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結婚肯定派わずか9%ー現代版「結婚十訓」の末路

河合薫健康社会学者(Ph.D)
(写真:イメージマート)

岸田首相が突然表明した「異次元の少子化対策」の波紋がひろがっている。

すでに色々な立場の人たちが、さまざまな視点で「異次元」というワードについて、あれこれコメントしているのでここでは書かない。

一方で、政府の政策はいわば「パラ撒き」であり、本当にこの国は少子化問題を解消するつもりがないのだぁとつくづく嫌になる。むろん、今子育てしている人たちは、少しでも経済的支援が増えれば助かるであろう。しかしながら、それで少子化が解消するとは思えない。

だいたい政府はこの30年間、いったい何をやっていたのだ。

【結局、日本は30年前のままだった】

政府が出生率の低下と子供の数が減少傾向にあることを「問題」として認識し、子育て支援対策に取り組み始めたのは、「1.57ショック」と呼ばれた1990年以降。30年も前。そう、30年も前だ。

1.57ショックとは89年の合計特殊出生率が1.57と、「ひのえうま」という特殊要因により過去最低であった66年の合計特殊出生率1.58を下回ったことが判明したときの衝撃を指す。

最初の総合的な少子化対策「エンゼルプラン」がまとめられたのは1994年で、8年後の2002年9月には「少子化対策プラスワン」がまとめられた。これは「男性を含めた働き方の見直し」や「地域における子育て支援」なども含めて、社会全体が一体となって総合的な取り組みを進めていこうと提言したものだった。なのに、働き方も社会も全く変わらなかった。

しかも、政府は「社会全体が一体」とは違う、別次元の少子化対策に舵をきった。

13年に「少子化危機突破タスクフォース」なるものを立ち上げた際には、「少子化対策は若年層にターゲットを絞る」と断言。婚活イベントやら恋愛を語る会やら、若年の新婚世帯の住宅支援などを実施し、「女性手帳」なるものまで配ろうとした。

女性手帳は大バッシングを受け実現しなかったけど、「さっさと女性は結婚し、子供を産み、仕事もしなさい! 健康で若いうちにね!」的政策を次々と展開した。

これは“結婚十訓”の現代版であり、女性たちにひたすら「圧」をかけまくったのである。

【1家族に子供5人という幻想】

「結婚十訓」は、日中戦争などで人口減少に危機感を強めた当時の政府が、1941年に「人口政策確立要綱」を策定し、国の理想である「一家庭に子供5人」を実現するために発表したもので、伴侶の選び方から親との関わり方までを示し、「産めよ育てよ国のため」という“教え”で締められている。

17年にベストセラーになった『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司著)によれば、「20年には50歳以上の人口(3248万8000人)が、0~49歳人口(3193万7000人)を追い抜くとし、15年に政府が公式に掲げた希望出生率は「1.8」を夢物語と指摘。

政府は合計特殊出生率を計算する際に、49歳までの女性人口を「母親になり得る」とカウントしているので、「1.8」の実現には未来の母親たちが、一人で5人も6人も産む計算になる。

またしても「一家庭に子供5人」を理想に掲げたのだ。

いずれにせよ、少子化問題はずっとずっと本当にずっと日本社会の大きな問題だった。
 にもかかわらず、まるで“キャンペーン”のようなものばかりが繰り返されてきた。当然、効果はほぼなし。22年の出生数は80万人を下回る公算が大きく、過去10年の平均減少率は年2.5%ほどで、ペースは2倍に加速している。

【30代の結婚肯定派9%の衝撃】

そんな中、日本経済新聞に興味深いアンケート結果が掲載された(以下、22年11月22日付日本経済新聞朝刊『縮小ニッポン、私たちの本音 男女1000人アンケート 「結婚良い」20・30代、半数切る』より抜粋・要約)。類似調査結果と合わせて紹介する。

〈結婚について〉

「結婚はした方が良いと思うか」に、51.5%が「思う(そう思う・少しそう思う)」と回答。

年齢別では、40代以上では約7割が肯定的なのに対し、20代30代は5割未満と半数を切った。

性別では、女性の方が低く、30代女性では「そう思う」はわずか9%。

「結婚が減っているのはなぜだと思うか」の問いには、「若年層の収入・賃金が低い」が6割でトップ。次いで「将来の賃上げ期待がない」「出会いがない」(複数回答)。

「結婚のプラス面」については、「心理的な安心・安定」がトップで6割弱。「経済的に安定する」は女性が45.2%だったのに対し、男性は25.4%と低かった(複数回答)。

 →「令和4年版男女共同参画白書」では、「結婚意思なし」と回答をしたのは、女性は20代で14.0%、30代で25.4%、男性は20代で19.3%、30代で26.5%。

