全国決勝前日はオフで都会に繰り出す!? 「JOY」がテーマの清水ユースが日本一に輝く

「史上最弱」の声もはね除け、日本一に輝いた清水エスパルスユース(写真:片村光博)

全国へのテーマは「JOY」

「正直、予選突破が目標だった」

 MVPに輝いた清水エスパルスユースのGK梅田透吾は、大会途中にそんな言葉を漏らしていた。

 サッカーの高校年代クラブチーム日本一を決する日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会。Jリーグクラブのユースチームに所属する選手にとって、「夏の日本一」を目指す大事な大会が、7月23日から8月1日にかけて開催された。決勝に残った清水ユースはJリーグのユースチームでも指折りの強豪ではあるものの、今年は「東海予選もギリギリの通過ですから、『(全国に)出られればいいか』くらいに思っていた」(平岡宏章監督)というチーム状態で、大会前は「まるで注目されていなかった」(同監督)というのが偽らざるところ。プレシーズンの段階から思うような試合ができずに苦しんでおり、「史上最弱と言われた」(齊藤聖七主将)ほどだった。

 そんなチーム状態を受け、今大会に向けて平岡監督が掲げたテーマは「JOY(楽しもう)」。ある種の開き直りで、「結果を意識するより、まず楽しもうよということだった」(同監督)。これは今季の状態を踏まえたことであると同時に昨季の苦い経験を経ての決断でもある。

「一昨年に準優勝させてもらって、昨年は『優勝候補と言われまくった』。僕自身も気負ってしまって『昨年の忘れ物を獲りにいくぞ』と選手たちを煽ってしまった結果、硬くなってしまってグループステージ敗退。それもあったので、今年のテーマは『JOY』にさせてもらった」(同監督)

 鬼のように怖いこともある監督の提示したアイディアに選手側の戸惑いも多少あったようだが、齊藤主将は「まず自分が笑おうと思った」と振る舞って周りを引っ張り、大会に入ってから「段々みんなで楽しく笑ってリラックスした雰囲気になった」(MF川本梨誉)。今季は思うように試合内容が良くならない中でギスギスした雰囲気になっていた時期もあったようだが、怒りや嘆きといったネガティブな態度を出さないようにしていた指揮官と、率先して笑顔を意識した主将の下で、「決勝トーナメントに入ったくらいからどんどん雰囲気が良くなっていった」(梅田)。

決勝前日はオフ、渋谷に繰り出す

 激戦を勝ち抜いた末にたどり着いた決勝戦。気負ってしまいがちな状況だが、平岡監督は中1日となった時間を「オフ」にする選択。30分ほどのウォーキングのみで解散し、「せっかく田舎者が東京に来たんだから、渋谷でも新宿でも好きなところ行っていいぞ」と選手を解き放った。食事についても色々言いたくなる気持ちを抑えて「ラーメンだけはやめておけよ」と釘を刺すにとどめた。一言で食について意識はさせるけれど、ストレスにはならないようなさじ加減である。

「アクティブレストです。僕はボウリングに行って、めっちゃ盛り上がりました」と笑うのは齊藤主将。それ以外にも映画に行くものなど各人が思い思いの過ごし方で「都会を満喫しました」(梅田)。

「僕自身、高校のときに国体で優勝させてもらって、大学でも何度か優勝させてもらいましたけれど、やっぱり体以上に頭を休めることが大事だと思った」という平岡監督のアイディアだが、一昨年の決勝を前にしたときも同じようにリフレッシュする時間を設け、失敗したという感触も実はあった。だが、今大会は急にゆるめたのではなく、最初から「JOY」をテーマにやって来た中で与える休息である。大事な決勝を前に、ハメを外し過ぎてしまう選手たちではないという信頼から、再び同じ作戦を敢行。今度は監督の思惑どおり、選手はリフレッシュした状態で戻ってくることとなった。

「史上最弱」は言い過ぎだと思うが、大会前の下馬評に関して近年の清水ユースの中で最も低かったのは確かなところ。だが、その中で開き直った指揮官と選手たちが「まず楽しもう」と臨んだところ、結果がしっかり付いてきたという流れは興味深い。競技を問わず酷暑の連戦となることが多く、ある種の「苦行」となりがちな夏の全国大会だが、その舞台へ「JOY」の精神で臨み、最後は決勝前日に都会も満喫してしまった清水ユースが、42代目のクラブユース王者に輝くことになった。