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3歳は夏に鍛えて強くなる!今年注目の「夏の上がり馬」とは

勝木淳競馬ライター

「馬だって構えないで、人間と同じだと思った方がいい」

昨年、秋競馬に向けてある調教師に話を聞いたとき、何度かそんな言葉を聞いた。馬も人間と同じ。特にその調教師は3歳についてその表現を使った。サラブレッドの3歳夏は人間にたとえるなら、甲子園を目指す高校球児の感覚に近い。10代前半は故障のリスクがあるため、鍛えきれなかった球児たちが本格的に鍛錬を積み、そして鍛えた分、力になる時期に差しかかる。また、これまで開花しなかった才能が一気に開花するタイミングでもある。3歳馬にとっても、この夏は力を蓄え、その力で結果を勝ちとる大事な季節だ。まだ秋には牡牝ともに最後の一冠が残っている。

「夏の上がり馬」

秋華賞も菊花賞も時にそんな馬が逆転をかけ、人々を熱くする。夏の2勝クラス、3勝クラスでは、そんな存在になりえる候補たちを探そう。たとえば、01年菊花賞を勝ったマンハッタンカフェ。春は思うように賞金を積めずにクラシック未出走で終わり、夏の札幌で戦列に復帰したマンハッタンカフェは、500万下(現1勝クラス)の芝2600m富良野特別を勝ち、中2週で1000万下(現2勝クラス)の同条件・阿寒湖特別に出走した。単勝1.8倍の1番人気に支持されたなか、内枠から好位につけたマンハッタンカフェは勝負所で先に動いてきた馬たちに進路を譲る形になり、後退しながらも、最後の直線で一気に逆転した。春にはなかった大人びたレースぶりが秋への布石となった。その後はセントライト記念4着、菊花賞1着、そして有馬記念まで手中に収め、頂点へ駆け上がった。

翌年の阿寒湖特別はファインモーションが勝った。デビューから6連勝。ローズS、秋華賞、エリザベス女王杯まで止まらなかった。阿寒湖特別はその少し前にはステイゴールドが勝ったことでも知られるレースで、いまでも、当時の競馬を知る者はつい阿寒湖特別に特別な感情を抱いてしまう。今年は1回札幌4日目7月30日に組まれている。

菊花賞と言えば、17年覇者キセキも夏の上がり馬だ。春は毎日杯3着で終わり、クラシック未出走だったが、7月中京で復帰後は連勝で3勝目をあげた。とりわけ8月の新潟で行われた信濃川特別(芝外2000m)は圧巻だった。いくら直線が長い新潟とはいえ、後方待機から残り200mで軽く気合をつけられる程度で先行集団に余裕で並びかけ、いざ追い出されるとあっという間に後続を突き放し、追いすがるブラックプラチナムを退けた。上がり32.9は、以後のキセキのイメージとは少し違うが、古馬2勝クラスでの力差はまさに本格化の合図だった。

さて、今年の夏の上がり馬はどうだろうか。注目は6月の東京で行われた2勝クラス町田特別を勝ったキングズレインと夏の中京開幕週で同じく2勝クラスを勝ったサスツルギだ。キングズレインが勝った町田特別は前半1000m通過1.04.9の超スローペースだったものの、後半1000mは11.7-11.6-11.0-11.2-11.8、57.3と持続力を問うスプリント勝負になった。好位から上がり最速タイ33.7で勝ったキングズレインは父がキセキと同じルーラーシップで、母はリッスンの仔タッチングスピーチ。サドラーズウェルズを持つ母は3歳夏に2勝目をあげ、秋にローズSを勝った。キングズレインは血統的にも夏の上がり馬の資格を十分にもつ。

サスツルギの父は晩成で知られるハーツクライ。覚醒して勝ち始めると止まらないという特徴を持つ。目下連勝中だけに今後は注目だ。兄タワーオブロンドンはスプリンターだが、3歳春までに重賞2勝したあと、3歳後半から4歳にかけて本格化し、4歳秋にスプリンターズSを制した。母スノーパインはキングズレインの母タッチングスピーチと同じく母系にサドラーズウェルズを持っており、父母ともにこれから本格化しても不思議ではない。

日本ダービーは1~4着までタイム差なしという前例なき決着で幕を下ろした。ダービーで一つの結論がくだされたわけだが、その力関係、序列はまだまだ揺らぐ余地もある。キングズレイン、サスツルギの動向に注目しつつも、まだまだ夏はこれからなので、ほかにも夏の上がり馬が出現するのか楽しみにしたい。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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