〈子供について

「子供はいた方が良いと思うか」に、6割超が「思う(そう思う・少しそう思う)」と回答。「そう思う」は20代女性が最も低く、20%弱だった。

「子供が減っている理由は何だと思いますか」と問うたところ、「家計に余裕がない」が74.5%で最も多かった(複数回答)。

女性の60.8%が「仕事と育児の両立が難しい」としたのに対し、男性は38.6%。

 →内閣府の「少子化社会対策に関する意識調査」では、「日本の社会が、結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向かっている」かどうかについて、「そう思う」はたったの2.3%。「どちらかと言えばそう思う」(27.4%)と合わせても3割弱。

〈育児環境について〉

夫と妻で「不平等」と感じる人は56.1%、「平等」は22.6%。

男性の育児休暇の望ましい取得期間は、「2~6カ月」の27.7%が最も多く、「わからない」23.1%、「1週間~1カ月」20.2%と続いた。

 →厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業の取得率は9年連続で上昇し、過去最高の13.97%(前年度比1.32ポイント増)。民間企業の調査では、育休取得した男性の取得期間は、「1週間以内」が6割超。

……とまぁ、あれこれ数字を並べてみたけれど、かなり乱暴かつ大ざっぱにまとめると、

「結婚はしてもしなくてもどっちでもいいよ。だって、お金もないし、この先給与が増える見込みもないわけだし~。子供はいたら楽しいかもしれないけど、子育てめちゃくちゃ大変そうだし、いなくてもいいかもね~。とにかく国もさ、子供増やせ! って圧かけるなら、お金もっとちょうだい! ついでに言わせてもらうとさ、日本社会が子育てに冷たいんだもん!」

これが本音なのだ。

とにもかくにも「私たちの本音」で分かったのは、“国”が期待する、子供を産んでも働き続けてほしい30代の女性の結婚願望が壊滅的に低いってことだ。

これが今の日本の現実である。

なのに、政府は30年以上前から、「子を増やす」=「とにかく結婚!」という思考回路のまま。婚外子の議論が全く行われなかったことからも明らかであろう。

いや、政府だけではない。

私はさまざまなメディアでこれまで婚外子について書いてきた。認める、認めない以前に、とにかく議論の俎上にのせるべき、と。しかし、そのたびにコメント欄には辛辣な言葉があふれた。問題があるならその問題を解決するにはどうしたらいいか? を考えればいいのに、「ノー」ばかりを突きつけられた。

いまだに電車やバスの「ベビーカー問題」はくすぶりつづけているし、「子供の声がうるさい」という、たった1軒からの苦情を理由に、子供の遊び場だった公園の閉鎖が決まったという報道もあった。

「少子化対策」と銘打つのであれば、蜘蛛の糸を張り巡らせるように「産める社会」を構築する必要があるのに。日本中のすべての人たちに、「子育ての国にしよう! みんなで子育てしよう!」という気持ちが共有されるべきなのに。

「子は宝」とみんなが言う。だが、「みんなで育てよう」とは言わない。少子化は国の問題なのに、「妻、夫、夫婦」という個人の問題に矮小化されているのだ。

それに・・・日本の育児休暇制度は、先進国の中でも「優しい制度」だ。
 あまり知られてないけど、かなり働く女性に寄り添うように制度設計されている。

ユニセフ・イノチェンティ研究所が2021年6月にまとめた報告書「先進国の子育て支援の現状(Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)」でも、日本の「育児休業制度」は1位だった。

ただし、他の先進国は日本と異なり、職場で「空いた穴」を埋める人員体制をきちんと整備する仕組みがあったり、男性の育児休暇取得、無償の保育・幼児教育や保育サービス、質の高い保育を行う保育士育成制度などが充実し、徹底されている。

それだけではない。 


多くの国では、「国のあり方の長期的なビジョン」が国民と共有されている。
  出産・育児、教育、老後など、それぞれのライフステージによって、国民のすべてが豊かになるための政策を進めてきた歴史がある、そのうちの1つが、育児休暇だ。

つまり、豊かさはみんなで共有するもの、公平であるべきもの、という考えが浸透しているので、上司が部下の育休申請を拒否したり、社員が育休を取りづらい空気になったりすることがない。

「すべての人の人権を尊重する」という当たり前が、根付いているのである。

「子供は未来の宝だ」といわれるのに、その“宝”を産み育てる機会を奪う人たちが後を絶たない現実。超高齢社会なのに、社会のスタンダードが「バリバリ元気に働ける人」という不条理。

日本が目指すべき社会とは?

言葉遊びはいい加減やめて、「国のあり方の長期的なビジョン」を議論し、示し、まとめて欲しい。

その上での増税であろう。

個人的には、私はもっと子育て支援に税金を使ってもいいと思う。 


子供と子育てをする人たちに血税を使う国を、私はきっと誇りに思う。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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