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働き方改革と関係人口とふるさと住民票

加藤秀樹構想日本 代表

1.関係人口

「関係人口」という言葉を目や耳にすることが増えました。定住人口とか交流人口に対する言葉として使われています。定住人口とはそこに住んでいる人。日本全体の人口が減っていく時代ですから、首都圏など一部の地域を除き減少しています。多くの自治体は町の機能を維持するために定住人口を増やしたいと、あの手この手で訴えていますが、しょせん人口の取り合いになるだけです。

交流人口は、観光や仕事などである町を訪れる人口といった意味でしょうか。観光地に多くの人が訪れてくれるのは有難いし、一定の経済効果があるとしても、町の財政や活力をこれに依存するのは不安定だし、少し頼りないでしょう。

では、「関係人口」とは?

住んでいる町以外のどこかの町と何かの関わりを持っている人くらいの柔らかいものだと私は考えています。だとすれば、今の日本ではほとんどの人がそうなのではないでしょうか。

高校まで過ごした町、両親が住んでいる町、転勤でしばらく住んだ町、親の介護のため月の1/3は故郷へ帰る人、仕事の関係で常に二つの町を行き来している人、さらには、災害のために長年住んだ土地から離れて暮らしている人もいます。

そう考えると、日本の定住人口+関係人口=2億人くらいにはなるかもしれません。

2.働き方の多様化

活動の場が複数の町にわたっている人は、私たちの周りを見ても増えていると思います。政府の働き方改革は、会社の中での勤務時間の管理が中心ですが、世の中は既にその先を行っているように見えます。若者を中心に、いくつかの会社やNPOなどで働き、その場所もいくつかの町に及ぶことも珍しくありません。

社会の動きが速く、ネットで処理できることも増えてくると、従来の、会社を中心にして個人がそこにつながっているというスタイルに対して、個人の能力や関心、行動がハブになり、その先に仕事や仕事場がつながっているという社会が拡がりつつあるのではないでしょうか。

市や町など全国の自治体にとっても、人口減少時代に地方が活力を取り戻し、魅力あふれる地域になっていくためには、このような多様なライフスタイルに合った柔軟な行政を行っていくことが求められています。

一つの自治体に住民登録し、税金を払い、様々な行政サービスを受ける。定住人口に対するこのような「単線的」な関係はこれからも基本ではあるのでしょう。しかし、多くの人の現実の生活や個人個人の気持ちはここから離れて行っているわけですから、自治体行政がここに留まっていると、どんどん取り残されていくことになるでしょう。

住民の「複線的」な生き方に対応した複線的な関係を創る、という言い方もできます。

自治体の中には今でも定住人口の増加を掲げるところが多いですが、現実的に考えると、自治体どうしの「人のとりあい」ではなく、自分の町と様々な形で関わってくれる人を増やし、その関係性を厚くすることが大事だし、また働き方や人の動きの変化を考えると今はそのチャンスでもあると思います。

3.ふるさと住民票

以上のような状況を受けて、4年前から「ふるさと住民票」という活動が始まっています。

多様な働き方、暮らし方に対して、自治体も柔らかく行政対応をしていこう。町のことに何らかの形で関わっている人に「ふるさと住民票(R)」を持ってもらって、その人たちにもっと気軽に、そして深く関わりやすくしようという趣旨です。

構想日本は2015年の8自治体の首長たちとの共同提言以来この活動を進めてきました。その時点では「関係人口」という言葉は一般的ではありませんでしたが、「関係人口」を見える化して拡がりやすくしようというのがふるさと住民票の発想です。

現時点でふるさと住民票実施自治体は、北海道のニセコ町から鹿児島県の志布志市まで10市町村、約2,000人の「ふるさと住民」が誕生しています。

ふるさと住民には、「ふるさと住民カード」が発行されます。カードには共通のロゴがあり、デザインは各自治体で自由(自治体により職員や住民がデザインするなど様々)、運用の仕方も自治体の自由に委ねられています。

例えば対象者としては、ふるさと住民票の申請をした人に加えて、ふるさと納税をした人、その自治体内に土地や山林を持つ人、学生など住民登録をしていないが居住している人などがあります。

また、自治体が提供するサービスとしては、広報紙の送付、スポーツセンターや、駐車場など自治体の公共施設の住民料金での利用、相続や介護手続きの郵送での受け付け、さらにパブリックコメントへの参加や住民投票への参加まで多様です。

日本の行政は固い。また、基本に法律や国が定めるルールや基準があるため、中央集権的で画一的になる傾向が強い。しかし、ふるさと住民票には法律の枠もないため、それぞれの自治体の現場の判断で多様な工夫ができます。「関係人口」という柔らかく自由な考えと相まって大きな可能性を持っています。

働き方が多様になる。それに応じて行政も柔軟にする。これが良いサイクルになれば、定住人口が減っている地方都市や過疎地でも「関係人口」が増え、その関係性も深く濃くなります。

私たちの柔らか行動と柔らかい行政が、人口減少とか一時は消滅自治体とか呼ばれた固くて暗い発想を打ち砕き、人口減少時代を希望に満ちたものにする有効な手法になる。

そう信じて、構想日本は自治体とともにこの活動を進めています。

◇ふるさと住民票(R)オフィシャルページ http://relevantly.work/cp-bin/wordpress/

※「ふるさと住民票(R)」は、一般社団法人構想日本の登録商標です。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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