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山に登る目的はなんですか?みんなが行くからじゃない!自分のための山歩きを見つけよう。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
あなたは神秘的な青い湖面と枯死した樹木に何を感じる?*記事中の写真は筆者が撮影

 山岳遭難ニュースを見てどんなイメージを持たれるでしょうか。その実態は二つと同じものはないですが、最近に起きたニュース記事をみると特徴的な傾向が見て取れます。今回は現代における「山に登る理由」と「自分のための山歩きを見つける」ポイントです。参考にしていただけたらうれしく思います。

 お断りがあります。

⇒未知なる登山を目指す人、他人と違う登山を創造する人には読む価値が無いとあらかじめお断りしておきます。

二日がかりでたどり着く花の楽園は期間限定*記事中の写真は筆者が撮影 
二日がかりでたどり着く花の楽園は期間限定*記事中の写真は筆者が撮影 

 最近の遭難ニュースに触れてこんな感想を持ちました。

1:60歳以上高齢者

 加齢による体力低下の認識不足と登山経験とのミスマッチが多く、無理な計画となりやすい。また、過去の経験に囚われた判断のミスや遅れを起こし易い。

60歳から始める山歩きは人生を豊かにする

2:登山向け体力不足

 日頃の健康状態は良好でも山を歩く能力は別物だという認識が必要である。行動中の管理能力不足が顕著で無理な登山行動を続けやすい。

掛け声だけでは不十分、初心者と一緒に登山を楽しむために

3:単独行動中の怪我や道迷い

 単独登山以外に仲間はぐれによるものも含む。小さなトラブルから大きなトラブルに拡大しやすい。

先に行ってるね。ハイキングでの「仲間はぐれ遭難」が絶えない原因

4:富士山など著名な山々

 登山者が多く情報入手が容易である。玉石混交のデータから都合の良い情報の抜き取りが起きやすくなる。人ごみを避けるレジャーのひとつとして登山を選ぶ方にこの傾向があります。

気ままに歩く山歩き *記事中の写真は筆者が撮影
気ままに歩く山歩き *記事中の写真は筆者が撮影

 コロナが蔓延しだして3年の年月がたとうとしている中、自分の健康、家族の健康を考えて食生活や運動習慣に関心を持つ人が増えてきています。

withコロナ時代、病気でなければ健康ですか

山に登る目的

 心の健康、肉体の健康に良さそう、素敵な景色に癒されたい、可憐な花々に出会いたい、巨木に出会いたい、友達と楽しい時間を過ごしたい、などが多くの方の登山の目的かと思います。

 「そこに山(エベレスト)あるから」などといった哲学的ものではないと思います。普段とは違う景色に見慣れぬ動植物との出会いなど非日常に感動し、肉体の疲労と暑い寒いといった肉体へのストレスに戸惑いながらも、自分の限界点が伸びる実感と頂上に到達する達成感は汗を流す実体験からしか得ることはできません。

 生き物として基本である歩行を通じて心身のバランスが整っていくという実感も感じることができるでしょう。

北アルプス夕暮れの大キレット *記事中の写真は筆者が撮影 
北アルプス夕暮れの大キレット *記事中の写真は筆者が撮影 

 経済的に恵まれて便利で快適な生活を送れても、長生きで健康生活を維持できるとは限らないのです。適度な運動負荷と感動、美味しくいただく食事と良い睡眠という条件を満たす登山はその解決手段の有力候補のひとつだと思っています。

 登山を自分の継続していく動機付けのひとつとして、日本百名山などの登頂を目指すのも良いかと思います。一つの登山の形です。

穂高の峰と沈む満月 *記事中の写真は筆者が撮影 
穂高の峰と沈む満月 *記事中の写真は筆者が撮影 

「自分のための山歩きを見つける」

 登山を自分の人生を豊かにする手段と位置付けることです。

 どうやったらあの山に登れるか、どんなところかなどといった情報を集めるのを優先するのではなく、まずは自分の好きなジャンルを振り返ってみることが大切です。

 自分で確かめてみよう、本物を見てみよう、というのが私のお勧めです。目的は人それぞれです。他人と比較して優劣を比べるものでもありません。強いて言うならば、自分自身との闘い、自分の弱さとのせめぎ合いとも言えます。

 時には腹八分の余裕をもって登山を切り上げる=下山するということは遭難を起こさない極意ともいえるのです。

1:頂上やルートのストーリーに関心がある

2:汗をかきながら登り下りする体力つくりに関心がある

3:山岳を舞台とした寺社仏閣や歴史に関心がある

4:地形地質火山など景観事態に関心がある

5:植生や高山植物などに関心がある

6:仲間・家族と一緒に歩くひと時が大切である

旅は心を豊かにしてくれる夕暮れの機上で山旅を振り返る *記事中の写真は筆者が撮影
旅は心を豊かにしてくれる夕暮れの機上で山旅を振り返る *記事中の写真は筆者が撮影

 目的が何であれ、老若男女、初心者、経験者といった入山者を山は差別することはありません。山を楽しく終わらすことができなかった責任は登山者自身にあります。

 最近の遭難の多くは自分自身の体力不足とその認識不足、経験不足を我がこととして実体験していないことに起因していると推測します。

 様々な電子デバイスと地図アプリは遭難の予防と救助に役立つ一方、自分自身の肉体や精神の限界を実地で試しつつ成長していくというスポーツ界ではごく当たり前のプロセスを蔑ろにしているともいえます。

 何を最優先とするかといえば、凸凹した山道の登り下りを荷物を背負って歩き続けられる歩行力なのです。テクニックや道具類、電子デバイスとアプリは歩行力という体力の土台があってこそ役立つのです。

夕暮れ迫る中での遭難者救助 *記事中の写真は筆者が撮影
夕暮れ迫る中での遭難者救助 *記事中の写真は筆者が撮影

 山岳地帯で救助要請の発信を警察消防に行った時点で遭難となります。通報後に自力下山したとしても遭難一件です。

 本当に困っている遭難者に救助の手が届くようにするためには私たち一人ひとりが自立した登山者を目指すことが大切です。

 お盆を過ぎると朝晩はめっきりと冷え込みを感じる日もでてきます。

 楽しい登山を!

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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