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5年ぶりに復活するキリンカップ。4カ国参加のトーナメント方式にするメリットとは?

河治良幸スポーツジャーナリスト

日本サッカー協会は12月23日に2016年の年間スケジュールを発表。男子のサッカー日本代表は年内に行われる二次予選2試合と最終予選4試合に加え、6月3日(豊田スタジアム)と6月7日(市立吹田サッカースタジアム)にキリンカップが行われることが明らかになった。

2011年に欧州からチェコ、南米からペルーを招いて以来、5年ぶりの開催となるキリンカップだが、強豪との日程調整が難しい中であえて行うのは興行的な効果はもちろんのこと、短期でもタイトルをかけた“公式戦”の形を取ることで、より真剣勝負の中でチームの現在地をはかるという目的があるのは確かだ。

強豪と言っても欧州は6月10日からEURO2016がフランスで開幕するため、ドイツやスペインなど本大会に出場する国にとって同月の上旬は現地での最終調整が行われる期間となる。また南米はコパ・アメリカ創設100周年を記念したコパ・アメリカ・センテナリオが行われる。北中米カリブ海から開催国のアメリカ合衆国を含む6カ国(メキシコ、コスタリカ、ジャマイカと2カ国のプレーオフ勝者)を招待し、16カ国が参加する予定だ。

コパ・アメリカ・センテナリオに関してはFIFAのスキャンダルにより一時は中止も検討されたが、10月にCONMEBOL(南米サッカー連盟)、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)、アメリカ合衆国サッカー連盟が予定通り開催することで一致した。この大会は6月3日に開幕するため、南米の全ての国と北中米カリブ海からの参加国がキリンカップの対象から外れることを意味する。

加えてアフリカはちょうどアフリカネーションズ・カップの予選が組み込まれており、ガーナやコートジボワールなど日本と交流の深い強豪国も招くことは不可能。また相手として“格上”とは言いがたいが、オセアニアの雄ニュージーランドもW杯予選のためスケジュールが埋まっている。そうなると現実的な対象はEUROの予選で敗退した欧州国か、北中米の強豪の中でもコパ・アメリカ・センテナリオに参加しないホンジュラスあたりが候補になってくる。

多くのファンはオランダの参加を望むだろうが、おそらくEUROを前にした列強にとっては“格好のスパーリングパートナー”と見られるのは間違いなく、EURO予選の敗退後に任期の延長が決まったブリント監督としても、6月はフランス、スウェーデンなどと同居するロシアW杯の欧州予選に向けテコ入れをはかるチャンスだ。そのオランダをわざわざ極東に遠征させるには強力な引きが必要だろう。

どちらにしてもハリルホジッチ監督が求める“できるだけ我々よりも強い国”を考えると、EUROの本大会に不参加の国ではFIFAランキングが14位のオランダに次ぐ22位のボスニア・ヘルツェゴビナ、41位のギリシャ、42位のデンマーク、43位のフィンランド、54位のノルウェー、56位のセルビア、61位のスロベニアあたりになる。

FIFAランキングでは現在53位の日本より上位がオランダを含め5カ国となるが、ランキング上は下になるノルウェー、セルビア、スロベニアなどはスタイルに特徴があり、特にセルビアにはB代表が来日した2010年の親善試合で0−3と惨敗し、2013年の欧州遠征でも2−0で敗れている。

そもそもセルビアはEURO予選のアルバニア戦で、相手のサポーターが民族主義的なメッセージを掲げたことに対する暴動が起こった事件で、勝ち点剥奪のペナルティを受けた事情もあり、一時的にランキングを下げているが、選手のタレント力やチームのポテンシャルは20位前後の国に匹敵する。

ハリルホジッチ監督の母国でもあり、かねてから噂にあがっているボスニア・ヘルツェゴビナ、日本と親交が深く、過去にも親善試合で来日経験のあるセルビアは有力だろうが、全て旧ユーゴ圏の国で埋めることは考えにくく、欧州の中でも日本と大きく特徴の異なるノルウェーなども対象に交渉していく可能性があるのではないか。

どちらにしても今回は4カ国のトーナメント方式になるため、来日した国と必ず対戦できるわけではない。参加を従来の3カ国から4カ国にした最大の理由は日程問題の解決だ。国際Aマッチデーは5月30日〜6月7日だが、3カ国だと3開催日で行わなければならず、スケジュールが間延びする上に2試合の間隔が詰まり、コンディション面で公平性を欠いてしまう。4カ国でトーナメント制ならば2試合の同時開催で2開催日におさまるわけだ。

また興行的な意味でも、これまで日本代表の試合が無い日はスタンドが閑散としてしまう傾向があった。そうした意味でも4カ国にするメリットはあるわけだが、デメリットはせっかく招待した国の1つと試合ができないこと、また日本が3日の試合に敗れた場合、記念すべき吹田スタジアムでの日本戦が平日開催の第1試合、つまり午後4時など早い時間になってしまう可能性がある。無論、3位・4位決定戦を無理に第2試合に動かす様な措置を取ればむしろ道義的に大きな批判を受けるのではないか。

とにもかくにも大陸選手権がある場合をのぞき、FIFAの国際Aマッチデーは年間10試合に縮小された事情の中で、来年は二次予選と最終予選を合わせて6試合が予選で埋まっており、10月と11月には最終予選の前後に1試合ずつ空いているものの、FIFAの規定でアジアの会場しか使えないことから、他大陸の強豪と強化試合を組むことは難しい。

しかも2017年は最終予選に日程が全て消化されるまで、他大陸の強豪国との試合を組めない。その後は当然ながらW杯開催国のロシアを含めた欧州での強化試合を組んでいく必要があると考えるが、少しでも世界の強豪との力関係をはかり、地力を付けるためにホーム開催であっても決して無駄にはできないのだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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