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組み分けが決定。UEFAチャンピオンズリーグ2019−20のグループリーグを大展望

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

8月29日(欧州時間)にUEFAチャンピオンズリーグの組み合わせ抽選会が行われました。日本人では長友佑都を擁するトルコのガラタサライがパリ・サンジェルマン、レアル・マドリーと同じグループAに入り、リバプールとナポリが争うグループEでは伊東純也のゲンクと南野拓実、奥川雅也のザルツブルクが同組となっています。

Draw results(UEFA.com)

【グループA】

パリ・サンジェルマン(フランス)

レアル・マドリー(スペイン)

クラブ・ブルッヘ(ベルギー)

ガラタサライ(トルコ)

7シーズン連続で決勝トーナメントに進出しているパリ・サンジェルマンと過去13回の優勝を誇るレアル・マドリーの”2強”であることは誰が見ても明らかですが、クラブ・ブルッヘは前回ドルトムント、アトレティコ・マドリーと引き分けるなど善戦しており、当時のメンバーが多く移籍したものの、マタ、ヴァナケン、フォルマーなどが経験を引き継いでいます。率いるのは昨季ゲンクをベルギー王者に導いたクレメント監督で、注目の指揮官が現役時代を過ごした名門を躍進に導けるか注目されます。

ガラタサライは前回ポルト、シャルケと同じグループDで3位敗退となりました。新シーズンはスタートしていますが、コロンビア代表FWファルカオの獲得が間近とも報じられており、決定力と経験値を兼ね備えた心強い新エースがチームを牽引する期待が高まります。総合力は”2強”が明らかに上ですが、レアル・マドリーはディフェンスに不安を抱えており、パリ・サンジェルマンはフランス代表FWムバッペが太ももを痛めて4週間の離脱が見込まれるなど、けが人の多さが序盤戦に響く可能性もあります。

【グループB】

バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)

トッテナム(イングランド)

オリンピアコス(ギリシャ)

ツルベナ・ズベズダ(セルビア)

ここもドイツ王者のバイエルンと前回準優勝のトッテナム首位突破を争う構図と見てほぼ間違いないですが、オリンピアコスは元フランス代表MFヴァルブエナ、モロッコ代表のベテランFWエル=アラビなど曲者が揃い、”レッドスター”ことツルベナ・ズベズダも横浜F・マリノスでプレーしたオーストラリア代表DFデゲネクを擁する堅守とアルゼンチンの新鋭ガルシアやガーナ代表FWボアキエによる速攻がハマれば、ホームでリバプールに2−0で勝利した前回のような小さな奇跡を起こすことは十分に可能です。

バイエルンとトッテナムはプレシーズンのアウディ・カップで対戦し、2−2で引き分け、PK戦でトッテナムが勝利しており、お互いおおよそ戦力を把握しているはずですが、もちろん真剣勝負となれば様相は変わって来ます。バイエルンはニコ・コヴァチ監督が就任2シーズン目を迎え、ブンデスリーガの開幕戦こそホームでヘルタ・ベルリンに引き分けたものの、第二節でシャルケに大勝して波に乗ろうとしています。バルセロナから期限付きで加入したコウチーニョがどうフィットするかも前半戦を占う鍵になりそうです。

トッテナムは前回ファイナルまで行きましたが、グループリーグは同組のバルセロナに首位を走られ、インテルと勝ち点、得失点差で並び、総得点で決勝トーナメントに進出しています。インテルに比べるとオリンピアコスもツルベナ・ズベズダも名前の格は落ちますが、地力はあるチームなので、前半戦でしっかり勝ち点を重ねて盤石に勝ち上がりたいところでしょう。

【グループC】

マンチェスター・シティ(イングランド)

シャフタール・ドネツク(ウクライナ)

ディナモ・ザグレブ(クロアチア)

アタランタ(イタリア)

優勝候補の一角とも見られるマンチェスター・シティは少しラッキーな組を引いたとも言えます。第二ポットのシャフタールとは前回も同組で、シティがアウェーで3−0、ホームで6−0と完勝しているからです。不気味なのはチャンピオンズリーグ初参戦となるアタランタでしょう。ガスペリーニ監督の敷く守備戦術を”ペップ”グアルディオラ監督のシティがどう突き崩して行くかは欧州サッカーファンにとっては垂涎のカードとなるはずです。

