピオンシップを戦い、接戦の末に青森山田が3−2で勝利し、3年ぶりの優勝を飾った。

つまり今年度のU-18年代のチャンピオンは青森山田である。もちろんJユースと呼ばれるJリーグのU-18チームも含めたチャンピオンと言う意味合いもあるが、より大きいのは年間を通して戦って来たリーグ戦のチャンピオンであると言うことだ。

さらに言えば、青森山田はセカンドチームが実質的な2部リーグにあたるプリンスリーグ東北に参加しており、選手権の参加チームである仙台育英(4位)などを抑えて優勝している。

2011年からプレミアリーグに参加し続けJユースはもちろん、高校の強豪チームとリーグ戦でしのぎを削って来た青森山田の黒田剛監督はリーグ戦王者としての強い自負を持って、今回の選手権に臨んで来ているようだ。

そうした中でプレミアリーグの参加チームである市立船橋高校(プレミアEAST5位)と尚志高校(プレミアEAST10位)が揃って2回戦でPK戦に敗れて早々に姿を消した。なおプレミアWESTには東福岡高校と大津高校が参加していたが、県大会で敗れて選手権の出場はかなわなかった。

トーナメント方式の選手権で”プレミア勢”では青森山田のみがベスト16に勝ち残り、そこから決勝まで進んで来たわけだ。一方の静岡学園もプリンスリーグ東海で2位の結果を残している強豪であり、間違いなく決勝にふさわしいチームではあるが、U-18年代のチャンピオンが選手権を制する意味合いはまた違ったものがある。

全国の約4000校が都道府県の大会から参加し、その王者を決める選手権を優勝することそのもにも大きな価値はあるが、リーグ戦の王者がトーナメント方式の大会でも強さを示すことで、リーグ戦の価値を知らしめる。依然としてこの年代で最も注目される選手権を制することは選手権の連覇、そしてリーグ戦との”二冠”と言う表現だけでも言い表せない価値がある。

勝負は始まってみないと分からないがリーグ戦も王者として、プレミアリーグU-18の看板を背負う青森山田の戦いに注目したい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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