感染症予防 手洗いが基本 病原体を取り除きつつ皮膚を守る

トイレで手の触れる主なポイント(イラスト作成:井上きみどり)

トイレには、多くの人の手が触れる場所がたくさんあります。たとえば、「ドアの取っ手」「カギ」「洗浄レバー・スイッチ」「トイレットペーパーホルダー」「便座」「フタ」などです。これらにはウイルスが付着している可能性があります。そのため、トイレ使用後の手洗いはとても大事です。

イラスト作成:井上きみどり
イラスト作成:井上きみどり

1時間当たりに平均23回、顔を触る?

手洗いが大事な理由は、私たちは頻回に手で顔を触り、目・鼻・口にウイルスを運んでしまうからです。ニューサウスウエールズ大学の医学生(合計26人)を対象にした調査では、1時間当たりの顔への接触回数は平均23回でした。

厚生労働省・経済産業省の資料によると、手洗いなしの状態で100万個あった残存ウイルスが、手洗いを丁寧に行うことで数十個まで除去できるというデータが記載されています。手洗いというシンプルな行為が、感染症予防として大きな役割を担っているのです。

手洗いの説明に入る前に、皮膚の構造を大雑把に理解する必要があります。皮膚の表面は、汗の成分、毛穴から出る皮脂、皮膚常在細菌で構成される皮脂膜で覆われています。このおかげで外部からの感染を防いでくれているのです。最近は、腸内細菌叢(そう)という言葉をよく聞くと思うのですが、皮膚常在細菌はこれの皮膚版です。

手洗いの3つのレベル

では、手洗いについて説明します。

手洗いには「日常的な手洗い」「衛生的な手洗い」「手術時の手洗い」という3つのレベルがあると言われています。

「日常的な手洗い」というのは、目に見える汚れを落とすための手洗いで、常日頃、私たちが一般的に行うやり方です。

「衛生的な手洗い」は、調理など直品を取り扱う人や医療に携わる人の手洗いで、目に見える汚れはもちろんのこと、日常生活において一時的に皮脂膜にくっついた菌(皮膚通過細菌)も落とすことを目的としています。

「手術的手洗い」は、皮膚通過細菌を完全に除去し、さらに皮膚常在細菌も可能な限り低減させることを目的としています。医師が手術をする際の手洗いです。消毒薬添加洗剤で手を洗い、その後、手袋をつけます。

ところで、新型コロナウイルス感染症予防としての手洗いは、どれが効果的なのでしょうか?

手洗い方法と注意点について、伊与亨氏(北里大学 医療衛生学部 公衆衛生学研究室)に話を聞きました。

以下、その内容をご紹介します。

絶対に手を洗った方がいいタイミングとは?

加藤 今回の新型コロナウイルス感染症予防を考えた場合、どのレベルで手を洗うべきでしょうか?

伊与 インフルエンザの予防と同じく、手指に付着しているかもしれないウイルスを落とす「衛生的な手洗い」が必要です。ウイルスは何処にいるかわかりません。ものの表面や手のひらなどに潜んでいます。トイレに限りませんが、ものを触ったら手洗いが基本です。なお、新型コロナウイルス感染症とは、コロナウイルスという新型ウイルスによる感染症ではありません。風邪などを引き起こすコロナウイルスの「新型のもの」による感染症です。

加藤 「ものを触ったら手洗いが基本」とのことですが、そうすると1日に数えきれないくらい手を洗うことになってしまいます。とにかく手で顔を触らないようにすることも必要ですね。

また、絶対に手を洗った方がいい!というのは、「外出先からの帰宅時」や「調理の前」、「食事前」、「トイレの後」でよいでしょうか?

伊与 言われるとおり、ものごとには限度があります。手洗いの基本は基本として理解していただき、毎回できない場合は手で顔を触らないように意識することは大事です。鼻をかんだとき、くしゃみをしたとき、病人のケアをしたときなどのように手が汚れた場合はもちろんのこと、「外出先からの帰宅時」や「調理の前」、「食事前」、「トイレの後」の他、「掃除やゴミ出し」を行ったあとも加えていただくと良いと思います。いずれにしろ、手洗いをする習慣をつけたいですね。

イラスト作成:井上きみどり
イラスト作成:井上きみどり

泡立てて手洗いをしたあと、しっかり流す

加藤 手洗いの手順や洗い残しについて次のような資料をつくったのですが、補足や注意点はありますか?

