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自殺未遂53万5000人の衝撃ー20代はなぜ、死にたがるのか。

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:notsogoodphotography

「本気で死のうと思っている人はひとりもいなかった」ーーー。

9人を殺害・死体遺棄したとして逮捕された男は、取り調べで

そう語りました。

53万5000人ーーー。

これは過去一年以内に自殺未遂を経験した人の数です(推計)。

これまで「自殺未遂者は自殺者数の10倍程度」とされてきました。

ところが日本財団が行なった調査で、20倍近くいることがわかりました。

年代別では20代がもっとも多く、次いで30代と若い世代が続いています。

自殺者全体のボリュームゾーンは40代〜50代の男性です。

しかしながら先に示したとおり自殺未遂者は若者がダントツに多く

(23万人程度)、40代の1.8倍もいます(13万人程度)。

また、15〜34歳までの年代別死因トップは「自殺」で、20代では

亡くなる人の半数を占めています。

他の先進国のトップは「事故死」。自殺が占める割合も10%程度。

日本では「自ら命を絶つ」若者が突出しているのです。世界的にみても

「若者の自殺」が極めて深刻な問題であることは、これらの数字からも明らかです。

なぜ、こんなにも生きづらい世の中なのか?

なぜ、若者たちはこんなにも自殺したがるのか?

若い時には「友だち世界」が全てなので、ちょっとしたことで

「死にたい」と思うことは誰にでもあります。

私自身「自分がここにいない世界」を幾度となく想像しました。

でも、行動は起こさなかった。

だって、本気で死にたいと思ったわけじゃないから。

つまり、「死にたい」という感情と、

「自殺未遂する」という行動の間には

ものすごい距離が存在するのです。

「本気で死のうと思っている人はひとりもいなかった」ーー。

若者の「死にたい」願望は「私に気付いて欲しい。

『そのままでいいんだよ』と言って欲しい」というメッセージで。

自殺に至った人の中にも「本気で死のうと思っていなかった」

人も相当数含まれている……。そう思えてなりません。

大学の“教室”という空間で学生たちと接していると、彼らの生きづらさを

感じることが頻繁にあります。

本来であれば希望あふれる年齢なのに………。残念なことです。

見た目は一見“今風”のおしゃれな学生でも貧困に喘いでいたり、

一見“明るい”活発そうな学生でも自信喪失していたり。

彼らは“キャラ”を演じている自分に疲弊し、SNSで“リア充自慢”

する友人に気後れし、都内近郊の自宅から通う帰国子女の同級生に

嫉妬し、自分の気持ちを正直に表現できる勇気を持てず、

そんな自分に悩んでいました。

「ぶつかる」「立ち止まる」「変化する」ことを恐れているのです。

時代の風や空気に敏感な若者は、社会の不寛容さを肌でビンビンに感じている。

勝ち組だけにしか「未来」は存在せず、一度でも失敗をしたら再チャレンジが

許されないことがわかっている。

それは私たちオトナが暮す社会の生きづらさであり、閉塞感であり、

薄っぺらい“正義感”を振りかざす自称エリートの存在が、

彼らを息苦しくさせています。

なんてことを書いていくと……、ひたすら暗い気持ちになってしまうのですが、

せめて「そのままでいいんだよ。大丈夫だよ」と若者たちの背中を押して

あげられるオトナでいたい。

そして、自分自身も「ぶつかる」「立ち止まる」「変化する」ことを恐れず、

自分に正直に生きたい……。大人が恐れないことが若者に生きる勇気をもたらすことにつながると信じて。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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