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高齢化時代、生き生きと登山を続けるためにやると後悔することとは?

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
六甲山は都会に近く憩いのエリア!元気をもらおう!  ※写真はすべて筆者が撮影

 2023年における山岳遭難事故件数が過去になかったくらい増大しているという報道を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。自分自身の趣味が登山の方も家族友人に登山を趣味にしているという方にとっても、他人事と片付ける訳にはいかない要因が隠れているのです。

 ”まさか!自分は十分に気をつけているから!”と言い切れないところに落とし穴があるのです。遭難の要因を見るだけでは事故や遭難が減らない理由を探っていきます。

秋は派手なのに何処か物悲しさを感じる ※写真はすべて筆者が撮影
秋は派手なのに何処か物悲しさを感じる ※写真はすべて筆者が撮影

 登山に出掛ける人の背景をざっくり俯瞰してみましょう。

 かつての百名山登山ブームをけん引してきた世代が70歳代を迎え、山ガールと呼ばれるブームの一翼を担った現在の中高年世代は仕事に!家庭に!介護に!という環境の中で登山に出掛けていることでしょう。コロナ災禍で運動不足のまま貴重な日々をやりくりしている姿が想像できます。

 平成生まれの若い世代は豊富な情報とIT技術、Light&Fastといった高機能用品の恩恵を受け、体力と経験そして根性といった昭和を蹴散らす勢いで山に向かっているかもしれません。

 令和の登山スタイルが成熟していくにはまだ時間が必要かもしれませんが、登山は容赦しない自然環境の中で生身の人間が行う行為なのだということは近代化され装備が進歩しても変わらぬ点であると強調しておきます。

自然に触れあう ※写真はすべて筆者が撮影
自然に触れあう ※写真はすべて筆者が撮影

 さて、登山に出掛ける人々の背景は色々ある中で、今回は高齢化と登山の関係に注目していきたいと思います。

 70歳代にはいっても元気な人が多い超高齢化社会、登山界においても例外ではありません。生涯スポーツとして社会に定着させていくためには多様な登山スタイルを寛容する意識を持たなくてはなりません。

たとえ落ち葉になっても一枚一枚が光り輝く ※写真はすべて筆者が撮影 
たとえ落ち葉になっても一枚一枚が光り輝く ※写真はすべて筆者が撮影 

 その前にあなたへ質問です。

1:他人の体験であるSNSや動画を見るのが好きである

2:最新の装備や道具を揃えることは重要だと思う

3:楽しかった山の想いでに時を忘れるほどである

4:頂上に立たない登山は物足りないと感じる

5:追い越されるより追い越す方が充実すると感じる

 いかがですか。いくつか思い当たることはあるでしょうか。

もうすぐやってくる冬の訪れをまえに ※写真はすべて筆者が撮影 
もうすぐやってくる冬の訪れをまえに ※写真はすべて筆者が撮影 

 登山は自然の中で行うものですから、他人への迷惑や自然環境を破壊しない配慮のもと、様々なスタイルの登山において安全対策をしているはずです。

 それなのに怪我や事故、体力不足による遭難はどうして起きてしまうのでしょうか。

 ここでもう一度ニュースを思い出して欲しいのですが、キーワードは「高齢者・動けない・足が攣った・暗くなった・転倒・骨折など」です。

 どれも登山の技術に関することではないのです。遭難は山が危険だから起きるのではなく、人間が起こすミスや要因から発生しているのです。

晩秋の那須 心と身体と現実とのギャップに気をつけよう ※写真はすべて筆者が撮影 
晩秋の那須 心と身体と現実とのギャップに気をつけよう ※写真はすべて筆者が撮影 

 高齢化に伴う機能低下は登山を日常習慣とする元気な高齢者であっても例外ではありません。

 誰にでも必ず訪れる宿命なのです。筆者ももうすぐ仲間入りです!他人事ではありません。

1:体力脚力の源である筋肉量の低下

 歩行スピードだけでなく、登りも下りに重要な大腿四頭筋が弱まれば、足の引き上げが難しくなります。筋肉量の低下は体温維持にも不利となります。

2:骨格からのカルシウム減少

 姿勢の悪化は背負える荷物量の低下を起こし、骨密度低下は小さな転倒からの骨折が起きやすくなる要因となります。

3:視力と視野・聴力の機能低下

 夜間早朝夕刻は薄暗く、登山道の凸凹やホールドスタンスがわかりにくくなります。仲間同士の注意や指示も聞こえにくいので正しく伝わりにくくなります。

4:認知能力の低下

 技術経験・体力気力の自分自身の現状把握、危険要因の把握と伝達と行動、複数要因の認識、地図と地形や行程管理など、自分を守る基本能力が減少してきます。

 5:協調性の低下

 過去の経験や実績に固執して、アドバイスや忠告を受け入れにくくなります。

6:動的バランス力の低下

 素早い動作が困難になるだけでなく、かつてできていたという記憶と現実とのギャップが生じるのでヨロヨロしたり、転んだりし易くなります。

 これらの点を補う健康的な日常生活を意識したトレーニングはとても大切です!

 しかし、過去の自分を懐かしむことは止めてしまうことも強くお勧めします。

 今が一番若いのです!

 リスクの把握はチャンスです。他人の評価など気にしない私流登山にチャレンジしていきましょう。

 次回は「脳がよろこぶ!私流ワクワク登山」のご紹介です。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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