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2021年が近づきました。ハイキングを通じた健康の源「歩く力」を高めるポイントをご紹介します。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
北アルプス燕岳からの夜明け*記事中の写真は断りの無い限り筆者が撮影。

 今年は年初からコロナ災禍に終始したために、多くの方が運動不足になっているかと思われます。年末に日本列島を覆う予報もあり、更に出不精が重なり正月太りも復活しそうです。

 自然を感じるリクリエーションや日常的な運動が不足しているのに「まぁ、仕方がないよね」と運動不足が常態化してしまうのを打破しましょう。

今回は「頂上を目指さないフィールド観察ハイキング」を目標とした「歩く力」の向上させるポイントをご紹介します。

平地は早春の3月、雪まだ深き福井の山々。
平地は早春の3月、雪まだ深き福井の山々。

 疲れているのになぜ、わざわざ山になんか登るの?という問いかけは良く聞きます。

 現代社会には様々な職業がありデスクワークに終始する方のストレスは相当なものがあるかと想像します。しっかり寝たはずなのにスッキリしないなど些細な異変の積み重ね、慣れて意識できなくなるのが恐ろしく感じます。

河津桜が咲く2月、春の恵みに忙しいメジロ。
河津桜が咲く2月、春の恵みに忙しいメジロ。

 軽いハイキングを通じた有酸素領域の運動は心地よい肉体疲労と心がリフレッシュするのを感じられます。

 森林浴効果は多くの方に実感されています。

 ⇒ 森林浴の効果を科学する:千葉大学の宮崎良文教授

 新年に向けて「よしっ!コロナに負けない身体つくり、頑張ろう!」とトレーニングを計画する前に参考してほしい10のポイントをご紹介します。

 トレーニングは英語表記では、training となります。つまり、train=列車にingをつけていることから想像できるように、線路(目的)に沿って進んでいくイメージです。

 つまり、どんなトレーニングでも「目標なり鍛えたい部位や登りたい山とコース」を明確にしたほうが効果が高いということです。

今回は「頂上を目指さないフィールド観察ハイキングを楽しむ」が目標です。

 しかしながら、現在の自分の体力レベルと世間で言われるような様々なトレーニングメニューが自分に合っているかはわからないので、いきなり頑張るのはやめた方が無難です。

 まずは、

 トレーニングと意気込む前に1~10のことをしてみてはいかがでしょうか。

 1:自分の「素」の体力レベルを自覚するため、身近で繰り返し出かけられる丘陵や里山のコース設定をします。

 山でなくても構いませんが、丘陵など起伏がある方が好ましいです。客観的な数字であるコースの標高差、距離は変化しません。背負う荷物の重さも体重計で量ることができます。誰に報告する必要があるわけではありませんから、自分ノートに記録しておきます。

 日付、天候、気温、開始前の体調、終了後の体調や感想、直近一週間の主な運動など、自分で決めたことを記載できる様にしておくと良いでしょう。

 スマートフォンの地図アプリを活用して記録すれば、距離・獲得標高・時間などを記録できるので利用してみるのも良いでしょう。

 ⇒ ジオグラフィカ | 登山用GPS

 ⇒ YAMAP / ヤマップ

 ⇒ ヤマレコ

 2:初回は設定したコースを他人に惑わされず、快適だと感じるペースで歩きます。

 歩きながら、季節の草木や風景を楽しみましょう。薄っすらと汗ばむ程度、会話が苦しくないくらいが良いでしょう。

 その日の体調に依りますが、自分の実力を把握するということです。

今後、目標とするのは昨日の私です。

競わない、人を思いやるハイキングで心も健康に。
競わない、人を思いやるハイキングで心も健康に。

 3:運動中の水分とミネラル、糖質の継続的な補給が重要です。

 同じコースの二回目以降では30分に一回の少量の水分補給、60分に一回は水分と糖質補給を行ってみてください。身体と会話しながら体調変化を感じてみましょう。

 ダイエットを意識して飲まず食わずは身体への負担が大きく、継続的な運動習慣になりにくいので避けたいものです。

フィトンチッドに満ちた針葉樹の森を行く。
フィトンチッドに満ちた針葉樹の森を行く。

 4:運動後には、魚・肉など良質なたんぱく質を含んだ食事と早めに就寝が大切です。

 睡眠は寝入り後の3時間が成長(痛んだ筋肉修復)ホルモンがたくさん出るタイミングなので、前半に深く寝たのであればトータル睡眠時間を長くする必要はありません。早起きできるメリットもあります。運動+栄養+休息(睡眠)は健康な身体つくりに欠かせません。