何れにしてもリヨン、シャフタール、ホッフェンハイムと同居した前回もほぼ危なげなく首位突破したシティが3位以下になるリスクは限りなくゼロに近く、シャフタール、ディナモ、アタランタのどこが2位抜けするかが関心事になって来るでしょう。戦力的にはブラジル代表タイソンやウクライナ代表クラスの主力をズラリと揃えるシャフタールが頭一つ抜けていますが、堅守とサパタ&ゴメスの凸凹2トップが自慢のアタランタがどこまで対抗できるか興味深い組になります。

またディナモ・ザグレブとアタランタは歴史的な因縁があり、サポーターを含めた熱い戦いが予想されます。これまでモドリッチなど多くのワールドクラスを送り出してきたディナモ・ザグレブには若きクロアチア代表の巨漢FWペトコヴィッチ、バルセロナのカンテラ出身MFオルモといったタレントがおり、オルモに関しては争奪戦も行われていると見られる中で、さらに評価を高める活躍ができるか注目です。

【グループD】

ユベントス(イタリア)

アトレティコ・マドリー(スペイン)

レバークーゼン(ドイツ)

ロコモティフ・モスクワ(ロシア)

全体の中でも最も厳しい戦いが予想されるグループの1つでしょう。実績を考えればイタリア王者のユベントスとシメオネ監督率いるアトレティコが”二強”ですが、他のグループに比べるとレバークーゼン、ロコモティフにも付け入る隙はありそうです。ユベントスはサッリ監督に代わり、セリエAの開幕戦はパルマに1−0で勝利しましたが、目指すサッカーから現時点で完成度は高いと言えず、浸透まで少し苦しむ可能性があります。加えてサッリ監督が健康状態に問題を抱えながらの指揮になるのも不安要素です。ただ、選手層はこれまでのユベントスにも無いレベルで、順調に決勝トーナメントに進めれば、いかなるチームにとっても怖い存在になりそうです。

アトレティコは過去6シーズンで5回グループリーグを突破しており、唯一の敗退となった17−18シーズンはその後に参戦したヨーロッパリーグで優勝しています。そのシーズンはローマ、チェルシーと2位以内を争うハイレベルなグループでしたが、レバークーゼンとロコモティフの戦いぶり次第ではユベントスとともに、混戦に巻き込まれる可能性はあります。ラ・リーガでは開幕戦から2試合続けて1−0の勝利とシメオネらしい結果になっています。これまで攻撃を引っ張ってきたグリエーズマンが移籍して最初のシーズンということで、期待のジョアン・フェリックスがどれだけ目覚ましい活躍ができるかにかかる部分も大きいかもしれません。

レバークーゼンは若きドイツ代表MFハヴェルツ、チリ代表MFアラベス、スピードとパワーを兼備したFWベララビといった生きの良いタレントを擁する好チームで、攻撃力に重きを置いたチームです。リズムに乗ればユベントスやアトレティコにも善戦できるはずですが、ガタッと崩れて大敗するリスクも隣り合わせです。ロコモティフはロシア代表FWスモロフ、セビージャで一時代を築いたポーランド代表MFクリホビアク、経験豊富なクロアチア代表DFチョルルカ、197cmのブラジル人GKギジェルメとセンターラインに実力者が揃い、安定感という意味ではレバークーゼンより上かもしれません。あとはホームの利を生かしてユベントスかアトレティコの一角を崩せれば光も見えてきます。

【グループE】

リバプール(イングランド)

ナポリ(イタリア)

ザルツブルク(オーストリア)

ゲンク(ベルギー)

南野拓実、奥川雅也を擁するザルツブルクと伊東純也を擁するゲンクが同組になりましたが、順当なら前回王者リバプールとナポリが勝ち上がる下馬評でしょう。リバプールとナポリと言えば前回も同じグループでパリ・サンジェルマンとともに激戦を繰り広げ、最終的にはパリが首位突破、リバプールとナポリが同勝ち点で並び、得失点差も同じでしたが、総得点でリバプールが上回り、決勝トーナメントでの快進撃につなげました。

