大人のひきこもりを救えなかった自立支援施設を考える 「新東名高速で男性飛び降り死」ニュースの衝撃

被害に遭った男性は、「自分も、車に乗せられている間、飛び出せないかと思っていた」

本人が知らないうちに親や家族が契約した、一部の共同生活型のひきこもりの自立支援業者によって、暴力的な扱いやだまし討ち、人権侵害行為を受けたなどと被害を訴える声が止まない。そこで行われていたことが、支援とは到底言い難い内容だったことを後から知って、悔やむ親や家族も少なくない。消費者トラブルに発展している例もあるが、ひきこもり支援そのものに、法的な規制の枠組みがないため、野放しになっているのが現状だ。

こうしたいわくつきの「支援」を行っている業者は、いわゆる「引き出し屋」「暴力的支援団体」とも呼ばれる。

施設の運営会社を相手取った民事訴訟は、現時点で少なくとも2施設に対して計4件にのぼっている。筆者がこれまで、50人近い被害者や家族、施設関係者を取材した範囲では、さらに複数の提訴をうかがう動きがある。

そんななか、浜松市内の新東名高速自動車道で14日夜、神奈川県内の「自立支援施設」に向かう車中から神戸市の30代の男性が飛び降り、複数の後続車に衝突して亡くなったというニュースが飛び込んできた。

■ 事故の背景に「ひきこもり」の情報

15日夕方に各社の記事が配信された段階では、メディアによっては、「福祉施設」と報じていたところもあり、どこにも「ひきこもり」というワードの記載はなかった。

しかし、このニュースは瞬く間に、ひきこもりの当事者や関係者の間で話題になった。高速を走る車から飛び降りようと思ってしまうほど、男性が追い詰められていたであろう状況が容易に思い浮かび、長距離を新幹線ではなく、施設の車で連れて行くという点と併せて、事故が、「引き出し屋」による手法を彷彿とさせたからだろう。

昨年12月に、連れ去り被害に遭った東京都内の男性(30代)は、「自分も、車に乗せられている間に、飛び出せないかと思っていた。同じ施設の被害者の人も、LINEに同じことを書き込んでいた」と話す。他人事ではないと、被害者たちは事故のニュースに衝撃を受けている。

静岡県警が、この男性の死亡の件を、「自殺」として処理するのか、業務上過失致死等の「事件」としてみていくのかは、私にはわからない。ただ、複数の関係者の話では、亡くなった男性は、「ひきこもり」だったという。

神奈川県の、少なくとも病院ではない施設に男性が移送されることになった背景に、亡くなった男性の「ひきこもり」の状態がある――。

もし、親や家族が、男性の「ひきこもり」に絡んだ悩みを持ち、状況を変えるために施設側に依頼して移送を行っていたのだとすれば、それが何の施設かに関わらず、男性の飛び降り行為を単純な自殺とみなしてはいけないと考える。

■ 被害者たちが語った恐怖と理不尽

ここからは、事故の施設の話とは別になるが、あくまでも冒頭に挙げたような、引き出し行為を行うひきこもり自立支援施設による被害事例を紹介したい。

ある日突然、知らない人たちに連れ出されることになった経験や、そこからの生活が、どれほどの恐怖で理不尽なものだったか。被害者たちは、この1年、次々と語り始めている。

これらの記事が出た後、筆者のもとには、問題とされた支援施策が改善されたらしい、といった話もわずかに伝わってきている。しかし、これらの記事に登場していない他の被害者の話と照らしても、暴力的な手法や人権侵害が常態化している施設が、いくつも存在しているのは確かだ。

「ここに連れてこられるってことは、そうなっても仕方ない人たちなんでしょ」

神奈川県内にある施設寮の前で、近所に住む年配の男性がそう話していたのに驚いたことがある。

「そうなっても仕方ない人たち」とは、どんな人たちを指すのか。施設側が、周囲にそううそぶいているのか、あなた自身の考え方なのか……。議論したくなる言葉を飲み込み、その場を離れた。

何者かもわからない相手によって、同意なく、知らない土地の、よくわからない施設に突然、連れていかれる。それは、拉致や誘拐ではないのか。いったい誰がどんな根拠で、「そうなっても仕方がない」と判断するのだろう。

■ 「支配」を用いる異様な「自立支援」

じつは、こうした連れ出しには、少なくとも、本人が「ひきこもり」だったか否かは、あまり関係がない。

最近、筆者のもとに連絡してきた30代の男性被害者は、「好きな仕事に就いて、すごく充実していたのに、親の気に食わない仕事だったという理由で施設に入れられた」と憤っていた。

