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「長野パルセイロの希望」堂安憂は環境を楽しむ。”堂安律の兄”としての「プレッシャーは全くない」

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

※タグマ【KAWAJIうぉっち】の記事を再構成

J3のAC長野パルセイロは最終節を残して勝ち点41としているが現在9位。最終節のグルージャ盛岡戦(12/2)を残すが、すでに目標のJ2昇格には届かないことが確定している。シーズン途中に解任された浅野哲也前監督を引き継ぎ、チームを復調させた板倉裕二監督の退任も決まり、新たな監督候補の名前が浮上している状況だ。

ベテラン・中堅選手が多いチーム事情もあり、来季のJ2昇格に向けメンバーの刷新も必要になってくるかもしれない。

その中で「長野パルセイロの希望」として期待を集めるのが22歳の堂安憂だ。世間的にはオランダのフローニンゲンと日本代表で活躍する”堂安律の兄”としてしばしばメディアに登場するが、そうした背景を抜きに見ても非凡なタレント力を感じさせるアタッカーだ。

堂安憂のゴール(AC長野パルセイロvsガンバ大阪U-23 明治安田生命J3リーグ 第31節 2018/11/11)

■プレッシャーより嬉しい楽しいが大きい

11月23日に行われたFC東京U-23との試合でも右サイドから多彩な仕掛けでフィニッシュに絡み、惜しくも自身のゴールはならなかったものの、1−0の勝利に貢献した。

ここまでチーム2位の5得点。特に後半戦になって得点が増えている要因は「ボランチやってたので、そこから(サイドハーフへの)ポジション変更が一番大きいと思います」と語る。最近のポジションが右サイドハーフが弟の堂安律と一緒であることについてはどう考えているだろうか。

「まあ僕は左がいいんですけど。右利きと左利きでぜんぜん違うので、持ち方が。だから(右利きの)僕が左だったらカットインに行くので参考にはしますけど、右の時は全く違うので、その時は参考にしてないです」

弟・律とのコミュニケーションは「しょっちゅうしてます」というが「サッカーの話はしないです。(オランダの話も)そんなのぜんぜん。本当にしょーもない話ばっかですよ」という。

--たとえばサッカー漫画の話?

「サッカー漫画の話というより、漫画の話はしますけど、サッカーに限らないですよ、そこは。あとはしょうもない、ほんまに家の話とか、ご飯のこととか」

日本代表で取材陣にも明るく対応している堂安律。兄の憂も本人は「いやいや、そんなことはないですよ(笑)。律はわからないですけど、僕明るくないんでそんな。あんまり話すの得意じゃないので律と違って。僕は得意じゃない」と言いながらも気さくな話し方が印象的だ。

堂安律がゴールを決めたときに「ファンタジスタ」の登場人物と同じパフォーマンスをしているが、それも兄の影響なのだろうか。

「たぶん最初に読んだの僕ですね。僕が漫画とゲームめっちゃ好きなんですよ。それで律も読む様になったという感じなので。基本あいつが読んでる漫画は俺が先に読んでますし、ゲームは俺が先にしてます(笑)。でもパフォーマンスは知らなかったです。あれは「ファンタジスタ」におるんで、そういうキャラ(マルコ・クオーレ)が。(パフォーマンスを見た時に)真似したなと分かりましたけど」

兄弟プロ選手としてやっていて、特に弟が日本代表に選ばれるまでになることでプレッシャーがあると見られるのが一般的だが、堂安兄弟は違うようだ。

「プレッシャーはゼロですよ。全くないですね。逆に律が頑張ってるから、やっぱ自分も頑張ろうとは思いますけど、逆に楽しいというか。それこそ、そういう時は直接話せるし。だからプレッシャーより嬉しい楽しいが大きいですね」

二人のプレースタイルには似ている部分もあるが「自分は律と違って体が違うので。あいつはゴツさもあるので、タイプは似てる様で違いますよね」と堂安憂は答える。特に憧れのような選手はいないようだが、参考にしている選手として二人の名前をあげた。

「なんやろ、わからんなあ。でもサイドハーフなので試合前とかに観ているのは(チェルシーのエデン・)アザールかマンチェスター・シティの(レロイ・)サネばっかですね。左サイドやってる時は(右利きの)アザールを見てますけど、サネは左利きで左サイドで持ってるので、逆に右サイドの参考になるから」