ファン・ダイクがDFとしてバロンドールを獲得する快挙を成し遂げ、プレミアリーグでも順調に勝利を重ねるリバプールは昨シーズンよりスケールアップした感もありますが、開幕戦でブラジル代表の守護神アリソンがふくらはぎを負傷し、しばらく離脱することが確定しており、チャンピオンズリーグの開幕戦に間に合うかどうかも微妙なところです。スペイン人GKアドリアンが無難に代役を務めているとは言え、欧州の舞台に守護神の復帰が遅れるようだと、やや厳しい戦いにはなります。

ナポリは主力が数シーズンほとんど変わっておらず、百戦錬磨のアンチェロッティ監督がバランスの取れた戦術を構築しているので、大崩れする心配がほとんどありません。ザルツブルクにしてもゲンクにしても、そうしたナポリを上回るには何かブレイクスルーの要素が必要であり、南野や伊東がその役割を果たせれば、個人としても大きく評価を上げることになるでしょう。

ゲンクはリーグ優勝した昨シーズンから監督が代わった影響もあってか、開幕5試合で3勝2敗と苦しんでいますが、タンザニア代表FWサマッタが5試合5得点をあげるなど、伊東を含め面白いタレントはいるので、そうした選手がリバプールやナポリを相手にどれだけ通用するかも興味深いところです。それは南野にも言えるところで、この舞台で確かな存在感を示して、満を持してのステップアップにつなげたいところでしょう。23歳の奥川も攻撃センスの高いタレントですが、リーグ戦の第3節で足首を痛めており、順調に回復して大舞台に臨んで欲しいところです。

【グループF】

バルセロナ(スペイン)

ドルトムント(ドイツ)

インテル・ミラノ(イタリア)

スラヴィア・プラハ(チェコ)

バルセロナとドルトムントにインテルが挑む構図となりそうです。バルセロナとインテルは前回も同組で、バルセロナがホームもアウェーも勝利しました。ただ、内容的にそこまで圧倒的な差は無く、インテルがチーム力を上積みできていれば好勝負に持ち込むことは可能でしょう。その意味で大型FWロメル・ルカクの存在は大きく、インテルを再び欧州トップレベルに引き戻すキーパーソンと言えそうです。もう一人のキーパーソンはコンテ新監督。ユベントスの新たな黄金期の礎を築き、チェルシーでプレミアリーグ制覇など数々の偉業を打ち立てた名将はインテルのチーム力を間違いなく引き上げています。

インテルのネックはセリエAでのユベントスの9連覇を阻止するモチベーションも高いこと。そのユベントスほど選手層は厚くない中で、過密日程の期間にリーグ戦を優先してベストメンバーを割かざるを得ない状況も出てくるかもしれません。そうなると順当ならバルセロナとドルトムントが1位、2位で勝ち上がる序列を崩すことが難しくなってくるので、コンテ監督としても思案のしどころになるでしょう。スラヴィア・プラハは3つが格上だけに、グループリーグ突破となれば大番狂せですが、トルピショフスキー監督があまり攻撃的なスタイルに固執せず、守護神コラーシュを中心にしっかりと守って、ルーマニア代表MFスタンチュを起点とした鋭いカウンターを発揮できれば、勝機を見いだすことも可能です。

【グループG】

ゼニト・サンクトペテルブルク(ロシア)

ベンフィカ(ポルトガル)

リヨン(フランス)

ライプツィヒ(ドイツ)

もっとも展開の読みにくいグループです。現時点ではどのチームにも同等に勝ち上がる可能性があるかもしれませんが、強いて本命をあげるならリヨンです。前回グループリーグを突破した実績もさることながら、プレミア勢から引く手数多だった新鋭のFWムサ・デンベレが残留し、オランダ代表デパイ、ブルキナ=ファソ代表トラオレとの俊英3トップは危険な輝きを放っています。さらに天才的な新鋭MFトゥザールなど、2016−17シーズンにモナコをベスト4に躍進させた知将ジャルディム監督が率いるチームには当時のモナコの再現を狙える陣容が整っています。

