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心と身体を健康にする「頑張らない山道歩き」を最高にする5つのポイントを紹介します。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
早咲の河津桜は冬を乗り越えたメジロにはご馳走ですね。*記事中の写真は筆者が撮影

 北海道から沖縄までの長大に連なる日本列島と島々には海抜ゼロメートルから3000メートル級の山々まで実に多様な自然環境があります。皆さんのお住まいはまだ真冬でしょうか。それともロウバイが香り、梅がほころぶ春を感じているでしょうか。

 現在は旅行や観光での人の移動は活発にできませんが、令和三年(2021年)はお住まい地域にある素晴らしい自然環境の恩恵を探してみる良い機会と思っています。

 ご紹介するのは今日からできる「頑張らない山道歩き」です。四季五感で感じながらゆっくり歩いて心と身体のバランスを取り戻していきましょう。

月の満ち欠け、月の引力は私たちにどのような影響を与えているのでしょうか。今年の5月には皆既月食が観察できるようです。
月の満ち欠け、月の引力は私たちにどのような影響を与えているのでしょうか。今年の5月には皆既月食が観察できるようです。

国立天文台 月食一覧

 時には暖かい恰好をして夜空を見上げてみるのも良いものです。

南信州 富士見台高原にて
南信州 富士見台高原にて

 新緑の季節はまだまだ先ですが、自宅やご近所のお庭や公園の植え込みの木々を見てみましょう。堅かった冬芽はほのかに色づき、膨らみが増したように見えます。

ロウバイは蝋細工のような花弁と強い香りに特徴があります。
ロウバイは蝋細工のような花弁と強い香りに特徴があります。

 1:歩くことは生きること、急がず歩いていきましょう。

 健康つくりの指針として一日に一万歩歩くことを提唱されているようです。ひと月に2~3回はアップダウンがある山道を有酸素領域の負荷で歩ければ理想的ですが、難しいことも多いかと思います。平坦な地域にお住まいでも、ささやかでも神社にある階段や坂道も取り入れて活用したいものです。

 実は歩数計に刻まれた一万歩よりも大事なことがあります。それは軽く息が弾むくらいの心拍数状態で2000歩程度歩くなど、メリハリを取り入れることといわれています。

 運動によって血流などの循環が活発になると脳血流も多くなることをご存知でしょうか。そういった状態のときに五感が刺激されることで本当に気持ちよくなり、リラックスしてきます。

 息が上がるほど頑張るのは逆効果で怪我や不調を引き起こしてしまうので、頑張り屋さんは要注意です。

水は長い年月をかけて岩を削っていきます。滝の繰り返される音を無心になって聞いて心を空っぽにしてみましょう。
水は長い年月をかけて岩を削っていきます。滝の繰り返される音を無心になって聞いて心を空っぽにしてみましょう。

 2:余裕を持って五感で感じてみましょう。

 感覚は人それぞれ異なります。

 きれい!など、感動の言葉を口にしてみることをお勧めしています。ちょっと照れくさいかもしれませんが、幸せ気分アップの効果は抜群です。

 感動の強制はできませんが、普段見過ごしているものに気づきを与えてくれる感動の言葉を聞いたり、口にしたりすると脳活動が活発になっていると私は感じています。

 皆さんも試しにやってみてはいかがでしょうか。

 さて、森の中に入ってきました。ちょっと立ち止まってみましょう。

5月は新緑、11月は紅葉と同じコースを季節を変えて歩いてみましょう。
5月は新緑、11月は紅葉と同じコースを季節を変えて歩いてみましょう。

 見上げてみて、見回してみて、会話を止めて、耳を澄ませて、風が流れを感じ、微かな香りを探ってみましょう。

  •  視覚:新緑や紅葉、景色
  •  聴覚:鳥のさえずり、風や水の音
  •  触覚:肌に感じる気温、樹肌の感触
  •  臭覚:花や樹液の香り
  •  味覚:食べ物や果実

シジュウカラ。立ち止まり森と一体化してくると、梢を飛び交う小鳥たちが見えだしてきました。
シジュウカラ。立ち止まり森と一体化してくると、梢を飛び交う小鳥たちが見えだしてきました。

