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“先”はもう見えている  ― 第4次安倍内閣発足を機に“現場”から考える ―

加藤秀樹構想日本 代表

構想日本は政策シンクタンクです。しかし、政策提言だけで世の中は変わりません。そこで、事業仕分けや住民協議会など、主に自治体で住民の政治・行政参加の活動を行ってきました。その中で感じたこと、見えてきたことを以下スケッチ風に書いてみます。

1.「先が見えない時代」という。なぜそうなのか。本当にそうなのだろうか。

― 確かに、高度成長期は「あれが欲しい。もっと豊かに。それにはもっと働いて・・・」と右肩上がりで、欧米というお手本もあり、「先」のイメージがはっきりしていた。

― 90年代はバブルの後始末でしんどいが、今しないといけないことは明確だった。

― では今は?

   以前のような方向感覚がない?

   それはなぜ?多様性?格差?

― これは言えると思うのは、政治家、経営者など“偉い人たち”が、かつての右肩上がりや“Japan as No.1”の再現を期待して、経済政策、科学技術、クールジャパン、インバウンド・・・と言っていること。

そして、多くの人、とりわけ若い人たちは「ちょっと違うな」と感じていること。

― つまり、「先を示す人たち」が従来の延長線上でしかものを言っていなくて、かつてはそれを信じて「ついて行っていた人たち」が、今は「何か違う」「自分たちは関係ないし」と感じているのではないか。

― それに対して「先を示す人たち」は、他の選択肢を示していない。

だから、「ついて行く」側の多くの人が「漠然とした不安」を感じつつ、政治や世の中のことを他人事と考えているのではないだろうか。

2.だけど、その「ついて行っていた人たち」の日々の生活や行動の中に「先」が見えているように思う。

― 例えば、スマホがあれば1日けっこう楽しめる。自動車いや運転免許証さえ持たない若者が多い。ブランド物もいいけれど、おシャレはカジュアルに、「自分らしく」。

派遣社員でもまぁまぁ食べて行ける。その方が気楽な面も。友達の手伝いやNPOなどいろんな仕事を少しずつ。

ぜいたくを言えばキリはないけど、国内でも海外でもどこでも気軽に行ける。イベント、美味しいものもたくさんある。

― つまり、今の社会が基本的に平和で、便利で、“もの”的に豊かということ。

― これは、過去50年余り日本人が頑張って得た経済成長で蓄積したインフラや社会制度やものの豊かさに支えられて、私たちは今暮らしているということだろう。

― これを「成熟社会」と呼んでいいのではないか。つまり、昭和の「成長」を経て得た平成の「成熟」だ。

― 私たちは成熟社会の中にいるからこそ、「成熟」と気付いてないのかもしれない。

― そして、「先を示す人たち」は「成長」の幻想と強迫観念に捉われ、「ついて行く人たち」に、かつて通った道を示し続けているのかもしれない。「ついて行く人たち」の方がそれは幻想だと肌で感じているのに、彼らは発想の転換ができないのかもしれない。

― だから、構想日本はこの「成熟日本」を前提に、その「先」を考えてみたいと思う。

― 成熟社会の特徴は大まかに言うと、次のようなことだろうか。

 ・モノもお金も量や拡大が目的ではない。

 ・これまでに社会に蓄積された資産をうまく活かして、身近なところで満足度を高める。

― 成熟社会にはお手本がたくさんある。

古くは江戸時代。世の中は安定し、経済発展もあった。成長率は今よりはるかに小さく、貧しさもあったが、庶民こそが日々の暮らしをエンジョイしていた。とりわけ、江戸後期の文化・文政時代は浮世絵や歌舞伎が盛んになるなど、庶民の文化が際立った。

1980年代以降に経済取引の自由化、グローバル化が急速に進む前の、欧米のとりわけ地方都市での生活にも同様の安定、成熟、豊かさが今よりも色濃くあったのではないか。

3.その際、どうしても避けられないのが、成長が残した「マイナス面」のこと。

これは、長い成長時代を通して日本社会の身体をむしばんできた生活習慣病のようなものかもしれない。

― いくつか挙げてみよう。国の1,000兆円の財政赤字、少子高齢化(これ自体は成長が残したものではないが、成長時に手を打たなかったことがマイナス)、格差、働き方・生き方の窮屈さ・・・。

