Yahoo!ニュース

フランクフルト長谷部誠の”リベロ起用”は日本代表にも応用可能か。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロ)

日本代表の長谷部誠を擁するフランクフルトはアウェーで強豪ボルシアMGと対戦し、1−1で引き分け。長谷部はドイツ杯2回戦のインゴルシュタット戦に続き3バックの中央でリベロの役割を担った。

10月21日に行われた前節のハンブルガーSV戦でニコ・コバチ監督の指示により、後半からポジションを変更したのが始まり。そして25日のインゴルシュタット戦ではスタートから3バックの中央に入り、0−0のままPK戦を制したチームにあって、現地メディアからも称賛の声があがった。そそてボルシアMGに対しても3−4−3の布陣、守備位置によっては5バック気味になるラインの中央を再び長谷部が担うことになったのだ。

彼がそのポジションをすんなりとこなしている理由を探りながら試合を観ると、もちろんポジションが下がることで、ボールを持った時の余裕やパスレンジの長さは違うし、背後にGKしかいないため、ロングボールに対してアタッカーに決して裏を取られない様に背走する必要がある。ただ、左右に屈強なストッパーがおり、4バックのセンターほど体を張って跳ね返すシチュエーションは少ない。また3バックの中央と言っても古風なスイーパーと違い、前にボールを取りに行く守備が許される。その時はもちろん左右の選手がカバーしてくれる。この試合であればヘスス・バジェホとダビド・アブラハムだ。

「前にも潰しにいくし、相手のロングボールというか裏を狙ってくるボールに対してカバーに行ったり、両方やりますけど、リベロっていう形だと思います」

もともと優れた観察眼とバランスワークで勝負するタイプだけに、ユーティリティーに役割をこなせる素養はあるのだが、長谷部がボランチでこなしてきた役割とリベロに求められることは本質的に共通点が多い。ボルシアMG戦を見ても、走行距離はボランチの試合より1キロ近く減っている様だが、その分も周囲への指示が増え、体以上に頭を働かせている様子だ。

ただ、インゴルシュタット戦でも「ボランチもやってますし、試合の中で中盤をやることもある」と長谷部が語る様に、固定的に3バックの中央を任されるわけではない。「相手が2トップだったら3バックでやりますけど、1トップだったら自分が中盤でっていう風にミーティングでやっている」。つまり守備でまず相手をはめるためのシステム変更であり、長谷部をリベロに起用するのは試合の中で臨機応変に形を変えるためでもあるのだ。

「このチームの監督は中盤の選手に前に守備することを求めているので、ただ横にスライドしてカバーするという感じではなく、中盤では相手に対して潰しに行く」

長谷部が自身の課題としてもあげる、そうしたボランチの守備的な役割はリベロのポジションからでも発揮できる。リスク管理の部分はよりデリケートになるが、もともと必要に応じてセンターバックのカバーもこなす長谷部としては十分に応用の利く範囲だ。「やりがいはもちろんありますけど、自分は個人的にはボランチの選手だと思っている」と本音ものぞかせるが、センターバックへのコンバートとして騒ぐのは大げさにも思う。

こうした起用法によるボランチでの試合感に関しては「その中では頭の切り替えというか、中盤の方がプレッシャーもあるので、そこは頭の中の切り替えでやっていくしかない」と語る。あくまで相手のシステムに応じた戦術のオプションであり、トレーニングも含めてボランチを放棄するわけではないので、長谷部の経験に期待したいところでもある。もう1つ思い浮かぶのは日本代表で採用される可能性だが、試合の状況次第で起こりうる形だ。

ハリルホジッチ監督は率いるチームによってベースのシステムは構築するが、試合に応じて形や配置を変更することに躊躇しないタイプで、その一端を先のオーストラリア戦で示している。相手が明確な2トップで、2人のセンターバックが1対1で潰すことが難しい相手である場合、ボランチの長谷部をバックラインの中央に下げるプランが有効になるかもしれない。その場合は3−4−3となり、トップ下の選手を削るか、もしくはボランチの役割も担えるトップ下の選手をボール奪取力のあるタイプと組ませることになるはずだ。

ただし、今回の起用をもって4バックのセンターと同じ様なイメージをするのは本質から外れる様に思う。あくまで本職のボランチと”互換性”のある3バックのリベロとして考えるべきだ。対戦相手や試合の状況に応じて形を変化させられることに、この起用の重要な意味があるのだから。それにしても今回のポジションで中盤よりプレッシャーが減る代わりにパスレンジが長くなり、正確なサイドチェンジや縦のフィードで新たな一面を見せるなど、本人もその状況を受け入れながらプレーの幅を広げる糧にしていることに感心させられる。

「ボランチと違ってパスの距離が長くなりますけど、今日(マルコ・)ファビアンに出したところなんかは。あれも取られたらけっこう危ないボールなんですけど、後半出したパスは自分のボールが浮いてしまったので、あそこは受ける選手がダイレクトでプレーできる様なそういうイメージを周りと共有することも大事かなと思います」

これで120分を戦いぬいたドイツ杯2回戦を含み、1週間で3試合フル出場を果たした長谷部。試合後の爽快な表情を見ても”ベテラン”という印象を全く与えない日本代表のキャプテンのこれからに引き続き注目していきたい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

河治良幸の最近の記事