また、家庭内で喧嘩が絶えなくなっていた頃、妻と妻の親族によって、施設に入れられてしまった30代の男性被害者もいる。彼は当時、転職活動中で、前の仕事での残務処理もあった。ある日突然押しかけてきた施設職員4~5人に執拗に施設に行くよう迫られ、「転職エージェントには、『仕事が決まった』と嘘の電話をかけ、仕事の引き継ぎ相手には、『ごめんなさい、どうしてもいけないです』と、断りの電話をかけた」という。

さらに、年内に判決が出る予定の裁判の原告女性は、押しかけてきた施設のスタッフらに、一方的にひきこもり扱いされたことに、いまも疑念が拭えないでいる。しばらく小説に取り組むと決めて、家で執筆していた。ネットに小説を発表して、収入も得ていた。「ファンとの交流が楽しかった」というような、ささやかな日常が、たった一度の親子喧嘩をきっかけとして、ある日突然、「暴力団の関係者」を名乗る女性と共同生活する恐怖の日々に一変したのだ。

これらを「自立支援」と呼ぶには、あまりにも異様だ。行われているのは、支援ではなく、支配、人生の乗っ取りだからだ。

3つの例は、それぞれ別の施設によるものであるが、全ての被害事例に共通する点がある。

親や家族と施設が、本人の全く知らないところで一方的な見立てを元に契約し、生き方を他人が勝手に方向づけていることだ。私がこれまで話を聞いた被害者の全員が、「ひきこもり」に関する専門職による事前のアウトリーチ(訪問)をうけていない。

引き出し業者と契約をしてしまった親や家族たちが会ってくれる機会はそう多くはないが、筆者がこれまで話を聞けたほとんどの場合、本人に前もって共同生活型の自立支援施設に入寮することを伝えることを、施設側から断固として止められていた。

上の3事例は「ひきこもり」ですらないが、もしも本人が「ひきこもり」状態だったなら、なおさら、外に連れて行く前に時間を掛けて本人に会い、本人の意向の確認と、適切な支援の見立てを、丁寧に行う必要があるだろう。

■ 悪質かどうかの見分け方なんて、「ない」

今年5月から6月にかけて立て続けに起きた、登戸の殺傷事件や、練馬の刺殺事件後、Yahoo!ニュース個人で、こんな記事を書いた。

これを読んだ人から、「悪徳業者の見分け方を教えてほしい」という問い合わせを受けることがある。

「見分け方」なんて、ない。いつもそう答えている。

ウェブサイトやパンフレット、施設スタッフによるブログには、悩んでいる親や家族を「釣る」ためのうたい文句が並んでいるからだ。

経営者のカッコいい写真、関係者の立派なプロフィールや著作物、国のひきこもり調査のまとめ、高い専門性や職業倫理をうたう記述。そうしたなかに、「9割以上が就労・進学・復学」「年間5000件の相談実績」等、怪しげな表現が混ざっている。

また、メディアでの掲載実績のページには、その施設を好意的に取り上げたテレビ番組を、施設関係者が違法アップロードしたとみられるYouTube映像が貼られている。著作権者であるテレビ局や番組には、被害者たちからのクレームが入っているはずだが、放置状態が続いているのだ。

こうした映像に安心し、契約してしまった30代の息子を預けた母親は、「テレビ局がおすすめしている支援施設なんだから、大丈夫だと思った」と言っていた。

契約した親や家族の責任について、被害者本人たちの強い思いはあるだろうし、どう捉えるかについてはケースによるだろう。明らかに「子捨て」や「虐待の外注化」の例もあるが、私が話を聞いてきた限り、その親、その家族なりに、吟味した結果、契約してしまったという例も少なくない。

施設のウェブサイトには、悪徳業者に関する注意を呼びかける文言までも掲載されている。悩んでいる親たちが目にして判断する材料のなかに、安心させる仕掛けが散りばめられている以上、家族教室などに出ていて、多少のひきこもり支援に関するリテラシーが備わっているような親であっても、信用してしまうのだ。

事態を重くみたKHJ全国ひきこもり家族会連合会では、今年6月から、<「暴力的支援」対策プロジェクト>を立ち上げた。悪質な支援施設の情報収集と共有を始めている(メールでの問い合わせ:info@khj-h.com)。

「役所にも行った。保健所のアウトリーチは1回で終わってしまった。家族会にも行ったが答えを見つけられなかった。私の悩みを真剣に聞いてくれたのは、あの施設のスタッフだけだった」

最近取材した80歳の母親は、悪質業者との契約に至った状況をそう振り返った。

悪質な自立支援を行うひきこもり支援施設の台頭は、これまでのひきこもり施策において、福祉の視点と、家族支援が貧弱であったことの裏返しなのだ。