コロナと生きる山歩きは「健康増進、経済振興、環境保全」の三方良しか?

天上の黄昏に何を想う?  ※写真はすべて筆者が撮影

 2020年明け以降に拡大した新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛の流れは世界に拡大しているのはご存知の通りです。一方、感染を防ぐために自分たちがどのように行動するべきかの情報も増え、私たちの行動にも変化が出てきました。

 山を歩くことで日本がより好きになった筆者から、山に登らない多くの方にも知っていただきたい5つのことをご紹介します。

樹木は微生物から昆虫、爬虫類、鳥類、哺乳類の生態系を作っています。
樹木は微生物から昆虫、爬虫類、鳥類、哺乳類の生態系を作っています。

 まず、現状は感染予防を第一とした行動を求められているとの認識でいることをお断りさせていただきます。

 登山は素晴らしい自然に身を置いて有酸素運動を行える優れたスポーツだということは多くの方に理解いただいています。しかしながら登山自体ではなく行き帰りの交通手段や商業施設、山小屋などの室内環境における要素がコントロールしにくいため、感染拡大に繋がるのではないかという懸念から、2020年シーズンの営業を断念する山小屋が出てきています。もし、標高が高いために症状が悪化しやすく、救助隊員の感染防止の観点からも迅速な救助活動が困難なことから、富士山エリアに限らず多くの山岳エリアでの山小屋休業が相次いでいます。

2017年夏、富士山ご来光に想いを乗せて
2017年夏、富士山ご来光に想いを乗せて

2020年吉田ルート、富士宮ルート山小屋休業について

出典:富士山オフィシャルサイト

南アルプス山小屋閉鎖 今夏、静岡県側全16カ所 3密対策困難

出典:静岡新聞SBS

 今後、新たな医薬品開発が進展することで営業再開へのスタートが切れることを願わずにはいられません。

 ところで日本の山岳は私たちにどのような恩恵を与えてくれているのでしょうか。

実際に自分の足で野山を歩き、山の頂から日本という国を見ることで実感したことです。

伝統的な山間地の棚田は日本の自然環境で生きていく人の知恵と努力の賜物だ
伝統的な山間地の棚田は日本の自然環境で生きていく人の知恵と努力の賜物だ

:美しい景観や良好な環境による保健保養と健康増進、多様な食文化と観光産業が育まれました。

:自然災害大国でもある日本ですが、治山治水と森林保護による良質な水源と土壌保全、海洋へのミネラル供給などにより、日本を豊かな海産資源を持つ山岳&海洋国家にしています。

:四方を海に囲まれた国土と山岳地形がもたらす豊富な降雨降雪は豊かな動植物を育み、豊富な水資源をもたらしています。

山里に豊富な湧き水がほとばしる
山里に豊富な湧き水がほとばしる

山登りをしなくても

日本の自然に関心を持つことが大切です

慣れ親しんだ普段の生活は日本の国土風土があってこそ成り立っています

このことを知っていただけたら本当にうれしいです。

 交通機関の発達と過酷な環境である高所の山小屋と登山道が整備されたことで、日本の山岳観光エリアは世界的に注目されるレベルになりました。標高2500mを超える高所山岳エリアはそのほとんどが国立公園や国定公園です。山小屋と山小屋間の登山道整備は環境保全に必要ですし、国内外登山者の安全確保や遭難救助活動は観光における日本ブランド向上には欠かすことはできません。

 営業小屋は経営という民間としての柱に行政担う役割を人的な面を含めて有機的に関わっています。

富山県立山エリアの山岳景観
富山県立山エリアの山岳景観

 2020年は新型コロナウイルス感染防止の観点から多くの宿泊を伴う山小屋運営に大きな制約が発生しました。

山関連の仕事であれ、レジャーであれ、人が入らなくなった「山」ではどのようなことが起きてくるでしょうか。

冬には屋根まで雪に埋まってしまう小屋ですが、雪が消える限られた時期だけに温もりの灯りが入ります。
冬には屋根まで雪に埋まってしまう小屋ですが、雪が消える限られた時期だけに温もりの灯りが入ります。

:仮にこの状況が長期にわたった場合、風雪に晒される山小屋には多大なメンテナンスが必要となります。大きな寒暖差による結露による電気設備や木部の腐食、強風対策、積雪対策、水回りなど厨房から水道・電気・土木をスタッフが中心となって行ないます。営業収益があろうがなかろうが資材は高騰しているヘリコプターを使わなければなりません。先を見据えた対策をしておかなければ来シーズンに開けたくても開業できない事態もありえるのではないかと心配しているところです。アルプスの山小屋ではその一軒が欠けることで縦走コースが安全ではなくなってしまいます。

 積雪が多い地域では山小屋営業期間中も変化する残雪に付けられた登山道のメンテナンスも欠かせません。アルプスにおいては登山道は恒久的なものではなく、重力と風雪、寒暖の差で風化崩壊する山に逆らっているともいえるのです。登山者にとっての安全な道は手を入れ続けなくては維持できないのです。山小屋が営業できないということは、宿泊と食事がないだけといった”単純な事”ではないのです。

 山小屋が山岳観光とスポーツ産業の大きな柱であることは間違いありません。宿泊と食事提供だけの役割ではなく、緊急時の避難場所、登山者の安全確保や指導、遭難救助、登山道整備、公衆トイレの維持管理などの公共的な役割も担っています。

 山小屋営業再開を模索する中では感染対策に伴う宿泊の完全予約制と料金改定など変革や人気山岳エリアの入山数制限や入山料の議論検討も起きるかもしれません。登山者の行動も土日祝祭日集中から平日へ分散するなどの行動変化が出てくるかと考えられます。どのような形になるにせよ、アフターコロナ、否、ウィズコロナでの登山環境変化に適応していく心の準備は必要です。

:1000m前後のいわゆる低山といわれるハイキングの道でも人が歩かなくなってくると、草、笹、灌木に覆われ始めて登山道は荒れてきます。雪雨や融水による土砂流出、倒木などによる崩壊が起きて歩きやすい道は「踏み跡」のような歩行に難渋する場所が増えてきます。

 高齢化が進む日本では働き盛り世代の運動習慣が重要です。将来60~70歳以降になったときの健康寿命を延ばすことになります。市街地から近い中山間地帯は林業、電源送電、水源関連、観光地と様々な利害関係者が入り組んだエリアですが、低山ハイキングなど安全安心の健康ウェルネスエリアとして、一層の整備管理がされていく必要があります。

 コロナ対策自粛によって「得られたことと失ったこと」は時間の経過によって評価されます。これから修正され新たな段階に入ります。情報はグローバル、行動はローカルで日本人の健康と日本の経済・環境の三方良しを目指してはいかがでしょうか。

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