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天気も競馬の一部。10月GⅠと天気、その関係とは

勝木淳競馬ライター

■今年は雨が多い

競馬には様々な運が必要になる。最初から運を祈るわけではないが、あらゆる手を尽くし、やれるべきことをすべて実行し、その上で最後は運を祈る。そう語る関係者もいる。競馬における結果は、自分ではどうにもならないことにも左右される。その最たるが天候だ。何人もお天気だけは変えられない。そしてあらゆる天の恵みがなければ、競馬は成り立たない。閉じた空間で競馬はできない。

この夏以降、週末に天気が崩れる日が目立つ。夏の新潟12日間のうち、当日朝、馬場発表が良だった日は8日。残り4日はやや重だった。秋の中山は9日間で3日は良以外。特に関東圏の週末は雨に祟られる日が多い。

天候がもたらす馬場変化も含め、競馬だ。競馬もポジティブ思考は大事で、あらゆる状況変化を味方につける心構えがほしい。やはり競馬は人生。自分ではなんともしようがないことにも対応しないといけない。心も鍛えられる。それは百も承知の上で、せめてGⅠ当日は清々しい青空と良馬場で迎えたい。

しかし、秋シーズンに突入した10月も天候は安定しない。先週の3日間競馬における朝の馬場発表は東京がやや重2日、阪神がやや重と重が1日ずつ。どちらも朝の時点で良発表は1日にとどまった。そこで10月のGⅠ3レースと天気について、2000年以降で調べた。

■秋華賞

10月3週目の日曜日は晴れる日が多く、2000年以降、秋華賞の天候発表は晴れ19回。曇り2回、雨は2017年ディアドラが勝った年1回。馬場発表が良以外だったのは4回。もちろん、GⅠは馬場発表が晴れ、良馬場になりがちという点は差し引きたいが、牝馬クラシック最終章は天候に恵まれる。

ただし、17年以降の直近5年は良2回、それ以外3回と、最近は馬場変化が起きやすい。印象的なのは重馬場だった17年ディアドラ。当日は小雨ではじまり、3レースから雨。秋華賞は泥んこ馬場のなか行われた。カワキタエンカが飛ばし、1、2番人気アエロリット、ファンディーナがついて行く展開で、前半1000m通過59.1。向正面で徐々に前と後ろの差が開く息の入りにくい流れになった。後半は馬場の影響も加わり、加速できず、タフさを求められた。勝ったディアドラはのちに英国ナッソーSを制し、2着リスグラシューは5歳時に豪州コックスプレート、同一年グランプリ連覇を遂げた。

なお2000年以降、三冠達成がかかったケースは6回で、三冠達成は2009年ブエナビスタを除く5回。このうちやや重発表は20年デアリングタクトの1回。残りはすべて良馬場だった。三冠がかかる大事な競馬は晴天のもとでやりたい。

今年は当日の阪神競馬場周辺の天気予報にあった小さな傘マークは消えた。どうやら降りだしはかなり遅く、日曜日の仁川は良馬場で行われそうだ。

■菊花賞

逆に牡馬三冠最終章は天候も馬場も厳しい年がある。天候発表の内訳は晴れ13回、曇り5回、小雨・雨4回。一方で、馬場発表が良以外だったのは2回。いずれも不良馬場だった。13年エピファネイア、17年キセキがそれにあたる。

13年は朝から直前の10Rまで発表は雨。馬場は掘れるわ滑るわという過酷条件。初の3000m戦で極悪状態の馬場、この条件下でエピファネイアは抜群の手応えで好位から抜け出し、2着に5馬身差。春二冠馬不在と相手に恵まれたとはいえ、圧倒的な力にエピファネイアのポテンシャルと凄みをみた。

これをさらに上回る過酷な菊花賞がキセキの17年。この週は土曜日朝から発表は雨。まる二日ずっと雨に見舞われた。馬が走ると水しぶきがあがるほどの極限状態。馬群は内側を避けるように進み、コーナー6回でより長い距離を走った。2周目4コーナーで一団になる激しい競馬を制したのは大外を攻めたキセキ。終始外を回る内容は無尽蔵なスタミナぶりを証明した。

勝ち時計3.18.9は14年トーホウジャッカルが記録したレコード3.01.0とは17秒9差。時計判断の範疇を超越した戦いだった。その後、キセキはGⅠで数々の名勝負を演出、その根底には菊花賞でみせたタフさ、我慢強さがあった。今年の天気は現時点では不明だが、阪神3000mという京都より厳しい舞台に挑戦するだけに雨は勘弁してほしい。

■天皇賞(秋)

こちらもスカッと晴れる日は多くなく、天候発表は晴れ12回、曇り8回、雨2回。馬場も良16回、やや重3回、重2回、不良1回と10月GⅠレースではもっとも馬場悪化が多い。テイエムオペラオ―が自身の生涯でGⅠ最大着差をつけた00年とアグネスデジタルに出し抜けを食った翌年は重馬場だった。不良はキタサンブラックがまさかの後方追走からインを突き抜けた17年。2017年は3レースとも雨の影響を強く受けた。秋の天候は移動性高気圧の影響が強いとされ、周期的に変化する。今年もこの周期に入らなければいいが。

主に馬場が悪化したレースについて振り返ったが、天気がアシストする名勝負も存在すると同時に、天気と馬場が名馬たちの底力を改めて証明してみせることもある。ディアドラ、エピファネイア、キセキ、テイエムオペラオー、キタサンブラック。どの馬も良馬場ではわからなかった部分がある。せっかくのGⅠは秋晴れ、緑深き芝で行われてほしい。そう願う一方で、条件が悪化したからこそ観られる競馬もある。どちらも名勝負であることに変わりはない。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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