 食の細い方はタンパク質を分解してつくられた必須アミノ酸サプリメントの活用も有効です。

 翌日以降に感じる筋肉痛は使っていなかった筋肉細胞が傷んだことで生じる組織再生のサインです。が、膝痛は要注意!無理せず休養しましょう。

行動中の摂取し易い必須アミノ酸を豊富に含む食品の例
行動中の摂取し易い必須アミノ酸を豊富に含む食品の例

 5:楽に歩くには足の上手な置き方が大切です。

 継続していくと「歩く力」が向上してきます。足さばきも軽やかになってくるので、歩行スピードも自然と速くなり身体に余裕が出てきます。

 小まめで段差を小さくするネコ科動物的な足さばきがお勧めです。どたどた歩きは衝撃が大きく疲れやすいだけでなく、スリップや落石などを起こしやすいので注意が必要です。

登山道には様々な場面があるのが楽しい!神戸須磨アルプス。
登山道には様々な場面があるのが楽しい!神戸須磨アルプス。

 自分のスネの長さを超える高い段差(ステップ)を「よいっしょ」と身体を持ち上げることで大きく疲労します。

 さっと視線を数メートル先において、次にどこに足を置いたら疲労が少ないかを見つけるのもトレーニングで向上します。これもルートファインディングのひとつです。上手に歩く人の後について行くのも勉強になります。

心拍数に大きな変動を与えないような歩行スピードのコントロールが大切です。

 最初の元気が良いときにトントンと登っても、途中で疲労によるペースダウンするような歩き方は良くありません。

 6:自分に合ったリズムを見つけ、長時間歩き続けられるセルフコントロールが大切です。 

 歩くリズム以上に大切なのはこまめな「立ち休憩」です。合わせて「3」の補給を行い、それぞれのタイミングで衣類の調整も併せて行い体温維持に努めます。

 上手にコントロールできるようになれば10~12時間でも心地よく歩くことができる能力は誰にでも備わっていると考えています。

ふと見た足元にモミジ葉が凍えていました。
ふと見た足元にモミジ葉が凍えていました。

 7:週に一回はアップダウンある山歩きをするのが理想です。

 「歩く力」はすなわち脚力です。平坦な道路ウォーキングだけでは運動強度が不足なのです。

 可能であれば月に一回は10時間、15~20キロメートルといったロングコースをゆっくりとしたスピードで確実に歩きとおすことも有効です。

 ⇒ 同じ考え方の友人をつくり、一緒に歩くことも有効です。

 第一の目標は様々な登山道コンディションでも確実に歩くことができる「歩く力」向上です。

 凸凹や砂、泥がある自然の道を歩いて、脳と神経回路と身体が連動するには実際の「体験」を積み重ねが必要です。

 8:前かがみにならないよう、上半身の体重が腰に真っ直ぐかかることが重要です。

 歩く姿勢が良くなると、膝関節の使い方も上手くなり膝痛も起こしにくくなります。自然と登高スピードも向上していきます。

南紀の海を望む大台ヶ原。
南紀の海を望む大台ヶ原。

 9:行動中の呼吸がとても大切です。

 ポイントはしっかりと吐くことです。吐き切れば自然と新鮮な空気が流入します。

 呼吸十回に一回は「ろうそくを吹き消すように」口をすぼめて細く長く息を吐いてみるのも試してみてください。

 摂取した食べ物(糖質)を確実に筋肉と脳へエネルギーを運び込むには十分な水分補給と酸素供給が必要です。

 つまり上手な呼吸が大切なのです。

 10:動的バランス力(筋力の調和ハーモニー)が大切です。

 身体への負担という面では登りは心肺能力、下りは脚力が大きく影響します。ですから、登りで身体能力を消耗することがないようにします。

 動的バランスが良くなれば下りの姿勢が良くなり、余裕を持ってハイキングを楽しめるようになるでしょう。

 登山は動的バランスが重要です。平地での部分的な筋力アップ自体は否定しませんが、マッチョを目指す必要はありません。

両サイドに椅子やテーブルを置いて転倒防止につ勤めてください。
両サイドに椅子やテーブルを置いて転倒防止につ勤めてください。

 外出がままならない場合は脚を前後に開いて腰を下げる下肢筋力強化や協調性トレーニングとして良く行われる「フォワードランジ」も活用してみてください。

 左右にぐらつきやすいのが特徴ですから、身体を支えられる机や椅子の横で行って転倒による怪我をしないように行ってください。

2020年の初日の出、六甲山から
2020年の初日の出、六甲山から

 ハイキングは生涯続けることができる健康運動です。きれいな空気の元、太陽の光を浴び、四季を感じてみてください。

 自分の免疫力が様々な病気を避けてくれることを願って明日も歩き続けませんか。

 ⇒ withコロナ時代、病気でなければ健康ですか?自粛で見失った健康習慣を取り戻す脳活ハイキングのすすめ

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 ⇒ お散歩アウトドアのすすめ 強いストレスに曝された生活を取り戻す小さな試み

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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