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ローソンのトイレから考える、Withコロナ時代におけるトイレのあり方

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
イギリスの公衆トイレ(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)

新型コロナウイルス感染症により、私たちの生活は一変しました。一刻も早く新型コロナウイルス感染が収束することを期待する一方で、Withコロナと言われるように、コロナと共存するライフスタイルにシフトすることが求められています。

本記事では、Withコロナ時代における公共トイレのあり方について考えます。

日本から14500か所のトイレが無くなる?

2020年4月28日、ローソンが新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、全国の店舗で客のトイレ使用などを原則中止することを発表、という記事がありました。トイレはドアノブや洗浄ボタン、トイレットペーパーホルダーなど、不特定多数の人が同じ場所を触れること、また、密閉された空間であることなどから感染リスクが高い場所だからです。極端なことをいうと、全国のおよそ14500か所の公共的なトイレが無くなることになります。

しかし翌日29日、「社会を支えるドライバーの方をはじめ、緊急の方などは従業員にお声掛けいただければご使用いただけます」というメッセージとともに、状況に応じてトイレ使用ができるように方針を変更しました。

物流に携わる方だけでなく、とくに排尿や排便に不安や疾患を抱えている方にとっては、外出時のトイレは非常に重要です。コンビニエンスストアのトイレが緊急避難場所になることも少なくないと思います。私たちの生活や社会参加はトイレによって左右されるのです。

コンビニのトイレが公共を担う

今回のローソンのトイレの使用可否について、多くの声が寄せられたようです。このことから、コンビニエンスストアのトイレは公共的な役割を担っていると再認識しました。20年以上前になると思いますが、コンビニエンスストアで積極的にトイレ開放に取り組んだのがローソンです。イギリスでは公衆トイレの調査をしたとき、トイレのことを「PUBLIC CONVENIENCE」と言うこともあると教えてもらいました。コンビニエンスストアとトイレは親和性が高い、と勝手に感心していたことを思い出しました。

イギリスの公衆トイレ(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)
イギリスの公衆トイレ(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)

ところで、公衆トイレは、誰が設置すべきか知っていますか?

法律で以下のように定められています。これは清潔を保持するためにトイレが必要という意味です。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

(清潔の保持等) 

第五条「市町村は、必要と認める場所に、公衆便所及び公衆用ごみ容器を設け、これを衛生的に維持管理しなければならない。」

出典:廃棄物の処理及び清掃に関する法律

ここで考えなければいけないのは、公衆トイレのあり方です。今回の件で、民間の施設が公共のトイレ機能を担っていることは明らかです。コンビニエンスストアだけでなく、ドラッグストア、スーパーなど、トイレを開放してくれている施設も同様です。

私たちは安全で安心できるトイレを使用したいと考えます。そのとき重要なのは、そこに管理者がいて、トイレが衛生的に保たれているかどうかではないでしょうか? そうであれば、今後、ますます民間への期待が高まります。

公衆トイレは必要か?

Withコロナ時代というものがどのようなものなのか分かりませんが、トイレという切り口で言えば、管理が行き届いていない公衆トイレの利用は激減すると考えられます。そこで、提案したいことが2つあります。

1つ目、市町村は公衆トイレの適正配置について見直すことが必要です。どういうことかというと、公衆トイレの中には昔からそこにあるから維持しているというものが少なくないと思います。以前に千代田区の公衆トイレの利用実態調査を行ったとき、多くの人に利用されているトイレと、ほとんど利用されていないトイレが明らかになりました。それをもとに千代田区はニーズの高いトイレやトイレ不足エリアに投資し、逆にニーズの低いトイレは撤去することを検討しました。公衆トイレは、清掃や補修、光熱費等の維持管理費がかかります。利用面や費用面を踏まえて、公衆トイレの適正配置を検討すべきだと思います。都市やまちは変化します。それに応じてトイレの配置も変化が必要という意味です。

2つ目は、トイレの共同運営です。利用者にトイレを提供することはサービスの一環であると同時にリスクもあります。新型コロナウイルス感染症等による感染リスクもあれば、犯罪やテロのリスクもあります。また、災害時は帰宅困難者などのために機能することが期待されます。

このようなリスクを抱えながらまちにトイレを整備していくには、民間の力が不可欠ですし、実際にそうなっています。ただし、一方的に頼るのではなく、公共の一部を担ってもらうからには、開発や支援、連携のあり方を考えることが必要だと思います。この仕組みをつくるのが2つ目の提案です。

Withコロナ時代に求められるトイレの価値は?

これまでのトイレは、清潔な空間づくりを追究してきたと思いますが、これからは感染予防、犯罪防止、災害対応という3つの観点から公共トイレのあり方を検討することが必要です。ユニバーサルデザインはもちろんのこと、建材選びや換気・給排水計画、汚水処理方法、清掃方法、ITを用いた管理等も含め、トイレを構成する要素を見直しながら再構築し、新たなトイレ価値を生み出すことが求められます。

ここ数年で何度か、中国とトイレのこれからについて意見交換しました。中国は圧倒的な資金力と猛スピードで挑戦を繰り返すことで、トイレ改善を進めています。国をあげてのトイレ革命が推進力となっています。

中国厠所革命(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)
中国厠所革命(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)

何度か話し合う中で、日本が有するトイレの価値も明確になりました。それは「安心」という目に見えない価値です。もちろん、安全という土台がなければ「安心」は成り立ちません。また、資金と技術だけでは手に入れることができません。

今後、新型コロナウイルスに限らず、他のウイルスが現れることもあります。トイレは最も汚れやすい場所だからこそ、あらゆる叡智を結集して「安心」という価値を生み出すことが必要です。Withコロナ時代には、そんな挑戦が求められていると思います。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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