― これらがたぶん多くの人の「漠然とした不安」の元にもなっていると思う。

― 「先を示す人たち」特に政治家は、マイナス面は成長を大きくすれば解決できると言う。

― しかし、多くの「ついて行く」側の人は、成長では解決できなさそう、解決できるほどの成長は無理じゃないかな、無理やり成長してもその無理が他のマイナス面をもたらしそう、と感じているのではないだろうか。

― マイナス面については甘いことを言ってはいけない。

まず、成長でマイナス面は解決できないと考えるべきだろう。

なぜならば、成熟社会では大きな成長はもうないだろうから。欧米も低成長だし、急速に成長してきた中国など新興国の成長も鈍化している。

― 現状程度の成長ではこのマイナス面は解消できないにもかかわらず、政治家がそこに期待を持たせて先送りをするのは、国民のツケを大きくするばかり。

― 状況は欧米の先進国も同じ。EU各国の政治混乱、Brexit(イギリスのEU離脱)、トランプ現象など原因やあらわれ方は違うが、成長がもたらしたマイナス面の解消に向けた試行錯誤や混乱がしばらく続くだろう。

4.構想日本が考えるマイナス面のこなし方。

― マイナス面の処理には日本全体が“傷み”を伴うことになるのも欧米と同じだろう。

― それは程度の差はあれ、財政破綻やインフレという形をとる可能性が高いが、成長社会から成熟社会への転換の“産みの苦しみ”と考えるしかない。その過程の中で、社会保障や地方自治など様々な制度の切り替えが行われるだろう。

― 一方で道筋も見えてきた。

構想日本は20年間、この「マイナス面」をどうにかできないかと政策の提言や実現のための活動をしてきた。

日本各地で、行政や地域の現場の人と一緒に

無理して成長しなくても地域を元気にするにはどうすればよいか、

まちの財政を悪化させなくても子育てをしやすくするにはどうすればよいか、

財政赤字を少しでも減らすにはどうすればよいか、

などを考え、試みてきた。

     

― その過程で見えてきたのは、成熟社会を生きることとマイナス面を解決することは相性が良いということだ。

― そして、国のしくみや政治・行政に応用できる知恵や方法や人間関係が日本各地にたくさん見つけられた。

そうやって頑張っている人もたくさんいる。

― 成熟を楽しみながらマイナス面をこなしていく。そのエッセンスをあえて書くなら次のようなことだろうか。

 ・家のこと、仕事、その延長線上で地域のことにも「自分ごと」として関わる。

 ・そこでは、お金よりも人、人との協力がものを言う。

 (例えば、行政に税金を使ってやってもらうよりも自分たちや地域で行うほうが良い結果になる)

 ・その積み重ねが、成熟社会の暮らしを支えるしくみをもたらす。

― そんな甘いことでうまくいくはずがない、地域と国は違うと考える人が多いと思う。

ところがそうではないのです!

社会保障、教育、防災など、制度や法律が関わる難しいことも、このエッセンスを大事にしてとりかかれば、地域の知恵や経験は国レベルでも応用できる!のです(楽観的であることも大事だと思います)。

― これが政治の、経済の、地域運営の、国の運営の原点なのだ。

5.このプロセスで国や社会のしくみが、「他人事」から「自分ごと」になる。そして、マイナス面の解消、国の多くの制度の切り替えという大変困難な事業もほぐしていくことができる。そうやって成熟社会の国の形と暮らしがはじまる。

住民、国民の政治・行政参加の場を、構想日本は「自分ごと化会議」と呼んでいます。安倍内閣が掲げる社会保障改革の総仕上げに向けても、ここで述べたことを働きかけていきたいと思います。

そして、私たちと一緒に活動して頂ける方、構想日本のドアはいつでもオープンです!

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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