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東日本大震災ではじめて使われたマンホールトイレを知っていますか?

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
マンホールトイレの普段使い(写真:東松島市)

災害時、水洗トイレは使えない

東日本大震災から12年が経ちました。みなさんは、東日本大震災の経験を次の災害の備えにつなげているでしょうか。

災害が発生すると、水洗トイレが使えなくなります。

地震による揺れで給水管や排水管が壊れてしまえば使えません。それだけでなく、停電だけだとしても、ポンプ設備で給水している中高層の建物は断水するため、水洗トイレが使えません。

さらに、下水処理場やし尿処理場が被災すれば、トイレから流れ出る汚水が処理できなくなるので、やはり水洗トイレが使えません。

このように水洗トイレは災害に強くないということを認識する必要があります。

東日本大震災では、広範囲かつ中長期にわたり水洗トイレが使えなくなったため、トイレ問題が発生しました。そんな中、避難所において活用された災害用トイレにマンホールトイレがあります。今回は、このマンホールトイレについて紹介します。

災害時のトイレ問題とは?

マンホールトイレについて説明する前に、トイレ問題について説明します。

トイレ対応は後回しにされがちですが、実はトイレは命にかかわる重要なテーマとして理解すべきです。

その理由は大きく3つあります。

1つめは、集団感染のリスクを高めるからです。

トイレの備えがないとあっという間に便器が大小便で満杯になり、極端に不衛生になります。トイレはすべての人が利用するので、その場所が汚染されると接触感染による集団感染のリスクが高まります。

2つめは、脱水症やエコノミークラス症候群により関連死につながるからです。トイレが不便・不衛生になると、できるだけトイレに行かなくてすむように水分を摂ることを控えてしまい、脱水症やエコノミークラス症候群に罹患するリスクが高まります。

3つめは、秩序や治安の乱れにつながるからです。トイレが極端に不衛生になることは、日常を失うことにつながり、イライラしたり、どうでもいいと思うことにつながったりすると考えます。このような状態は秩序や治安の乱れにつながり、生活や復旧が上手くいかなくなります。

だからこそトイレの備えを徹底することは、被災者の命と尊厳を守ることになると考えています。

マンホールトイレが開発されたきっかけ

マンホールトイレは、1995年の阪神・淡路大震災でのトイレパニックというつらい経験をきっかけとして開発されました。

阪神・淡路大震災は都市部を中心に被害をもたらした大災害です。神戸市の大部分は水洗化されていたため、発災と同時に、多くの水洗トイレが使えなくなりました。便器は大小便で満杯になり、不衛生な状態となりました。

このような状態でも、私たちの排泄は待ったなしです。

他の地域から現場に入った行政職員の中には被災者のトイレを借りるのは申し訳ないと、オムツをつけて作業を行っていた方もいたそうです。

そんな中、被災者の方々が止むを得ずマンホールのふたを開け、そこに木材等で橋を渡して足場を作って用を足した、ということにヒントを得て、支援に入っていた行政職員とマンホールのふたを製造している企業が力をあわせて開発されたのがマンホールトイレなのです。

マンホールトイレの仕組み

地面に設置されているマンホールのふたを開けて、その上に便器(組み立て式のものもある)を取り付け、さらにプライバシーを守るためのトイレ室を設置することで、臨時のトイレをつくる仕組みがマンホールトイレです。

ただし、どのマンホールでもよいわけではありません。マンホールの下部(地中)の構造が汚物を受け入れられるようになっていることが条件です。

つまり、マンホールトイレ専用のマンホールがあるということです。

公道にある通常のマンホールは、基本的に一般の人が開けられないようになっていますし、無理に開けてしまうと落ちてしまうなどの危険が伴います。

マンホールトイレのふたの例(写真:NPO法人日本トイレ研究所)
マンホールトイレのふたの例(写真:NPO法人日本トイレ研究所)