 山を歩くことだけ、頂上に行ってくるだけ、身体を思いっきり使うことだけ、そのような登山とは一味違う「頑張らない山道歩き」は体力が無い方にもお勧めです。

ただただ眺めるだけでも悠久の地史がつくりだした風景は人にちからを与えてくれます。
ただただ眺めるだけでも悠久の地史がつくりだした風景は人にちからを与えてくれます。

3:ただその場に立ち尽くす、瞑想してみましょう

 目標をもって何かを成し遂げることを強いられることが多い日常です。ぼーっとしながら深い呼吸をしてリラックスしてみましょう。

 行動計画は休憩や様々な観察をする時間を見込んで余裕を持たせるようにしましょう。

 さて、少し休憩が長すぎたようです。身体が冷える前に山道歩きを続けていきましょう。歩くスピードは軽く息が弾むくらいで会話できるくらいです。

言葉を交わさなくても通じ合える仲間とのひとときも大切にしたいですね。
言葉を交わさなくても通じ合える仲間とのひとときも大切にしたいですね。

 活発な会話は控えなくてはいけない環境ですが、友人知人、家族との会話は心の平和にとってとても大切なことです。

 時には広々とした開放空間である自然の中で過ごしてほしいものです。

4:森の様々な香り、森林浴でリラックスしましょう

 初めて感じる香りもあるでしょう。樹木がつくりだすフィトンチッドといわれる化学物質、落ち葉から出てくる香りなど森には様々な香りに満ちています。

森林浴の効果を科学する:千葉大学の宮崎良文教授

ウコギ科のタカノツメは落ち葉となると香ばしいほうじ茶のような香りを登山道に漂わせます。
ウコギ科のタカノツメは落ち葉となると香ばしいほうじ茶のような香りを登山道に漂わせます。

 森林の力を全身に浴びる森林浴という言葉は日本がつくりだした良い言葉ですね。緑豊かな森林に行けないときは、庭やベランダの観葉植物を見ながらのティータイムでも素晴らしい効果があるといわれています。

 森には命が溢れています。一方、そこでは厳しい生存競争が展開され、植物も激しい太陽光線の争奪戦を繰り広げています。

山のハーブの代表格、クロモジの香りは本当にリラックスさせてくれます。
山のハーブの代表格、クロモジの香りは本当にリラックスさせてくれます。

 5:歴史や地学や生物学を山道を歩きながら学んでみましょう

 何歳になっても好奇心は大切です。知ったかぶりは損です。友人知人の話を面白がって聞いてみると意外な発見と喜びがあるものです。

 机上でなくパソコンやテレビの映像ではなく、今まさにそのフィールドにいることが大切なのです。

修験者が歩いた険しい山道にはある祠
修験者が歩いた険しい山道にはある祠

 歴史好きにとっては山道は修験者や商人や武士が歩いた古の道であり、要衝には山城跡を見つけることができます。何気ない裏山がかつての歴史の舞台であったかもしれません。

伊豆半島中木の柱状節理、日本全国にあるジオサイトを調べてみよう。
伊豆半島中木の柱状節理、日本全国にあるジオサイトを調べてみよう。

 日本列島はユーラシア大陸から分かれ、海洋プレートが運んだ様々な種類の岩石から出来上がっています。火山も多く、全国にユニークなジオサイトがあります。

 山の頂も何故?が一杯詰まったジオサイトなのです。

兵庫県加西市の網引湿原のハッチョウトンボの雄 地域の財産として保護されています。
兵庫県加西市の網引湿原のハッチョウトンボの雄 地域の財産として保護されています。

 草木の名前や植生、そこに生きる昆虫や動物に目を向けると自然が人間のためにあるわけでないことを実感させられます。

 健康維持目的の山歩きに出かけるときには、小まめな行動食と水分の補給を忘れず、小さな歩幅・段差を意識してゆっくり歩くようにしていただくようお願いします。

 登山・ハイキングは老若男女全ての方が楽しむことができる生涯スポーツです。

 今回は頂上を目指す頑張る山歩きではなく、健康寿命を延ばすために最適な運動習慣である「頑張らない山道歩き」をご紹介しました。

withコロナ時代、病気でなければ健康ですか?自粛で見失った健康習慣を取り戻す脳活ハイキングのすすめ

 コロナと生きる山歩きは「健康増進、経済振興、環境保全」の三方良しか?

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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