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導入した工事件数は3346件 仮設トイレから快適トイレになることで避難所のトイレが変わる

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

仮設トイレというのは、花火大会や野外フェスなどで一時的に設置するトイレのことを指します。仮設トイレの多くは、建設・建築現場で使用することを目的に開発されています。そのため、仮設トイレに求められることは、工事の邪魔にならないようにコンパクト、汚れや雨風にも強い、輸送しやすく壊れにくいことなどです。乱暴に言ってしまえば、快適性は二の次でした。

快適トイレの標準仕様とは?

ですが、時代とともに建設・建築現場のトイレにも、快適性やプライバシーへの配慮などが求められるようになってきました。そうしたなか、建設業界における職場環境の改善の一環として、建設現場のトイレを改善する動きが始まりました。2016年(平成28年)8月、国土交通省大臣官房技術調査課は、建設現場のトイレ改善を本格的に推進するため男女ともに快適に使用できる仮設トイレのことを「快適トイレ」とし、それに求める機能を決定しました。下図に示されている1~11番までの機能を有することが必須となります。

主な機能としては、洋式トイレであることや水洗機能(簡易水洗含む)を有していること、できるだけ臭いがしない構造になっていること、照明設備がついていることなどがあります。

快適トイレの標準仕様イメージ(出典:「快適トイレ」の仕様を満たす工夫事例集 国土交通省大臣官房技術調査課)
快適トイレの標準仕様イメージ(出典:「快適トイレ」の仕様を満たす工夫事例集 国土交通省大臣官房技術調査課)

2020年3月24日、「快適トイレ」が全国の建設現場に広まりつつあることを示す事例集が国土交通省から公開されました。

まだまだ課題はありますが、仮設トイレは着実に良くなっています。

快適トイレの設置率は39%

国土交通省のデータによると、2017年(平成29年度)の国が発注する契約工事件数は8583件で、このうち快適トイレを導入した工事件数は3346件なので、設置率は39%です。本来であれば全工事に導入してほしいので、まだまだです。おそらく快適トイレの供給が追い付いていないのだと思います。

当研究所が快適トイレを開発する企業に調査を実施したところ、2016年(平成28年)に国土交通省が快適トイレの標準仕様を決定してから生産台数は3倍に増えていますので、この勢いを維持しながら現場に普及していくことが期待されます。

地域別 快適トイレ設置工事件数・設置率(作成:国土交通省大臣官房技術調査課)
地域別 快適トイレ設置工事件数・設置率(作成:国土交通省大臣官房技術調査課)

なぜ、快適トイレが建設現場に普及することが大事なのか?

快適トイレが建設現場に普及することが、社会にとってなぜ大事なのでしょうか?

結論を先に言うと、災害時の避難所に配備される仮設トイレのクオリティが上がるからです。もちろん、建築・建設現場で働く方々にとっての職場環境の改善は大切です。それに加えて社会的な意義があるという意味です。前述のとおり、仮設トイレの多くは建築・建設現場での使用を想定して開発されているため、避難所で高齢者等が使うことを想定していません。そのため、避難所では、仮設トイレの使い勝手が常に課題になっていました。トイレが不便だと、できるだけトイレに行かなくて済むように水分摂取を控えてしまいます。そうすることで、体調を崩し、エコノミークラス症候群等で死に至ることもあります。

しかし、災害時のために仮設トイレの改善を訴えても、メインの市場である建築・建設現場からの要望がない状態では、改善は思うように進みませんでした。そのため、建築・建設現場からの要望でトイレが変わることが必要だったのです。現場のトイレが変わり始めたことで、災害時の避難所やイベントのトイレも変わっていくことが期待されます。

こうした国および企業による一連の動きを経て、2018年(平成30年)7月豪雨、北海道胆振東部地震においては、避難所に快適トイレが届けられました。長年の取り組みにより少しずつではありますが、形になり始めています。

平成30年7月豪雨および平成30年北海道胆振東部地震で活用された主な快適トイレ(作成:NPO法人日本トイレ研究所)
平成30年7月豪雨および平成30年北海道胆振東部地震で活用された主な快適トイレ(作成:NPO法人日本トイレ研究所)

防災に取り組む方々には、ぜひ快適トイレの存在を知っていただき、平時から地域に快適トイレが普及するよう関係者に伝えて頂きたいと考えています。

また、災害時に仮設トイレを調達する際は「快適トイレ」を要望することが必要だと思います。現段階では、まだまだ数は少ないので届くかどうかは分かりませんが、意識して変えていくことが必要です。

日本トイレ研究所は、快適トイレのリストを公開しています。仮設トイレが必要な場合は、ぜひ参考にしてください。

コロナ時代の避難のあり方と仮設トイレ

新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた避難のあり方を考えた場合、密集を回避しなければならないので、地域の指定避難所(主に小中学校)への集中を避けることが求められます。考えられる選択肢としては、在宅、車中、ホテルなどの民間施設等です。ただし、どこに避難してもトイレが必要です。建物内のトイレに取りつける携帯トイレを備えることはマストですが、仮設トイレの分散配置も検討すべきです。仮設トイレは、洗浄水の補給、トイレットペーパーの補充、トイレ内清掃、ごみの回収、し尿収集等を一体的に行う必要があるので、トイレ環境を衛生的に維持管理する体制の構築も必要です。そのためにも、平常時からの運用が重要になると考えます。そして、移動性、衛生性、快適性を兼ね備えたトイレの開発が期待されます。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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