■嫌と思ったことは1回も無い

”長野パルセイロの希望”とも言われる堂安憂。日本代表で活躍する弟・堂安律の名前が付いて回る現状について「ポジティブには捉えてます」と笑顔で語る。

「嫌と思ったことは1回も無いですよ。笑ながら家族のLINEでも”またや~”みたいな感じなので」

兄弟揃ってサッカー選手を目指す事例は多いが、実際に兄弟の活躍がプレッシャーになり、押しつぶされてしまった選手も少なくないと聞くが、堂安憂は「それほんまにわからないですよ。全く。逆に嬉しいぐらいなので。仲が良かったらそうだと思いますよ。嬉しいもんですよ」と言う。

そんな堂安憂だが、もちろん彼なりにプロの選手としてステップアップしていく野心はある。ただし、向上心ばかりが先走って挫折するより、プロ選手として与えられている環境を楽しんでやりたいと言う気持ちが強くあるようだ。

「律は向上心の塊なんですけど、僕は性格的に気楽にやらないと調子悪いんですよ。だから上目指そう目指そうばっか思ってやってても、それで1回ダメになった時があったので。もちろん上に行きたい気持ちはありますけど、せっかくプロになれたから、その現状を楽しもうかなとか。プロの環境は当たり前のことじゃないので。やりたくてもできない人もいるので。だから普通に楽しみたいという気持ちが強いですね」

--楽しむというのはポジションが希望と違っても楽しみを見出すとか

「そうですね。正直、最初は右サイドが嫌だったんですけど、今だんだん楽しさがわかって来ている段階ではあります。ボランチも最初は楽しくなくて、だんだん楽しさがわかって来たけど、前がやりたかった中でサイドハーフになったので。ボランチ、サイドハーフ色々できた方がいいので、そういう楽しさをわかって来たところですね」

そう語る堂安憂にとって長野パルセイロの環境はどうなのか。

「(プロは)1チームしか知らないので分からないですけど、自分的にはリラックスできています。チームメートはいい人が多くて、自分がいい意味で好き勝手できるというか、ミスしても暖かいというか。厳しくしないといけない部分もあるかもしれないですけど、バランスを取りたいと思いますね」

長野パルセイロの現状と課題については「正直、前期がとにかく悪くて、でも(監督が)坂倉さんになってから変わったところもあった」と語る堂安憂。ただ、現在でも前半が良くても後半に落ちてしまって相手にペースを握られることや展開が背なくなり、ボールを失ってカウンターを受けると言った問題は改善の必要性を感じているようだ。言い換えると良くなるイメージは選手としても見えている。

「結局は個の部分を変えないといけないので、全員が個の能力を上げて行くことなのかなと思いますけどね。見えているところはあるので」

長野パルセイロに居心地の良さを感じながらも、J1やJ2のクラブからオファーがあれば「それはもちろん行きたいですよ。挑戦したい気持ちはもちろんあるのでそれはあります」と語るが、まだまだ個人としての課題を認識している。

「フィジカルですね僕の場合は。そこなんですよ。自分に弱いから。実際に律とかはミスっても体が強いから、逆にミスっても取られなければいいだけのことなので付けたいと思います」

--でも柔らかさは残したい?

「それは間違いないです。スピードも落としたくないので。別に吹っ飛ばなければいいと思ってるので。そういう意味では体幹とか吹っ飛ばない体を目指したいなと思います」

--律選手はそう言うフィジカルトレを意識的にやっていた?

「やってないですよアイツも。まあ海外でやってるから必然的に強くなると思うんですよ。ガンバの時あんなに太くなかったから。それがこの1、2年で来たので。え、こんな太かったみたいに感じましたね。やっぱ環境ですよそれは」

オランダと日本。兄弟で同じ日にゴールした時にもニュースになった。「面白いですよね。たまたま同じ日に試合があって頑張ってるだけで。二人で別に狙ってないし見たいな話はしたので」と笑いながら話す堂安憂だが、そうしたことをネガティブに考えたことは全く無いと言う。

「今はどっちかというと活躍しても”律の兄貴”と呼ばれることが多いじゃないですか。でも自分がJ1やJ2に行ったとしたら、律の方が上であっても俺だけの名前になるかもしれないし、そういう意味では楽しみではありますよ。いつ消えるんかな~みたいな(笑)。一生ついてくるのは間違いないですけど」

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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