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男子のおよそ2人に1人がうんちを我慢している

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(提供:イメージマート)

世界トイレの日のメッセージ

11月19日は世界トイレの日(World Toilet Day)。

これは2013年に国連が制定した日です。国際連合広報センターはアントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージを発表しています。

その中には「毎日、700人を超える子どもたちが、劣悪な衛生状態や安全でない水に起因する疾病で命を落としています」という内容があります。また、トイレという問題は、目に見えないところで、しかも弱い人に起きているので長期間にわたって見過ごされてきたことから、トイレが果たす重要な役割に光を当てることが必要としています。

このメッセージを国外の衛生問題としてのみ捉えるべきではないと考えています。大事なのは、トイレという視点で社会課題を見ることです。日本トイレ研究所は、11月10日(いいトイレの日)~19日(世界トイレの日)を「うんちweek」として啓発活動に取り組んでいます。

うんちweek(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
うんちweek(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

トイレや排泄に関わる問題は、身体的負担だけでなく精神的に悪影響を及ぼし、生活の質にも関ります。そこで、本稿では日本における子どもの便秘事情と安心できるトイレ環境の重要性について書きます。

子どもの10~20%が便秘状態

2022年11月、全国の小学生と保護者1000組を対象に「小学生と保護者の排便に関する意識調査」を実施したところ、便秘状態が疑われる小学生9.9%、予備軍10.2%という結果になりました(アンケート結果の詳細はこちら)。

また、2021年には、全国の小学生16,655人に1週間の排便記録(下図、ダウンロードはこちら)を実施してもらった結果、便秘が疑われる小学生は14.6%でした。ちなみに、2022年、東京在住の0〜3歳児の保護者1,000人に排便の困りごとを聞いたところ「便秘」は17.7%でした。さらに、2021年に全国の高校生1,000人を対象にしたアンケート調査では、便秘状態が疑われるのは20.2%となりました。

図:うんちチェックシート(抜粋)(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
図:うんちチェックシート(抜粋)(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

「小児慢性機能性便秘症 診断ガイドライン」(以下、ガイドライン)では、便秘は「便が滞った、または便が出にくい状態である」と定義しています。その説明として「便が滞った状態」とはなんらかの原因によって排便回数や便量が減少した状態であり、「便が出にくい状態」とは、排便するのに努力や苦痛を伴う状態、小児では排便時の肛門の痛みで泣いたり、いきんでも排便できない状態であるとなっています。

子どもの10~20%ぐらいがこのような状態であることを深刻に受け止めるべきではないでしょうか。

便意は無くなることがある

便秘が慢性化することで便意がなくなるということを知っていますか?

通常、肛門の少し手前にある直腸という部分に便が送られると私たちは便意を感じます。しかし、何らかの理由で排便を我慢するなど、便のかたまりが直腸に溜まった状態を繰り返すと、直腸は膨らんで広がった状態が続いてしまい、伸展刺激に対する閾値が上昇します。

つまり、便意を感じにくい鈍い腸になってしまうのです。

一般的に大腸での便の停滞時間が長くなると、水分が吸収されるので便は硬くなります。そのため排便時に痛みを伴うことが考えられます。肛門が切れてしまうこともあるでしょう。

このような経験は排便の我慢につながると言われています。大人であれば、便を出す必要性を理解していますので、食事や服薬などで対応することができます。しかし、子どもは嫌なものはイヤ。痛いものはイヤですので、とことん我慢してしまいます。そうすることで、排便我慢が繰り返され、便秘の悪循環につながってしまいます。

2人に1人がうんちを我慢する

冒頭で紹介した2022年の「小学生と保護者の排便に関する意識調査」では、学校でうんちをしたくなった時、我慢することが「よくある」と「ときどきある」を合せた割合は、男子44.3%で、女子39.4%でした。男子についてはおよそ2人に1人が我慢していることになります。また、便秘状態と考えられる子どもが我慢する割合は81.8%にもなります。

さらに、我慢する理由を聞いたところ、上位5つを多い順に示すと「友達に知られたくない(26.5%)」、「落ち着かない(20.2%)」、「休憩時間内で間に合わない(22.0%)」、「友達にからかわれる(15.0%)」、「トイレが汚い(12.9%)」でした。

図:トイレを我慢する理由(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
図:トイレを我慢する理由(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

ガイドラインでは、小児期に便秘を発症しやすい時期や契機として、「母乳から人工乳への移行あるいは離乳食の開始」、「トイレトレーニング」、「学童における通学の開始や学校での排泄の回避」の3つをあげています。このことからも学校での排便環境の重要性がわかります。

18.1%の保護者は便秘に気づいていない

みなさんは健康的な排便がどのような排便であるかを知っていますか?

学校では食べることは食育、体を動かすことは体育で学ぶことができます。そのため、大人になってから栄養摂取や運動機能に関しては注意を向けますが、排泄に関してはないがしろにしがちではないでしょうか?

また、排泄は他人に見せるものではなく、日常会話でもほとんど話題にならないので、正しい情報を共有する機会もほとんどありません。そのため、もしかしたら間違った認識のままということもあり得ます。排便の回数はもちろんのこと、排便形状や排便の仕組みを知ることが大切だと考えます。

便秘状態と考えられる子どもの保護者に、子どものことを便秘だと思うかどうかをお聞きしたところ、「あまりそう思わない(14.1%)」、「まったくそう思わない(4.0%)」を合せると18.1%になりました。これは、約2割の子どもたちの便秘が見過ごされてしまうことが危惧されます。

図:保護者から見た子どもの便秘(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
図:保護者から見た子どもの便秘(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

さらに、子どもが和便器を使用できるかどうかを聞いたところ、「抵抗はあるが使用できる(50.9%)」、「使用できない(26.7%)」でした。子どもは少しでも抵抗があると感じれば我慢すると思います。

小学校のトイレの洋便器化を進めることはもちろんのこと、それだけなく明るく清潔なトイレ環境にすることが重要です。

小学校の学習指導要領には「排泄」がありません。トイレや排泄に関する教育がなく、しかも老朽化等により「くさい」「汚い」と感じてしまうようなトイレを使わなければならない状況は、「トイレ我慢」につながります。それだけでなく、嫌な場所ですることは悪いこととして認識すると考えています。

食、運動、睡眠、そして心の状態が排便に影響します。つまり、便は身体の健康状態をあらわす大切なメッセージです。私たちは排便をチェックして健康管理にフィードバックする方法を学ぶことが必要です。

日本トイレ研究所は、「便の7種類の特徴」、「おなかにいいレシピ」、「おなかにいい10のこと」など、様々な情報を公開していますので、参考にしてみてください。

今日は世界トイレの日です。家族や友人などとトイレや排泄のことを話題にしていただけるとうれしいです。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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