(手洗い資料のダウンロードは日本トイレ研究所のサイトからできます)

作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所
作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所

伊与  手洗いのポイントはゴシゴシこするのではなく、しっかり泡立ててその泡で病原体を包み込んで取り除くことです。過剰にゴシゴシ洗って皮膚荒れをしては本末転倒です。そして、ステップ8の流水時間に注意して下さい。ステップ1~7までをしっかりと実行すれば30秒程度はかかり、衛生的な手洗いの時間として十分でしょう。ステップ8では、流水で15秒程度しっかり流すという注意が必要です。ステップ7まで実行すると、泡立てた石けんの中に病原体が存在しています。ステップ8でしっかりと流さないと、病原体が手に残る可能性があります。また、温水が出る場合は、冷水よりも温水を使う方が手洗いが楽ですし、ウイルスも落としやすくなるでしょう。冬の冷たい水で流水15秒は大変かもしれません。

なお、ステップ1~8までを2回行うと、手に残る病原体をさらに低減できるという科学的な論文も報告されています。それから、手洗い後の水道栓の閉め方や照明スイッチ等に触ることにも注意が必要です。せっかくきれいにした手で給水栓や照明スイッチを触ると、それらについているかもしれない病原体を手に再び付着させるからです。私は、肘などで給水栓を閉めたり、スイッチを触っています。さらに、ドアの取っ手も手のひらで触らないよう注意しています。

加藤 自動水栓でない場合、手洗い後にどうやって給水栓のハンドルを閉めるか悩みます。ひねり式のハンドルの場合はペーパータオルで閉めればよいですか?

伊与 給水栓のハンドルをペーパータオルで閉めるやり方も解説されています。ただ、ウイルスはペーパータオルの目幅を簡単に通り抜けますので、注意が必要です。給水栓のハンドルを石けんで十分に洗浄・水洗してから手洗いをすれば、手洗い後に給水栓のハンドル触っても大丈夫でしょう。

手に残った水分をしっかり拭き取る

加藤 手洗い後、どのように乾燥させるのがよいのでしょうか?

伊与 ペーパータオルで、手に残った水分をしっかりと拭き取ります。その際、洗い残しの可能性が高いところの水分もしっかりと拭き取りましょう。水分を拭き取った後のペーパータオルは捨てます。ペーパータオルが使えない場合、清潔な布タオルを使います。複数枚用意して随時交換して使います。布タオルを他人と共用してはいけません。

加藤 手洗いの重要性はよく理解できるのですが、手を洗いすぎて荒れてしまう場合、どのようにケアするとよいのでしょうか?

伊与 人間の皮膚は皮膚常在細菌との共生関係にあります。皮膚常在細菌は皮脂を食べて高級脂肪酸(オレイン酸・ステアリン酸・パルミチン酸など)を作り、皮膚常在細菌のバリアを作ります。手洗いで皮膚常在細菌も落ちますが、皮膚常在細菌は毛穴などからはい出して、皮膚で再度増殖してバリアを作ります。過度な手洗いは、この皮膚常在細菌のバリアが損傷した状態で、皮膚表面の角質層などが荒れた状態でしょう。ただし、手荒れの程度も考えなければなりません。手荒れがひどいときには、皮膚科のお医者さんの診断を受けて下さい。治療を必要としない、一般的な手荒れケアや手荒れ予防では、手洗い後にワセリンやハンドクリームを手にすり込みます。

その際、手のひらや手の甲だけでなく、指先・爪の周囲、指の間などに優しく丁寧にすり込むことが大事です。なお、ハンドクリームには、用途(保湿効果、角質を柔らかくする効果、ビタミン補給等)に応じて様々なものがあります。ハンドクリームを選ぶ際、ドラッグストアの薬剤師さんに相談するのが良いでしょう。

手荒れをしやすい方もいますので、手洗いのやり方は一人ひとりにあわせて取り組む必要があります。手洗いでは、皮膚にいるかもしれない病原体を感染を生じさせない量まで取り除きながら、皮膚の健康もまもる、この両者をバランス良く考える必要があります。

加藤 ありがとうございました。

今回、教えて頂いたことをまとめると、以下のようになります。

感染症予防 手洗いのまとめ

1.手洗いをすべき5つのタイミング(外出先からの帰宅時、調理の前、食事前、トイレの後、掃除やゴミ出しのあと)

2.泡立てて手洗いをしたあとは、流水でしっかり流す

3.手洗い後はペーパータオルで洗い残しの可能性が高いところの水分もしっかり拭き取る

4.手洗い後のワセリンやハンドクリームは、指先・爪の周囲、指の間などにも優しくすり込む