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J1優勝の立役者・仲川輝人が語った真実。”横浜F・マリノスのスタイル”をやり抜くために大事なこと

河治良幸スポーツジャーナリスト
”アタッキグサード・フットボール”もハードワークや球際の強さが大事だと仲川は語る(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

2019年のJ1リーグは横浜F・マリノスが最終節でFC東京との”直接対決”を3−0で勝利し、見事な優勝で幕を閉じた。

もともと4点差で負けなければ優勝が決まったが、高い位置からボールを奪いにくるFC東京に対して序盤こそ苦しんだものの、大きなピンチを切り抜け、ティーラトンのミドルシュートが相手のブロックに当たって軌道が変わるゴールで優位を広げると、いつものF・マリノスらしい、しっかりと幅をとったパスワークでFC東京を翻弄し、前半のうちに鮮やかな中央突破からエリキのゴールで点差を広げる。

後半にはFC東京のロングカウンターに対して、ペナルティエリアの外に出たGK朴一圭が永井謙佑を倒して退場するハプニングもあったが、10人という状況から途中出場の遠藤渓太が得意の左サイド突破からダメ押しの3点目を叩き込んだ。ポステコグルー監督が「10人になると多くのチームは守りに入ってしまうが3点目を取れましたし、メンタルが強く、そういう選手たちが誇らしい」と振り返るようにF・マリノスのいかなる状況でもゴールを目指す姿勢を象徴するゴールで締めくくった。

「やり続けることを自分はやってきた。”何を”というよりは難しければ難しいほど、どれだけのことを信じてやるか。お互いをリスペクトしてホームでもアウェーでもやっていく。順位が1位だろうが2位だろうが、最後まで自分たちのサッカーをやり続ける。選手にはうまく行かなかったら自分が責任を取ると言ってきた。自由にプレッシャーを感じずにやってほしいと思った。日々の成長が本当に見られたし、失点したらどうしよう、退場したらどうしよう、けが人が出たらどうしようと思っていたら結果はついてこなかった」

そう語るポステコグルー監督が就任した1年目は”アタッキング・フットボール”を前面に押し出し観るものを驚かせたが、苦しい残留争いに巻き込まれ批判や不安の声も多く聞かれた。それでも辛抱強く継続しながらクオリティを高め、状況に応じて選手が判断できる状況を作り上げていることは2シーズン目のベースになっているが、F・マリノスについて、あまり語られないキーワードを口にしたのは15得点9アシストで優勝の立役者となった仲川輝人だ。

「やることは決まっている。そこをブレずにやってきましたが、ハードワークができていない試合はやっぱり良い結果に繋がってなかった。ここ10試合、11試合はみんながハードワークをして、いい結果に繋がっている。(FC東京戦でも)自分としてはしっかり守備でハードワークをやってから攻撃に行く気持ちでした」

FC東京戦も立ち上がりは高い位置からアグレッシブに来る相手に対して攻守の切り替わりが激しくなったが、そこで選手たちがハードワークしながらデュエル(1対1やボールをめぐる競り合い)にも負けなかったことが、その時間帯を乗り切って先制点を奪う流れに自分たちを導いた。

「自分たちのスタイル、マリノスはボールを保持する、ポゼッション率が高いですけど、フィフティフィフティのボールでどっちに転ぶかで、マイボールになるか相手ボールになるかが生命線だと思う。だから球際でも負けないようにしていますし、それもハードワークができているからこそ、自分たちのボールにできるということにも繋がってくる。もっともっとやらなきゃいけないこともあるし、まだまだということもあります」

そう語る仲川はジュニア年代から川崎フロンターレのアカデミーで育ち、専修大学から2015年に横浜F・マリノスに加入。しかし、2シーズン目の夏に出場機会を求めてJ2のFC町田ゼルビアに期限付きで移籍し、一度はF・マリノスに戻るもアビスパ福岡にレンタルされ、ポステコグルー監督が就任した昨シーズンの途中からようやく主力に定着した。

「長かったですね。マリノスに入って怪我して、自分もチームとしてもなかなか上にいけなかったこともあったりした。去年からボスになって、このサッカーを取り入れて1年目は苦しみましたけど、2年目でみんなの努力が結果になったかなと思うので、自分自身も成長させてもらったし、チームとしても成長した1年でした」

そう語る仲川だが「フロンターレのことは忘れちゃいけないというか、育ててもらったクラブでもあるので、そこはしっかり感謝の気持ちを持ちながら、今後も対戦して行きたい」と語る。その川崎フロンターレと言えば風間八宏前監督が植え付けた「止める・蹴る・外す」を駆使する攻撃的なスタイルのイメージが強い。しかし、仲川がアカデミーに在籍していたのは2010年までで”風間サッカー”が川崎に導入される前だった。

「自分がユース(川崎フロンターレU-18)を卒業してから”止める・蹴る”とか風間さんのサッカーがユースに下がってきた印象もあります。自分がユースの時は走るとか、ハードワークのことについてはすごく言われたので、もうちょっと遅くユースにいたかったというか。そうしたらもっと”止める・蹴る”とか技術的な部分も上がったのかなと思います。でも球際で負けないとかハードワークするとか走り負けないとか、そういうところを育ててくれたのはフロンターレだった」

ちょうど仲川がF・マリノスで苦しい2年目のシーズンを過ごしていた時に、町田から手を差し伸べたのがU-18当時に指導にあたっていた元日本代表DFの相馬直樹監督だったというのも深い縁を感じるが、そうしたベースを持つ仲川が現在のF・マリノスを牽引する活躍を見せているのはあまり語られないもう1つのF・マリノスの強みを象徴している。

シーズン開幕前、ポステコグルー監督はこんな質問をぶつけたことがあった。

ーーボスはオーストラリア代表でも攻撃的なサッカーを見せていましたが、同時に戦うサッカーでもありました。2015年アジアカップの決勝では韓国との激しい戦いを制して優勝していますし、コンフェデレーションズカップでドイツを追い詰めた試合は忘れられません。そうした戦うというところを2年目のマリノスにも求めて行きたいですか?

「おっしゃるようにサッカーの大事な要素として戦う姿勢やファイティングスピリットというのがあると思う。サッカーが良くても気持ちの部分が強くなければ、勝ちにいけるゲームも勝ちにいけなかったりします。自分のやり方にプラス、選手たちがメンタル的に強くなっていければ、そのバランスがうまく行くことで試合の結果が付いてくると思います。特に今年はそういう選手たちが揃っていますから楽しみです」

今になって振り返れば実感が湧いてくるが、世間ではポジショナルプレーをベースとした”アタッキング・フットボール”が注目され、ポステコグルー監督も継続的にそれをやり続けることを強調し続けてきたが、そこにはハードワークや戦う姿勢が伴っていることを軽視するべきではないだろう。そして来シーズンはアジアの戦いが加わり、厳しいスケジュールの中で、Jリーグのどのクラブも”打倒マリノス”の気持ちで挑んでくる。

そこから二連覇、アジアでの躍進を果たすことができるかはクオリティの向上にプラス、”アタッキング・フットボール”を影で支えるハードワークとファイティングスピリットにかかっている。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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