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ブラジルW杯でハリルホジッチが率いたアルジェリア代表。最高の準備で挑みながら敗れたベルギー戦の真実。

河治良幸スポーツジャーナリスト
本大会に全てをかけるハリルホジッチの真価はロシアで見られないかもしれない。(写真:Action Images/アフロ)

4年前にハリルホジッチ監督が率い、ベスト16に進出したアルジェリア代表はチームのほぼ全戦力を駆使して4試合を戦い、世界王者となるドイツを最も苦しめたチームとして賞賛を浴びることになった。日本代表においても指揮官は大会前の“3週間の合宿でチームを仕上げるプラン”を明かしており、そこでアルジェリア時代の経験も生かされるはずだった。

初戦でベルギーに逆転負けしたものの、韓国に4−2で勝利し、ロシアと1−1で引き分けてグループリーグを突破したアルジェリア代表は優勝候補のドイツと対戦。タイトな守備と鋭い縦の仕掛けで、世界最高峰の守護神と呼ばれることになるマヌエル・ノイアーを何度も脅かしたアルジェリアだったが、延長戦に2点を失い、最後まで諦める1点を返したものの、2−1で敗れた。その後のドイツの躍進は誰もが知る通りだ。終わってみればドイツを最も苦しめたのがハリルホジッチ率いるアルジェリアだったということになる。

「国民が誇りに思える美しいサッカーをしたい」

彼の語る美しいサッカー。それは華麗にボールを回すことでも、ファンタジーに溢れたシュートを打つことでもなく、最後まで諦めることなく走り、強大な相手にも果敢に挑んでいくことでしか得られない。徹底したスカウティングと分析はもちろんベースになるが、そのハードワークとスピリットこそが感動的な勝利につながるということだ。

ハリルホジッチのアルジェリアを振り返る時、そのドイツ戦ばかりがフォーカスされるが、強豪を相手に見事な戦いぶりで接戦に持ち込んだベルギー戦にこそ、ハリルホジッチの真価が表れたと試合だと考えている。ただ、あまりに周到な準備でうまく試合を運べてしまったことが、鬼気迫る終盤のベルギーに対する処置を遅らせる要因になったのは皮肉なことだ。

結果として2−1で敗れたベルギー戦はデータで見るとボール保持率もシュート数もベルギーがアルジェリアを大きく上回っているが、これは試合展開によるところが大きい。[4−3−3]のベルギーに対して[4−2−3−1]で臨んだアルジェリアは基本的に1トップのスダニがアンカーのヴィッツェルをチェックし、インサイドハーフを2ボランチがマークした。

興味深かったのが左サイドを根城にフリーマンの動きをするエデン・アザールのケアで、サイドでは右サイドハーフのフェグリが、中央に流れるとトップ下のタイデルが付く。左サイドバックのフェルトンゲンが上がってくれば、そこにフェグリが付き、アザールは右サイドバックのモステファがケアするという多重的な備えを敷いている。アザールほど頻度は多くないものの、右サイドハーフのデ・ブライネが中に流れた時も同様に対処していた。

つまり、基本的には[4−3−3]のフォーメーションながら左右ウィングが中央に流れやすい特徴を読み取り、柔軟に受け渡せるメカニズムを機能させていたのだ。ボールを持てば自陣でボールを回しながら左利きのMFベンタレブの縦パスなどをスイッチにスダニ、マフレズ、フェグリ、タイデルが前線に走り込む迫力ある攻撃と鋭いカウンターを織り交ぜ、ペナルティエリア内に飛び込んだフェグリがPKを獲得して先制に成功した。

その後も守備の基本スタイルは変わらなかったが、攻撃になった時にリスクをかけず、攻撃陣の仕掛けに頼った形に移行した。何度かデュエルで劣勢になったところからピンチを迎えながらも、理想的な流れで65分まで1-0のリードを保っていたが、ベルギーがインサイドハーフのデンベレを下げて194cmのフェライニを投入したことで様相が一変した。

それまでの横パスを中心とした組み立てからロングボール戦術に切り替えたベルギーに対して、アルジェリアのディフェンスがセカンドボールから後手を踏むシーンが目立ってくる。ハリルホジッチ監督は守備的MFラセンの準備を急がせたが、中盤のベンタレブに代えてラセンを投入する直前、セカンドボールからデ・ブライネの上げたボールをフェライニにジャンプヘッドで合わされ、同点とされてしまった。

もう1プレーしのげばという時間帯の同点弾のあと、ハリルホジッチ監督としては勝ち点1を獲得するプランに切り替えることもできたはずだが、ピッチ上の選手たちは再び点を取る姿勢を押し出す。それが裏目に出たのが80分。セカンドボールを起点に仕掛けたフェグリがタックルで倒されるもファウルは無く、そこから素早く縦パスをつながれると、数分前に足をつっていたMFメジャニの背後を突かれ、アザールのパスからメルテンスに逆転ゴールを決められた。

ハリルホジッチ監督はメジャニを下げてFWギラスを投入。2トップに変更して縦のロングパスを起点に反撃を試みたが、ベルギーの屈強な守備陣を打ち破るにはいたらず2−1で敗れた。守備で相手をはめ、相手の裏を狙う攻撃から先制するという理想的な展開に持ち込み、後半途中まで“格上”のベルギーをリードしていただけに、悔やまれる敗戦になったことは間違いない。しかし、同時に手応えを得た試合でもあったのではないか。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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