“小室ショック”と他人事ではない介護問題のリアル

著者:h.koppdelaney

最後に一言だけいいですか。僕たった1人の人間の言動などで日本であったりとか社会が動くとはまったく思っておりませんが。

先ほども言いましたように、なんとなくですが、高齢化社会に向けてであったりとか、介護みたいなことの大変さであったりとか、社会のこの時代のストレスであったりとか、そういうことに少しずつですけどこの10年で触れてきたのかなと思っているので。

こういったことを発信することで、みなさんも含めて、日本をいい方向に少しでもみなさんが幸せになる方向に動いてくれたらいいなと心から思っております。微力ですが、少しなにか響けばいいなと思っております。ありがとうございます。

これは週刊誌の報道を受け引退表明をした小室哲哉さんが、「以上で記者会見を終わりにします」と司会者がしめた後、発したコメントである。

会見の内容については賛否両論ある。が、私は聞いてとても切なくなった。

「ああ、これが介護問題の本質なんだ」と。

つまり、これだけ高齢化が進み、「介護、介護、介護問題をどうにかしなきゃ!」と問題提起しても、当事者にならない限り、所詮他人事。人は実に勝手で、愚かで、ちょっと悲しい存在で、そのときがきて初めて、出口の見えない孤独な回廊に足がすくむ。

しかも、“変化”は次から次へと予告もなしに突然に、想像を遥かに超えるカタチで起こるので、“介護初心者”はうまく対処するのができない。

 「良かった、もう大丈夫!」と安堵する日と、「嗚呼、どうしたらいいんだろう」と途方に暮れる日が入り乱れ、四六時中振り回され、心と頭と身体がバラバラになってしまうのである。

実はこの数年で、私の周りで立て続けに“親の変化”が起こっている。おそらくそういう年回りなのだと思う。80歳前後になった両親、特に父親に変化が起こり、

「お互い、大変だな」

「うん」

 何度、こんな会話を繰り返しただろう。

実は私もその一週間前まで、連日ゴルフに行き、「やれ、大学の同窓会だ!」「それ、幼稚園の同窓会だ!(はい、間違いなく幼稚園です)」とバリバリ元気で、「そんなに鍛えて誰に見せるわけ?」と笑ってしまうほど、腹筋・背筋・腕立て伏せをやっていた父に“変化”が起き、右往左往した経験がある。

親の変化と向き合うのは、物理的にも精神的にも容易じゃなかった。

「追い込まれるから必死にやるんでしょうに……」――。以前、私が介護問題について書いたコラムに、こんなコメントをくださった方がいたが、その言葉の重さをつくづく感じた父との7ヶ月間だった(父はガンで亡くなりました)。

働いている人の実に5人に1人が「隠れ介護」で、その数は1300万人を超えるとされている(日経ビジネスより)

※「働く人の5人に1人(=1300万人)が隠れ介護」という数字は、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部の渥美由喜・研究部長兼主席コンサルタントの協力を得て試算されたものである。政府の公式統計(就業構造基本調査)では、約290万人となっているが、多くの専門家が、政府の調査は過小評価だと指摘している。

「会社には、親のことは話してません。周りに心配をかけたくないとか、自分の評価に影響するんじゃないかとか、あれこれ理由はつけられますけど、ただ単に言いたくなかったんだと思います。

介護で会社を辞める人って、理由は一つじゃないと思います。

結局、『今は両立は難しい』という言葉に、さまざまな問題が含まれている。実家と会社の往復など物理的な問題もあるけど、精神的な問題もかなり大きい。私の場合、自分の仕事のパフォーマンスが低下しているのがストレスでしたね。別に上司から指摘されたとか、ポカしたとかじゃないですが自分がそう感じたんです。

父が倒れてから、これでもか!っていうくらい両親のことが、頭から離れない。

会社で仕事に没頭しているとき以外は、ほとんどの時間が両親のことで頭が埋め尽くされる。

『こんなんで大丈夫か?』と自分が不安になった。つまり、自分が自分の仕事ぶりに納得できなくなったんです。

父親のことがあってから、母親も急速に衰えました。これは想定外の出来事でした。でも、よくよく考えれば、当たり前なんですよね。母親も70代後半ですから、環境の変化は大きなストレスです。私は今まで親が老いているという事実にすら、ちゃんと向き合えていなかったのでしょう。

なので、自分が後悔しないようにしようって思ったんです。そのためには、会社は続けられなかった。金銭的な問題もあるので両立できればよかったんでしょうけどね。やっぱり、後悔したくなかった。ええ、後悔したくなかったんです」

 

こう話してくれたのは、私がフィールドワークでインタビューしている50代の男性である。

彼の父親に“変化”が起きたのは、半年前のある晩のことだったそうだ。

昼間は元気だった父親が「頭が痛い」と、いつもより早くベッドに入った。

翌日、病院に行くと脳梗塞を起こしていることが判明。ひと月の入院を強いられ、退院したときには介護が必要な状況で、その後は日を追って年老いていったそうだ。

「このままでは、母もおかしくなる」――。そこで退職を決めたのだと言う。

  

介護問題の切なさは「介護離職」だけではない。

 数年前、埼玉で起きた心中事件で、逮捕された女性(47歳)の母親は10年前から認知症で、女性は付きっきりで介護。一家の生計は、新聞配達をする74歳の父親が担っていたが(月収18万程度)、体調を崩し退職。

女性は警察に「母親の介護に疲れた。貯金も収入もなくなり、父から『一緒に死のう』といわれた」と話したと報道されたが、恐らく多くの人たちが、この事件を知ったとき、せつなさと、むなしさと、他人ごとではないなぁ、という気持ちになったのではあるまいか。

警察庁によると、介護疲れによる殺人は年間50件。毎日新聞が、介護している自分の家族を殺害した「介護殺人事件」44件を調べたところ、半数近い20件で加害者が昼夜を問わない過酷な介護生活を強いられていたことが分かった。

 また、東海大学医学部の保坂隆教授らが2007年に、在宅介護者を対象に行った調査では、回答した8500人中、約4人に1人がうつ状態で、65歳以上の約3割が「死にたいと思うことがある」と回答している。

介護⇒離職、離職⇒貧困、病気⇒貧困、介護⇒孤立、介護⇒うつ、孤立⇒うつ……。ひとつの変化が負のスパイラルを作り出す。

 隠れ介護が1300万人もいるという現実。親やパートナーの変化に疲弊する“隠れ介護予備軍”の存在。その多くが40代以上で、管理職クラスの課長以上が半数を占める…。

そんな企業勤めをするビジネスパーソンの現実を、小室さんはカタチは違えど語ってくれたのである。