マンホールトイレの下部構造には大きく2つのタイプあります。

1つめは下水道に接続された排水管が埋設されており、大小便を下水道に流せる構造になっているタイプです。そのため大小便を流す水の確保が必要になります。

特例で地方公共団体の指定により公道のマンホールに直接設置することもありますが、その場合は、下水道に一定の流量が確保されていることや下水道管の大きさに余裕があることなどが必要になります。また、車両の通行の妨げにならないことも必要です。

2つめは、マンホールの下部に便槽が整備されているタイプです。

このタイプは、下水道に接続されておらず、便槽に大小便を溜める方式です。最終的には汲み取りが必要になります。

(災害用トイレの種類と特徴はこちらを参考にしてください)

マンホールトイレの仕組みの概要(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
マンホールトイレの仕組みの概要(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

いずれのタイプも主に指定避難所や公園等に整備されています。

皆さんが避難する避難所等にマンホールトイレがあるかどうかを事前に確認しておくことをお勧めします。

国土交通省の下水道部は、マンホールトイレの技術的なことや整備に関することを「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」としてまとめています。

マンホールトイレを整備する人を対象にしたガイドラインとなっていますが、快適なトイレ環境をつくるためのチェックリストなど、一般の人にも分かりやすいようにイラストでも紹介されていますので、関心のある方はぜひご覧ください

東松島市でのマンホールトイレの使用と改善の取り組み

東日本大震災でマンホールトイレを実際に使用した市町村の1つに宮城県東松島市があります。

震災当日、東松島市では大塩市民センターと矢本第一中学校の2か所にマンホールトイレが設置されました。大塩市民センターについては、自主防災組織が中心となって設置し、矢本第一中学校については、学校職員と自主防災組織が設置しました。

このような対応ができたのは、マンホールトイレの工事完了時に自主防災組織等へ説明して、情報を共有しておいたことがよかったと考えられています。

ただし、すべてが上手くいったわけではありません。

たとえば

「マンホールトイレの設置場所が避難スペースから離れていて使いにくい」

「照明がないので夜間に怖い思いをした」

「足場がぬかるんでしまいドロドロになってしまった」

「トイレの上屋が風で飛ばされそうになったり、はためく音がすごかった」

などです。

これらの課題を踏まえ、東松島市ではマンホールトイレの改善に積極的に取り組んでいます。

たとえば、トイレ室パネルは男女別々の色、鍵はもちろんのことトイレ室をパネル式にして、その中には棚やフック、女性用には防犯ブザーとサニタリーボックスもあります。トイレ内外に照明もあります。

マンホールトイレの内部(写真:東松島市)
マンホールトイレの内部(写真:東松島市)

東松島市のマンホールトイレに関するウェブサイト

東松島市の取り組みで進んでいるのは、マンホールトイレを日常のお祭りなどで、実際のトイレとして使っていることです。

これまでに、肉フェスやかき祭りなどで使用し、マンホールトイレ利用者に感想を聞いたところ約8割が「思ったより、良かった」と回答しています。

お祭りに来た人に使ってもらうことで、マンホールトイレの存在だけでなく、使い方を共有することができます。また、使用や維持管理についての課題も明確になります。そうすることで、改善がすすむのです。

さらには、小学校の運動会でもマンホールトイレを設営し、数多くの人が使用したという実績もあります。

小学校でのマンホールトイレの取り組み(写真:東松島市)
小学校でのマンホールトイレの取り組み(写真:東松島市)

下水道職員だけでなく、保護者や教職員と連携して実施したことも重要です。小学校は、災害時の避難所に指定されており、運動会に参加する人は避難することが考えられますので、運動会で利用や維持管理を実践しておくことはとても有益です。

このように平時に普段使いする取り組みは、全国的に広げるべきだと思います。

2023年9月29日に東松島市と共同で防災トイレフォーラムを開催します。

このフォーラムでは、東松島市のマンホールトイレを設置し、実際に使ってもらい災害時のトイレがどのようになっていると安心できるのかを学ぶ場にしたいと思います。

詳細が決まりましたら、日本トイレ研究所のホームページで案内しますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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