OBのセマク監督が率いるゼニトは2015−16シーズンにチャンピオンズリーグのグループリーグを突破し、さらに3シーズン続けてヨーロッパリーグでも決勝トーナメントに進出しており、欧州での戦いは4チームで最も安定しています。ロシア代表FWジューバとイラン代表FWアズムンの2トップはツボに入れば、二人でゴールネットを揺らせる破壊力を秘めており、コロンビア代表MFバリオスも攻守に効いています。元リーベルプレートの若きアルゼンチン人MFドリウッシがさらに違いを見せることができれば、この混戦を抜け出す力は十分にあると言えます。

ベンフィカはポルトガルリーグで3試合3得点のルイス・フェルナンデスをはじめ元鹿島アントラーズのカイオやポルトガル代表MFラファ・シウバと言った攻撃タレントを擁しており、プレミアリーグのクラブも狙うポルトガル代表DFルベン・ジアスが統率するディフェンスも堅牢です。ライプツィヒはハイプレスと鋭いショートカウンターを武器とし、気鋭のドイツ代表FWヴェルナーを中心に高い得点力を誇ります。ただ、2017−18シーズンはグループリーグ3位に終わるなど、チャンピオンズリーグでの実績があまり無い中で、32歳のナーゲルスマン監督とともに、若いチームが混戦グループを勝ち上がって行けば、さらに躍進する可能性もあります。

【グループH】

チェルシー(イングランド)

アヤックス(オランダ)

バレンシア(スペイン)

リール(フランス)

昨シーズンのヨーロッパリーグ王者であるチェルシーとチャンピオンズリーグ4強のアヤックス、さらにスペインのバレンシア、フランスのリールということで今大会の”死のグループ”と呼んでも差し障りないかもしれません。もちろん下馬評ではチェルシーとアヤックスの突破が大方の予想になるでしょうが、厳しいラ・リーガで4位に入ったバレンシアは伝統的に欧州カップ戦にも強く、10番を背負うMFパレホを大黒柱に、各ポジションに名うての実力者を揃えています。鉄壁の守備戦術を構築するマルセリーノ監督の手腕が、フランス代表FWガメイロとウルグアイ代表の大型FWゴメスの2トップが牽引する攻撃力とうまく噛み合えば、チェルシーとアヤックスの一角を崩す可能性は大いにあります。

チェルシーはランパード監督のもとで攻守に強度の高いサッカーを実現していますが、やはりチャンスメークとフィニッシュの面でアザールが抜けた穴を埋め切れておらず、イングランド代表に初選出されたマウント、新鋭の長身FWエイブラハムなど、フレッシュな戦力をうまく構築して組織力を高めたいところです。アヤックスは前回の躍進の立役者で最優秀MFに選ばれたフレンキー・デ・ヨングやDFデ・リフトなど主力の何人かは抜けたものの、なし崩し的な戦力の低下は食い止めており、新戦力のメキシコ代表DFエドソン・アルバレスもボランチのポジションで順調にフィットしている様子です。そのアルバレスとボランチのコンビを組むアルゼンチン人の21歳マルティネスが鍵を握りそうです。

リールの注目選手はナイジェリアの新鋭FWオシムヘンで、驚異的な身体能力を武器に、ここまでリーグアンで3試合4得点を叩き出しています。まだ20歳でこれからさらに成長しそうですが、前半戦からこれだけ目立った活躍をしていると、冬の移籍市場ではビッグクラブの触手が伸びそうです。何れにしてもリールが躍進するには彼の活躍が不可欠と言えます。加えてU-20W杯で活躍したアメリカ代表FWティモシー・ウェアの覚醒的な活躍にも期待がかかります。また190cmのブラジル人DFガブリエウを擁するディフェンスも堅実で、クリストフ・ガルティエ監督が率いるチームは少なくともチェルシーやアヤックスを苦しめる戦いはできると予想します。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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